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2話 黒い日本刀

 その日もまた夢を見た。

「こんばんわ、樹くん」

 そう語りかけてきたのは昨日の夢に出てきた少女だ。

「君は本当に誰なんだ?」

「それは私からは言えないわ。でもそうね、明日あなたたちが寝泊まりしている洞窟の最深部にいらっしゃい」

 少女は困ったような表情をしながら、どこか楽しそうに声を弾ませていた。

「洞窟の奥に何があるんだ?」

「それはあなた自身が確かめなさい」

「どういうことだ!」

「あなたが私を持つにふさわしい人ならば必ず道が開けるわ。そしてあなたはそこで選択することになるわ」

 それだけ言うと昨日と同じように彼女の姿は薄れていき、自然と樹は目を覚ました。

 時間としてはまだ夜が明ける前だろうか……。

「あの夢は、本当になんなんだ。でも彼女はこの洞窟の最深部に来いって。でもここって少し先に行ったら行き止まりじゃなかったか?」

 夢での会話が気になり洞窟の奥に目を向ける。

 (由芽が起きるまでは時間がある。少し調査してみよう)

 そう決めると松明に火を灯し、洞窟の奥へと進んでいった。

 洞窟の奥は最初行き止まりに感じたが、まるで何かに呼ばれているよう奥へと進むことができた。

 しばらく歩いていくといきなり開けた場所に出た。

「何だここは……」

 そこには、社と祀られるように一本の日本刀が収められていた。

 日本刀からはまるで長年使っている道具のような愛着を持ち、それに触れた。

 すると日本刀から発生した濃紺色の炎が全身を包み込んだ。

「っ!」

 樹は驚きのあまり日本刀から手を放そうとしようとしたそのとき脳に直接声が響いた。

(そのまま私を放していいの? 君は”ドレット”と対抗するための力がいるんじゃなかったの?)

 その声には聞き覚えがあった。

「この声は……。そうだ、夢に出てきた少女!?」

 (そうね……。なら覚えているでしょ? 選択しなさいって言ったことを。あなたはこの力をここに捨てて生きていくのそれとも……)

「そんなの決まっている! ”ドレッド”を倒せるのなら悪魔にだって魂を売ってやる!」

(私は悪魔じゃないけど……。 意志が固いのなら私の名前わかるはずよ。一度深呼吸して刀に意識を集中しなさい)

 樹は大きく深呼吸して刀に意識を集中させると、まるで今までせき止められていた水が流れ出したかのように頭に直接流れ込んできた。

 そして自然とその言葉を口にしていた。

「破滅と創造せし刃。汝の名は”黒椿”」

 直後炎は手の甲に紋を刻み、刀に吸い込まれていく。

 その場に静寂が訪れたと思われた瞬間、洞窟全体に大きな揺れと咆哮が響き渡った。

「なんだこの咆哮は?」

(この気配”ドレッド”ね。それも洞窟の入り口から……)

「入口っ! 由芽が危ない!!」

 それを聞くなりすぐに洞窟の入り口に向け走り出す。

(まだあなたの体では私を扱いきれないでしょうから、少しだけ力を貸してあげるわ)・

 すると再び炎が体を包み込んだ。

 しかし先ほどとは違い、炎は服に同化するようにまとわりついている。

 その瞬間体がまるで浮いているかのように軽くなった。

「体の奥からなんか力が湧いてくる!」

(その力でもっとスピードが出せるはずよ)

 いわれた通り、一歩踏み込むとそれに帰ってくる跳躍力が数倍に上がっていた。

「これなら間に合う!」

 一心不乱に由芽のもとへと急いだ。

 

 洞窟の入り口では、小型サイズのドレッドが今にも由芽に襲い掛かろうとしている。

「いや、こっ来ないで!」

 その瞬間、由芽の前に空色の薄い壁が形成された。

 由芽はそれに気が付かず腰を抜かし、涙目になっている。

(あの障壁はもしかして……)

 黒椿が何やら思考しながらつぶやいていた。

「由芽には手を出させねー!!!」

 しかし無我夢中に刀を抜き放つ。

 ドレッドも殺意を感じ取ったのか由芽を襲うのではなく、こちらに向けて突進してきた。

 (あの障壁については後回しにしよう……。やつに知能はない。刀を大きく振り上げ、刀にまとった炎で”ドレット”を焼き切るイメージで振り下ろすのだ)

 脳に伝わる声に従い、無我夢中に刀を振り下ろす。

 するとまるでバターを切るかのように真っ二つに切り裂いた。

 

 ドレットの気配は完全に消えた。

 すぐさま由芽に近づいていき抱きしめた。

「1人にしてごめん。怖かったよな。もう大丈夫だからな」

 その言葉を聞いた頭をなでられた由芽は、パニック状態が落ち着き、まるで赤子のように泣き出した。

 樹は由芽が泣き止むまであやすように頭をなで続けた。

 その日は、洞窟から移動することなく二人一緒に眠りについた。

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