旅の途中
マミは今世では無口でほとんど感情がなかった少女だったらしい。
だから、ほとんど人の話を聞くだけで自分から話すことはしない。
マミの前世の記憶が戻っても、いきなりのドラゴンの誘拐もとい生贄にされたゆえに、ウィルとの会話はほとんどない。
もともとウィル自身も無口な方なので、二人のときはウィルが必要事項を話すだけであとは、互いに無口で過ごしていた。
なので、今の環境は少々マミにはうっとおしさがある。
商人キャラバンの女性たちは本当にマミをかまいたがった。何かあればすぐに優しくしてくれる。マミがほとんどしゃべらないし、無表情に近かったので、きっと不憫に思っているのだろうか?
そういえば、ウィルの設定だと親を亡くした設定だったか。
10歳の子供が親を亡くすというのは、やはり同情されるのだろう。
もともとキャラバンに女性がいるのは、長期の旅の間には野宿とかあったりするので、食事の用意や洗濯などの雑務をする必要があったかららしい。
女性たちの会話から、ここがユーグリス国という国だと知ったが、実際にはどこがどうだかよくわからない。マミが暮らしていた村はすごく閉鎖的で、ほとんど他との交流がなかった。いや、皆無だったと思う。
このような旅の商人が来たこともなく、村だけの自給自足生活でひっそりと暮らしていたという記憶がある。そこがどこだったのかも知らない。
大人たちはみな何かにおびえるように暮らしていた。まるで何かから逃れるようにと今になって思う。それゆえに、現れたドラゴンに驚愕し、出て行ってもらうための条件にマミを差し出したのだ。村のためなのか、それともほかに理由があったのかは今ではよくわからない。たった10年暮らしただけの土地だったし、前世の記憶が戻った今となっては、記憶の片隅にわずかに残っているだけなのだ。
「女の子はなんて着せ買いがあるのかしら?」
「そうね、かわいくてたまらないわね」
お姉さんたち(弱冠年齢に幅あり)は、思いつくままにマミを着せ替え人形代わりに遊んでいた。
まあ、仕事の合間にちまちまとかわいい洋服を縫い上げてしまうあたり、相当な家事スキルと見る。
商人たちの扱う商品のなかに高価なものからごく普通なものまでの多種多様な布地があり、彼女たちはそれを使って、マミの服を作ってくれた。ちなみにこれはマネキン扱い?に近い。
布地を見せるよりもかわいい女の子(お姉さん目線)に洋服を着せた方が、売れる率が高いらしい。まあ、確かに前世でもあったよな、有名なものでパリコレクションとか身近なものでガールズコレクションとか。
もしかして、この商人キャラバンにおいてのマミの立ち位置はモデルだったのかと妙に納得。だから、あれこれと着飾らされたりしたのかと。
それから、男の子たちに混じって、文字などのお勉強。
混じってとは言うけれど、実際には男の子たちが教育係らしい人たちに様々な勉強を教わる隅っこでちまちまとこの世界の文字のお勉強をしている。文字をお勉強しながら、教育係の人の言うことをそれとなく聞いているだけだ。
前世で言うところの地理と算数と世界史と外国語かな?
文字の習得は当然すんでいるからそれ以上の勉強をしているのは当たり前だが、当たり前なんだが、ふとマミは思う。なぜ、政治的なことまで含んでいるのかと。
この国の立ち位置、この国のある大陸、それから周辺諸国との力関係その他もろもろ。各国事情。
商人に必要な知識なんだろうか?
いや、まて、商人って結構危険なんじゃないのかなと思う。前世だって、この世界はシルクロードとかがあった時代に近くあれは西洋から東洋までのかなり長い距離の果てにたどり着くわけで、その間の国の事情を知っていなかったら最悪死ぬ。国によって慣習や言葉など違うのは当たり前だし、宗教によってもものすごく違う。
この世界にも宗教はあるのかもしれないし、宗教って馬鹿にできないよね。特に前世の新興宗教などどっかのテロ組織的なものをやらかしてくれたもんね。妄信的な信者怖い。
もっとも、さりげなくお勉強の中身を聞いている限りは、ドラゴンが神様扱いっぽい・・・
そうか、ウィルは神様だったのかって思うと、神様が勝手に人間に混じって、商人のキャラバンの護衛ってそれも怖いと思う。
そうして、なんだかんだと旅の日々は過ぎていく。
旅の途中経過ですね。