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「ユータっ!」
パシッと机の天板を殴るように、その幼女は俺の目の前に紙片を叩き付けて鼻息を荒くする。
「あ? あーーー」
「あーーーじゃない!!」
その紙片が何であるか理解した時、俺は無意識に間延びした声を出していた。
被せ気味に声を荒げる悠子に、俺は紙片を摘まみ上げる。
いわゆる進路志望というヤツだ。
第一志望から第三志望までの大学名を書き、教師はそれを踏まえて教導する。
もしくは現実を教え諭す。
何故か進学が前提のこの儀式は、就職希望者すら進学の対象にしていた。
就職するためにはこの学校とか、既に日本語としてどうヨ?と常々思っている。
「今の日本に勇者って職業があるかっ!!」
就職希望者に学校を斡旋するんだ。勇者になりたいヤツに勇者になるための学校を照会してみせろって意味だったんだが、困った教師(教員生活二年目の独身お姉ちゃん先生)は悠子に泣き付いたようだ。
「容子ちゃんは『難しく考えないでね。やりたいコトやなりたいモノでも構わないんだから』って言ってたんだが」
「一般常識範囲内での話でしょうが!」
ある意味悠太は勇者になったという視線で、俺たちの会話を盗み聞きしているクラスメートは放っておき、
「例えば大統領になりたいってのは、一般常識範囲内の話か?」
子供じみた屁理屈で悠子の揚げ足を取ろうと言葉を弄ぶ。
「伝説の勇者になりたいってよりはね!」
一刀両断にされた。
しかし、揚げ足は取れた。
「日本に大統領はいないけど?」
ムクムクと起き出した対抗心が、俺の背後でスタンド化してドヤ顔をしている。
「大統領制の国に渡れば? 日本の初代大統領になるって気概くらい見せなさいよっ!」
俺の意図を察していた悠子は、すかさず現実的な回答と併せ非現実的回答を示しつつ、努力が足りないと詰るという高等技術で、俺の目論見を粉砕してきた。
現実的かどうかではなく、可能性のための努力を突き付けてきたのだ。
「それが可能なら、勇者だってなれるんじゃね?」
いや、お前はもう勇者だよという周りの声は無視し、俺は肩をすくめて笑う。
「ユータの言う勇者って何? しょうもないバカやって嘲笑されながら語られる勇者なら、もうなってるじゃない」
周りの声を拾い集め、悠子は俺を睨み付ける。
「そんな勇者(笑)を目指すヤツはヨシ○ト行くわっ! 伝説の勇者ってのは、歴史に名を刻まれるんだよ。ドラコン倒したり、魔王を討伐したり、一人で軍隊を相手したりしてな!!」
俺の魂の叫びを聞いて、教室内の時間が凍結したような感じが血の気を引かせ、俺は思わず挙動不審になっていた。
「ねーわー。ドラコンはねーわー」
「魔王とか。お酒じゃないんだから」
「一人で軍隊を相手にしたら瞬殺だろ」
ポロポロと沸き上がるファンタジー否定。
おまいら・・・。




