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1話 ドレットの襲撃と謎の夢

 10年の月日が流れた今、学園都市をはじめとする大都市は政府の介入により復興への兆しが見え始めた。

しかし大都市から少し離れた田舎地域は援助もなく、いまだに大震災の爪痕を大きく残している。

 そんな中特にこの地域にいるのが行き場を失い、親を失った孤児たちだ。

孤児たちの唯一の希望が教会や孤児院だ。

 教会や孤児院に巡り合えなかったものは、ほとんどが”ドレッド”に襲われ無残な姿で発見されることが多かった。

最初はそんな子供たちをかわいそうに思った老夫婦が孤児院を開いたのがきっかけだった。

行き場を失くした子供たち数名を自分たちの家に招き寝食を提供した。

 その行動は、瞬く間に多くのものに広がり、協力してくれる人も多かった。

しかしその中には、子供たちを性奴隷としたり、富裕層へ売買目的で寝食を提供するものまで現れてしまったのだ。

 事件が起こった後、ようやく重い腰を上げた政府により孤児院を開くための条件が付けられた。

 

・不定期な職員の監査訪問に対応できること。

・一切の支援もなしに子供たちに十分な食事を与えられること

・子供たちに労働させないこと

・人身売買や奴隷として子供を扱った場合、即刻死刑に処すること


 などが発表された。

 それにより孤児院は一気に減ってしまったが、教会や継続していく孤児院が協力し合い解散した孤児院の子供たちを何とか受け入れていた。

 

 そんな中、黒羽樹は妹の由芽と一緒に老夫婦が経営する孤児院に預けられている。

 二人もまた大震災によって親を失ってしまったのだ。

 預けられた子供たちは最初のうちはお互いを警戒し、仲良くなろうとはしていなかった。


「今日は天気もいいからピクニックでもして、お外で食べましょうか」


 老夫婦は、そんな風に突破圧的なイベントを開催していった。

 そして次第に俺たちは、警戒心を解いていき仲良くできるようになっていく。

 しかしそんな幸せは長く続かなかった。

 前触れまなく突如として現れたドレッドの襲撃のせいだ。

 ドレッドは、最初に老夫婦の頭を割り、次に近くにいた子供を食い荒らし施設は血まみれに染まる。

 ついにドレッドは、俺とその妹の由芽に襲い掛かってきた。

「っ! おにいちゃん!」

 僕は必死に妹を守るために、彼女を抱えた。

「由芽! しっかりと捕まってろよ!」

 障害物を利用して、二人はドレットからの攻撃をしのぎながら無我夢中に孤児院の外へと駆け出す。

 孤児院を出た後も、とにかく必死に走った。

(とにかくあの場所から離れないと!)

 そんな中、由芽が何かを見つけたのか声を上げた。

「おにいちゃん、あんなところに洞窟があるよ」

「えっ、本当だ。今夜はあの洞窟でやり過ごすぞ!」

 走るのをやめ、洞窟を確認すると見つけた洞窟へと向かった。

 洞窟かまるで神域というのだろうか、空気が洞窟の外とまるで違って感じられた。

 奥深くまで道は伸びており、暗がりで何が潜んでいるのかもわからない。

「外も暗くなってきたし今日はこれ食べて寝よう」

「うん、あの化け物追ってこないよね?」

「大丈夫だ。孤児院から結構離れたはずだから」

 由芽に固形バーを食べさせ眠りにつかした。

 時折、涙を流しながら名前をつぶやいている。

 孤児院の人たちのことを思い出しているのだろう。

 由芽の頭をなで、僕も固形バーを食べてから眠りについた。

 

 その夜夢を見た。

「君は、これから何の力も持たないまま生きぬけるかしら?」

 唐突に表れた濃紺色のワンピースを着た少女はまるで未来を知っているかのように、僕に問いかける。

「君は何者なんだ? それに未来のことなんてわからないだろ!」

「そうね、でも想像はできるわよ。何の力も持たないあなたは妹も守れないで、ドレットに殺されるだけよ」

 そういうと少女は、まるで遠ざかるように薄れていった。

 手を伸ばし、彼女に触れようとするが、その手は空を切る。

「今日はそろそろ時間のようね。それに今のあなたでは私を握ることはできないわよ。あなたはまだ私の名前を知らないのだから」

 少女の姿は見えなくなり、僕は不思議な感覚に捕らわれながらも目を覚ました。


 由芽はまだ眠っている。

「さっきのは夢なのか?」

 先ほどの夢か定かではない出来事に、未だに混乱している頭を整理するため一度洞窟から出て深呼吸した。

 再び洞窟に戻るころには、由芽も目を覚ましていた。

「っ! どこに行ってたの?」

 少し涙ぐみながら、由芽はこちらに駆け寄ってきた。

「ごめん、ちょっと外の空気を吸ってきただけだ。とりあえず今日の分の飯と水分を確保しないとな……」

 僕は由芽の頭を撫でながらつぶやいた。

 ドレッドに急襲を受けたせいで荷物を持ってくる余裕がなかったのだ。

「じゃあ朝食はどうするの?」

 上目遣いで聞いてくる由芽に手に持っているものを見せた。

 洞窟から出たときに、偶然見つけた芋科の植物だった。

「とりあえずこれを食べよう。毒はないはずだ。」

 由芽は頷くと、近くの枯葉と木の棒の摩擦熱で火をつけた。

 しばらく芋を火の上で焼いていると次第に香ばしい香りがしてきた。

「おにいちゃん、もうそろそろいいんじゃない?」

「ああ、じゃあ食べようか」

 芋はどうやらサツマイモに近い感じで、甘みがあってとてもおいしかった。

 その後二人は火に土をかけてから洞窟へと戻った。

 

 樹たちは一休みした後、それぞれ別れ水と食料を探しに向かうことにした。

 由芽が「水浴びしたい!」と言い出したので、水の確保を由芽に任せ僕は食べ物を探すことにした。

 食材は洞窟から少し足を延ばし周辺を探ってみた。

 すると10年前の大震災前は畑だったのではないかと思えるぐらい、野菜らしきものが自生しているのが見つかった。

 多くとりすぎても傷んでしまうため、今日必要な分と翌朝分を収穫すると洞窟へと引き返した。

 洞窟に戻るが、由芽の姿はまだ見当たらず山の方を探すと言っていた妹の様子を見に行くことにした。

「山から水を運ぶのも大変だろうからな」

 しかし由芽が水の確保に立候補したのか失念していた。

 音を頼りに水辺に近づいていくと、そこには何も身に着けていない妹の姿があった。

 まずいと思い見つからないようにその場を離れようと後ろに下がった時、ペキッと小枝を踏んでしまった。

「誰かいるの!?」

「ごめん! 覗くつもりじゃなかったんだ!」

「えっ、お兄ちゃん? ……きゃあっ!」

 由芽は自分の姿を確認すると体を隠すように、しゃがみこんだ。

「あっちにいって!」

 それからしばらくすると由芽は服を着て、こちらに向かって歩いてきた。

「水浴びしたいっていったじゃん、バカ」

「本当にごめん!」

 再度深く頭を下げ、謝罪する。

「もういいよ。日が落ちるといけないから手伝いに来てくれたんでしょ。戻ろう」

「……ああ」

 そうして二人は洞窟へと向かい歩き出した。

 

 二人が洞窟に着いたのは夕暮れの終わりぎりぎりだった。

「もう夜だ。まずは火を起こさないと……」

「水は私が運んどくね」

 由芽はそういうと水の入った容器を少しずつ休憩しながら、洞窟の中へと運んでいった。

 その間に事前に準備しておいた枯れ木を組んで火を起こし、収穫してきた食べ物を調理し始めた。

 しばらくすると水を運び終えた由芽が戻ってきたので、食事を食べ始めた。。

「しっかりとした野菜がよく見つかったね」

「もしかしたらここは大震災前は農場だったものが野生化したものかもしれないな」

「でもこれで食事の心配はいらないね」

「さすがにいつまでもここにいることはできないぞ。いつあいつらが襲ってくるかわからないからな」

「そうだったね……。明日からはどうするの?」

「明日の昼にはここを出て、隣町に向かっていこうと思う。とにかく今日はもうゆっくり寝よう」

「うん……」

 さっきまで灯っていた火を消し二人は眠りついた。

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