5話 色違いの夢
僕はそのまま寄り道もせずに教えてもらったばかりの自室に向かうことにした。
「部屋の番号は……」
カードキーを見るとそこには「301」と書かれている。
部屋の案内図を確認するとエレベーターすぐの部屋のようだ。
カードキーを部屋の入り口の端末に通すと自室への自動ドアが静かに開いた。
部屋の中に入ると再びドアは閉まりロックがかかる音がする。
完全なオートロックシステムのようだ。
「本当に何もかもが最新の技術ばかりなんだ。慣れるまでが結構時間かかるかもしれないな……」
「でも最新技術だからこそ、覚えれば生活が楽になるんじゃないかしら?」
いつの間にか黒椿は、刀の姿から人の姿へと変わっていたようだ。
部屋の中を見渡しながら隣でそう答えている。
「それはそうだけどね。というよりも人間の姿になっても大丈夫なのか?」
「この部屋自体にプライバシーの保護のための結界が施してあるみたいだし、こっちの姿のほうが何かと行動するのに便利なのよ」
「そういうことならいいけど……。そういえば由芽のペンダントについて何か知ってそうな口ぶりだったけど教えてもらえないか? 確か大型精霊武器のコアとか学園長は言っていたけど……」
「そうね。たしかにあれはコアではあるけれど本体ではないわよ。実際にはコアの制御装置で同じものが7つ必要だわ」
「大型精霊武器については何か知っているのか?」
「せっかくの学校なのだからそのあたりは授業で勉強できるわよ。それよりも少しだけでも睡眠とったほうがいいわよ。あなた全然寝てないのでしょ?」
確かにこのところ夜も”ドレッド”の襲撃がないか警戒しながら過ごしていたので寝不足気味だった。
「話をはぐらされた気もするけど……そうだな。悪いけど、夕食になったら起こしてくれ」
「わかったわ」
安全な施設に入り案したこともあるのだろう、僕は黒椿に促されるままベッドへと向かった。
疲労が結構ピークだったのだろう。
横になるとすぐに眠気が襲ってきた。
また夢を見ているのだろうか。
気が付けば僕は暗闇の中にいる。
しかしどこか浮遊感のある空間だ。
「……まるで黒椿と夢で初めて会った時と同じ感覚だ」
暗闇の中にいるはずなのに、何かに自分が引き寄せられている。
もしかしたら何かではなく、誰かかもしれない……。
黒椿のこともあったため、そう思い暗闇に向け声を出した。
「そこに誰かいるのか!」
しかしそれに答える声は聞こえてこない。
だが何かが動いたのを感じ、暗闇の中を感覚を頼りに何かに向け歩き始めた。。
しばらく歩いていくと暗闇の場所から深紫に染まる場所へと景色が移り変わっていく。
それと同時に引き寄せられている感覚からその何かの存在感を感じられるようになってきた。
その何かに近づいてみるとそこには天井を見上げている少女がいた。
「君はこんなところで何をやっているんだ?」
突然のことに少女は驚いたのかこちらを振り向くなり、一歩後ずさった。
「待ってくれ。君はもしかして黒椿と同系統の精霊なのか?」
しかしその姿を間近で見た僕はそう聞くしかできなかった。
それもそのはず、少女の姿はまるで黒椿と瓜二つだったのだ。
違いといえば、衣服と髪の色の違いだけだろう。
「君は黒椿と何か関係が……」
「お兄さんはまだ知らなくていいことですよ。それに黒姉が呼んでますよ」
「えっ?」
まるで少女の言葉がきっかけとなったかのように僕はまるで波に流されるかのように来た道を流されていく。
「またいずれ会いましょう。お兄さん」
彼女は流される寸前そういうと姿を消した。