4話 学園長
2人が通されたのは、どうやら学園長室のようだ。
室内には、精霊や武器の研究資料などが大量に置かれていた。
どうやら学園長の研究室も兼ねているのだろう。
テーブルに着いた樹と由芽。
その反対側に学園長が座るとそれぞれの前に飲み物とサンドイッチが並べられた。
「ここまでご足労いただいてすまない。まずは食事でもとろう」
「ありがとうございます」
2人は学園長にお礼を言うと、食事に手を付けた。
サンドイッチのパンはとても柔らかく、はさんである素材は採れたてのもののようで素材そのままでもほんのりと甘みを感じた。
それぞれが思い思いに食事を進めていると学園長から声をかけられた。
「早速だがその剣と妹さんが持っているペンダントについて少し伺いたいのだがいいだろうか?」
「いいですが、妹のペンダントもですか?」
となりで由芽も首をかしげて胸元のペンダントを見えるように出した。
「そう。そのペンダントに使用されている石は、とある大型精霊武器のコアのものである可能性があるんだ。それはどこで?」
「これはお母さんの形見なの」
由芽は少し小さい声で言った。
「そうか……。お母さんの名前は?」
そう聞かれたとき由芽はうつむいてしまった。
「友里。黒羽友里です」
かわりに僕がそう答えると母親のことを思い出したのだろう。
由芽の目には今にでもこぼれそうなほどに涙で目が潤んでいる。
それを雰囲気で感じ取った僕は代わりに学園長の質問に答えていくことにした。
「黒羽友里だと……。もしかして黒羽研究所の第一主任のか!」
どうやら学園長は、何か知っているようだ……。
「すみません、母親が何をやっていたのかはわかりません。幼い時に両親ともにドレットに襲われてしまったので……」・
「それはすまない。つらいことを聞いてしまったな」
「いえ、それでペンダントがその大型精霊武器のコアの可能性があるということはわかりましたが本体は発見できているんですか?」
学園長は残念そうに首を振った。
「まだ発見できていない。なんせ精霊武器は未だに謎が多すぎるのでな」
僕は食事を終え、飲み物を口にした。
学園長も同じく飲み物を飲むと、再びこちらに目を向けた。
「それでは君の刀のことについて教えてくれるかな。私が見るにいまだ発見できていない古代精霊武器だと思うのだが、それをどこで?」
僕は、この刀と出会った経緯について話した。
学園長はそれをしっかり聞き終えると、少し考えるこむ表情を浮かべた。
「郊外ではドレットの行動範囲が広がっているのか……? これは至急郊外専門の舞台の設立を急がなければ……」
まるで独り言のようにつぶやいていたのだ。
「どうかしましたか?」
「ああ、すまない。ではその刀は今休眠状態ってことでいいのかな」
「そうだと思います」
「もしまたその刀が目覚めたときには人間体の姿と話をしてみたいものだ」
「それについては黒椿の意思を尊重させてください」
「そうだな。精霊もモノではない感情を持つ同じ生き物みたいだからね」
学園長は納得したようにうなづくと、自分の前のコーヒーを飲み席を立った。
「長い間引き留めてしまってすまなかった。もう少しその剣についても知りたいところだがまたにしよう、あとのことは彼女に任せてあるから学校のことについてなどは彼女から聞いてくれ」
そこにはここに入ってくるときに入校エントランスで話していた女性が立っていた。
学園長室を出た3人は、軽く話をしながら寮へと向かった。
「さっきはごめんね。わたしもこの前赴任したばかりで慣れてなくて……」
「いえ、それよりもこちらも教師とは知らずにすみませんでした」
「ごめんなさい……」
二人が謝るのに対して女性は顔の前で両手で全力の否定する姿を見せていた。
「私がこんなしゃべり方なのがいけないんだから謝らないで。そういえば自己紹介がまだだったわね。私は西みどり。まだ担当学年などは決まってないわ」
「僕は黒羽樹です」
「……由芽です」
みどりに続くように僕たちも自己紹介をしていると寮へ着いたようだ。
寮は、5階建てでそれぞれ1人ずつ1室与えられるらしい。
「それではこれがそれぞれ部屋のカードキーです。基本自分の部屋のある階にしか降りれません」
どうやら2・3階が男子の部屋で、それより上の階は女子部屋のようだ。
そう聞いた由芽は、不安そうな顔をしながらこちらを見た。
「……兄の部屋に行くこともできないんですか?」
「事情が事情なだけに1か月は行き来できるように話を通してありますよ。でもお兄さんの方が女子寮に入るのはいけませんよ」
「ええ、わかっています」
「1階は男女共用スペースなので夜10時まではそこで話してくださいね。それでは由芽さんはもう少し女子寮の説明がありますので……」
2人はそのまま由芽の部屋までエレベーターで向かっていった。