……ただいま
「ここだよ」
馬車を降りたサミュエルが私を案内してくれたのは、あの人の眠る場所だった……
「はい、これ」
そういって手渡されたのは死者に供える白い花のリース。
あ……この黒い服。私服にしては地味だと思っていたけれど……まさか、最初からそのつもりで?
「募る話もあるだろうし、俺は先に馬車にいるから」
「……サミュエル」
「ゆっくりお爺さまと話してよ」
ありがとう。
あの人が亡くなった時、私は重い病にかかってて治った頃には既に葬儀は済んだ後だった。
しかも、その後遺症で歩くこともままならず、ベットに寝たきりになってしまって……結局、一度も来ることが出来なかったのよね。
「あなた……」
お元気でしたか?
姿が変わっていて驚きましたか?
私ですよ、あなたの妻のユリアです。
ようやく、ようやく会いに来ることができました。
あなたと私の優しい孫のおかげです……
リースを墓に供えて目を瞑ると目の前に元気だった頃のあの人の姿が浮かぶ。
生まれ変わったことや、異世界である日本という国にいたこと。
そして、この世界に再び来たこと。
いろんなことを一方的に話して、話して、話して……
「それじゃあ、また来ますね」
名残惜しいけれど、サミュエルも待っている。
そう思って立ち上がり馬車へと戻ると、彼は馬車の中ではなく外で待っていた。
「サミュエル。中で待っててくれてよかったのに」
「お祖母様、いや、優里亜が戻ってくるのを一番に確認したくてさ」
「もう……こんなに冷えて」
「優里亜も……」
頬に触れるとひんやりとする。
それを咎めるとサミュエルは私の手を握り同じように返した。
ちらりとこちらを見つめる彼にまた、どきりと胸が弾む。
「さ、乗って」
「え、ええ」
どうして、私、孫にドキドキなんてしてるのかしら?
そう思いながらも、家までの馬車の中、心臓の音がサミュエルに聞こえていないかそればかり考えていた。