竜頭の旅人・レオ
『私の』『僕の』『俺の』『私共の』『わしの』
『頭を持っていってはくれまいか』
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「今日はどこに行く?」
俺の周りを飛び回る小さな竜がそう言った。
平地が続く荒野の先に、高々と連なる山を見据える。
「東の山に、そろそろ時期の竜がいたはずだ。ライ、そこに行こう」
木陰の下で武器の調整をしながら、次の旅のことを考える。
俺は旅人だ。
だけどただ旅をしているんじゃない。
旅人はよく、『目的なんか無いさ』って言うけど、俺にはあるんだ。
「レオ、そこは安全?」
「今まで安全な竜の住処があったかい?」
一度肩に乗り小さく溜息をついたライはまたぐるぐると飛び回り出す。
俺の旅は竜の頭を持って帰ること。
旅人なのに、持って『帰る場所』があるのかと聞かれるとちょっと困る。
これはある意味仕事だ。
この世界には数え切れない竜がいて、その竜一匹一匹のもっている頭はとても貴重な資源なんだ。
数え切れない竜がいるなら、『貴重』ではない?
いいや違う。
一匹一匹の資源の役割が違うんだ。
今のところ揃っている竜の資源は、世界が回るために必要な、水、草、太陽、月、大地……まぁ、普通にあるはずの物しか揃っていない。それで十分だろう?
いいや違う。
人間とは欲張りなもので、例えば、生クリームとスポンジがあれば、イチゴでも乗せてショートケーキにしたい。とか、ホットケーキにハチミツを垂らしたい。とか、一が入れば2が欲しくなる生き物だから。
それにこれは『人間の進化』の為に必要な仕事なんだ。
欲と進化は表裏一体で、欲がなければ進化は出来ない。進化したという事は、進化したいという欲なんだ。
「ライ、ここから18キロ先だ。」
「僕そんなに飛ばなきゃ?」
「35キロ飛んだ事もあっただろ」
ライはまた溜息をついてから、小さな羽をぐんと伸ばして一気に上空へ駆けた。
少し立つと、背後から羽ばたく音が聞こえてきた。
地面の砂を吹きあげながら、大きなライが俺の隣に優美に着地した。
「小鳥すれ違ったんだけど、僕の羽ばたきの風力のおかげでデートに間に合いそうだって」
「それはよかった」
ライは身を低くして背中を少し俺の方に傾ける。
鱗に手をかけながらよじ登り、首元の深い所にしっかり掴まった。
「今日は雲の上がいいな。」
「目的地に着けば俺はなんでもいいよ」
ライのわくわくした目が前を向くと、両翼が力強く羽ばたいた。