日本人はやっぱり?
ーどれぐらい、泣いていただろうか?
目玉が溶けてしまうのではないかというぐらい泣いてしまっていた私だったけれど、喉の渇きとともに徐々に感情が落ち着いてきた。
「お祖母様……ごめんね。これを」
そっと彼が差し出してきたのは濡れたタオルだった。
受け取り顔を拭って、サミュエルと向き合うと叱られた仔犬のような顔でこちらを伺っている彼の姿に先程までの悲しい気持ちが少しだけ消えて楽になった。
「取り乱してごめんなさい」
「いや、俺が、悪いっ!お祖母様には、新しい家族もいたんだろ!?それを、俺が……」
「もういいの。大丈夫だから」
「……とりあえず、ここを出ようか」
「ええ」
研究の場所だけあって、綺麗にはしているけれども話をするには適さない。
帰れるわけでもないのだから、この場所にこだわる必要もなく、サミュエルにエスコートされてサロンへと案内された。
どうやらこの部屋は本邸の一部だったらしい。
スティカの好みで整えられた屋敷は何処も綺麗な花が飾られて温かみがある。
メイドの入れてくれたお茶を一口飲むと、生前好きだったお茶だった。覚えていてくれたと思うと昔の私が顔を出し嬉しさが溢れる。
そんな私の様子を見ながら、サミュエルは話す。
とりあえず、私の存在……私がユリア・マルクス・カーターである事は内緒にしたほうがいいと言う。
確かにサミュエルはすぐに信じてくれたけれど、こんな見た目も年齢も違うのだ。真実を伝えても誰も信じては貰えまい。
フォルク……スティカ……
2人の顔を思い描くと少し寂しい気持ちにはなるが、混乱させない為にもその方がいいだろう。
「お祖母様……いや、これからは優里亜と呼んでもいいかな?」
「ええ、今の私がお祖母様じゃおかしいものね」
「ありがとう、優里亜。これからの予定なんだけど……俺の婚約者ってことにしてもいい?」
「え!?」
「いや、その……年頃の女性を家に住まわせるいい口実がこれしか思い浮かばなくて!!おばあ、いや、優里亜さえ良ければ何だけど」
「私はいいのだけれど、サミュエルこそ、大丈夫なの?婚約者とかは……」
「いないよ。恋愛結婚がしたいって破棄されちゃったし。だからこそ、俺も必死で魔法陣の研究をしていたんだけど……」
まぁ……そうだったの。
こんなところでも、王太子の革命は影響していたのね。
「じゃあ、お願いしようかしら……」
「優里亜こそ、俺で大丈夫?」
そういえば、サミュエルは今いくつなのかしら?
それに、私の年齢だと行き遅れと言われてしまうぐらいだけど大丈夫なのかしら??
「もちろんよ。でも、私……もう20過ぎてしまっているのよ?いいのかしら?」
「!嘘だろ……16だって言っても通じると思うんだけど。ああ、俺は今23だ」
ああ、日本人。
海外でお馴染みの幼く見られるが、こんなところでも影響しているのね。
「それと、20でも問題ないよ。医療が発達して子どもを作るのはそれぐらいの年齢の方がいいってことで、平均結婚年齢も上がったんだ」
23……私がこの世界を去った時、10歳だったからもう、13年も経っている……
そりゃあ色々価値観とかも変わってもおかしくないわね。
それに、そこは日本でも似たようなことを言われていたような気がするわ。
「で、花嫁修行としてお祖母様が生前住んでいたあの別邸で暮らして貰えたらと父さん達には言うつもりだ」
別邸……
晩年を過ごしたあそこでまた生活できるというの?
思い出すだけで嬉しくなりまたウルウルと涙が溢れそうになるのを堪える。
「実質、お詫びのプレゼント代りなんだけど……俺の一存でどうにかなることじゃないからさ」
「サミュエル……貴方の気持ちが1番嬉しいわ」
「それじゃあ、今日、父さん達が帰ってきたら話そう。その前に優里亜の服を整えようよ。その服も可愛いけれど、此処では見ないからね。そうだ、街に出かけよう!」
「え、ええ……?」
いいことを思いついたというように立ち上がったサミュエル。
そういえば、私、パジャマのままだったわ。
確かに人様に見せられる格好ではないと、差し出された手をとり、街へと出かけることにした。