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第1話 始まり ヨークの場合-2

「どーもー、アイリいるー?お腹すいたんで、なんか食べさせて下さいなー」

 お店の中を突っ切り、奥の調理場を覗き込む。すると、

「アイリは奥で料理中だよ」

 不機嫌そうな顔をした小柄(こがら)なおばさんが出て来る。

 この店の女主人オーバンである。四六時中、不機嫌そうな顔で客を睨みつけているが、別に本当に機嫌が悪いわけではない、昔からの客の話によると生まれつきだとさ。

 まぁ、そんなわけは無いけれど、客たちはいつものことなのでそんな客商売にあるまじき態度も特に気にしていない。むしろ、楽しんでさえいるようだ。

「まったく、そんな汗まみれの格好で調理場に入るんじゃないよ。ちょっと待ってな」

 そう呆れたように言うと、奥に引っ込んでいく。カウンターに座り待っていると、

「あっ、お姉ちゃん。どうしたの、今日は訓練場行きたくないから逃げるって言ってたのに、そんな汗だくになっちゃって」

 手を拭きつつアイリがこちらに出てきた。

「兵団の仲間に捕まっちゃったのさ。待ち伏せでね。もう疲労困憊(ひろうこんぱい)だよ。それよりもさぁ、お姉ちゃんお腹へっちゃって、家まで我慢できそうにないからなんかちょうだいな。あんまり手持ちないけど」

 てへっ、とおどけてみた。

「もうっ、馬鹿じゃないの。どうせ余計なものにばっかり使ったんでしょ」

 怒られた。


「ごめんなさい。でも、そこをなんとか」

 と手を合わせ頼み込むと、

「もうっ、しょうがないなぁ。おかみさーん、なんか余り物いただいてもいいですか」

 呆れながらもオーバンに頼みに行こうとする、なんだかんだで優しい妹だ、なんて思っていると『ドンッ』とカウンターのテーブルにお皿がのせられる。

「そんなこったろうと思って作ってやったよ。働き者の妹に感謝して、有り難く食べなっ。今度皿洗いでもしてくれりゃあいいよっ」

 中々気前のいいおばさんだ、だからこの店は地元の人たちに愛される人気店なんだな。

「オーバンさん、ありがとう。料理上手っ、優しいっ、美人っ」

 お皿に盛られた料理に手を付けつつ、オーバンを見ると「フンっ」と鼻で笑いながら、

「いいから黙って食べな。あんまりふざけたこと抜かしてっと、片づけちまうよ」

 と奥に引っ込んでいった。

 パンに、味をつけ焼いた肉に、豆を辛く煮たもの、質素(しっそ)ではあるものの温かくておいしいご飯が食べれるのは有難いと感謝しつつ、せっせと料理を口に運ぶ。

 本当はお酒も欲しいところだが、アイリがいるといい顔をしないし、そもそも、風紀(ふうき)厳しい王都では18歳未満にお酒を売るのは禁止されている。それに金もないのに贅沢(ぜいたく)は言えないしな。無念だ。

 ひとしきり食べ終わると、喉が渇いた、アイリに水を頼む。

「アイリ、今日はまだ仕事終わんないの?一緒に帰ろうよぅ」

「もうちょっとで終わるから待ってて」

 言いつつ、また調理場へ、

「ふーん、まぁ何も用事はないし、ゆっくり待っていますか」

 店の一番奥にあるカウンターから店内を眺める。


 眺めていると、窓の外は大分暗くなってきていた。店の中はほぼ満員になっている。これは忙しくなるんじゃなかろうか。そう思っていると、

「ごめーん、お姉ちゃん。交代の人がまだ来ないの、もうちょっと待ってて、忙しくなってきたし」

 案の定だな。

「あー、いいよいいよ。特に急ぐ用もないから。頑張ってきなさいな」

 

 さてっ、そうは言ったがどうしたもんだろう。店内は混み合ってきたし、何も注文せずにカウンター席を占領してしまうのも、あまり好ましくはない。

 少々暑いが、外で待っとく方がいいかなぁ。そう思い、ふらふらと扉の方に近づくと、すれ違うように三人の男が店に入って来た。ふわっと香る酒の匂い、まだ日が暮れたばかりだというのにもう飲んでるのか、けしからんな。

 先程の自分の考えを棚に上げつつ、何か嫌な予感。

「キャー、なにすんのよ」

 扉から外に出ようとした、その瞬間女性の叫び声が響いた。

 後ろを振り返ると、やっぱりか、まったく。店内では先程の三人の男が客の女の子に絡んでいた。(きびす)を返し、そいつらの方へ向かおうとすると、

「ちょっとっ、お客さん。何してんですか、やめてください。他のお客さんに迷惑です」

 聞き覚えのある声、アイリが酔っ払いたちに詰め寄ろうとしている。ちょいと、妹さん、何してんの。


「なんだよ、嬢ちゃん。可愛いじゃん。一緒に飲もうよ」

 まったく会話になっていない、酔っ払いの一人がアイリの手を掴み、肩に手を回そうとする。その瞬間にはもう駆け出していた。

「アイリに触んじゃねえ、このクソ酔っ払いがっ」

 とそいつの頭が千切れんばかりに飛び蹴り。吹っ飛んで意識を失ったらしい、壁際で泡を吹いてぴくぴくとしている。

「このっ、くそっ、何だこの女」

 掴みかかろうとしてくる。剣を手に取り、(さや)のついたまま面を打つ様に殴る。『どさっ』そのまま二人目が床に(たお)()す。

 三人目を見据(みす)えるとかなり腰が引けてるが、引っ込みがつかないのかこちらをにらみ返してくる。

「人の妹に手ぇ、出そうとしやがって。やんのかこらっ」

 と剣を握り直し、詰め寄ろうとしたが、

「やめなっ、何してるんだい。人ん店で暴れるんじゃないよ。まったく。やるんなら外でやりなっ」

 オーバンが止めに入る。

「ダムジー」

 オーバンが奥に呼びかけると、調理場の入り口から筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)、背丈二メートルはありそうな大男が現れる。大男はおもむろに近づいてきて、

「お、おい、ちょっと待て」

 と言う私の制止を無視し、私と相手の男の首根っこを『ガシッ』と掴み、そのまま扉の外に『ポイっ』と放った。続けて、気絶した二人も放り投げられ転がった。

「なんで、私も放り投げられなくちゃならないんだっ」

 と不満を叫ぶ。すると、アイリが出てきて、

「もうっ、お姉ちゃんは手を出すのが早すぎるのよ。あんなに暴れると他のお客さんに迷惑でしょ」

 あー、はい、そうですね。

 くそっ、と後ろを(にら)むとまださっきの男が座り込んでた。

「お前のせいで怒られちゃったじゃねえか。早くそのおねんねした仲間連れて消えろよ」

 剣を振り上げ恫喝(どうかつ)すると、ダムジ―に投げられたのがよっぽど怖かったのか、一人を叩き起こし、泡吹いて気絶しているもう一人を抱えて逃げて行った。まったく。

 その時、

「ヨークさんですね」

 と尋ねる声、

「ああんっ、なんだよっ」

 不機嫌さを隠さずに答える。振り返るとそこには、妙に身なりの整った男が一人。男は(かしこ)まったように、

「カイカ王女からの伝言です。至急、参上せよとのことです」

 と告げる。

「王女様っ?」

 一体何の用だ。もう夜も迫っているというのに、至急とは。

 嫌な予感しかしない。なんか今日の予感はよく当たるみたいだし。

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