第二話 出逢いは突然
「うわぁぁあ…!!」
ざわついた街の中、ある男の悲鳴が響きわたった。
通行人は足を止め、悲鳴がした方へと顔を向けた。
其処には悲鳴を上げた男と、もう一人……。
薄い赤色の髪に、薄紫色の瞳。
薄い赤色の髪は太陽の光によって煌めいている。
薄紫色の瞳は鋭く男を見つめている。
男は片手に銀色の銃を持ち、座り込んでいる男の額に銃口を向けている。
「やっと見つけたぜ、時間かけさせやがって」
「うっ…ゆ、許してくれ…」
グッ…と銃口を強く押しつけた。
指を動かす……。
その時……。
二人の上空が輝いた。
もの凄い光に、二人も周りに居た通行人も目を閉じる。
「ぐっ…何だ!?」
銃を持った男が呟いたと同時に、突然男の上に何かが被さった。
「ふぎゃ!」
「はっ?」
自分に重みがかかる。
そして聞こえた声…。
男はそのまま後ろに倒れ、呆然と砂ぼこりがかった正面を見つめる。
何も見えず、ただ分かるのは胸の辺りに何かの体温を感じるだけ…。
そしてやっと砂ぼこりが無くなり、状況が把握出来るようになった時……。
「………」
男は絶句した…。
開いた口が塞がらない。
ただ目を見開くしかなかった…。
「あいたー…。いつつ…どうなったの…?」
えっとー…。
………あれ?
此所…異世界?
あたし異世界来れたの?
だって周りに居る人見た事ない人達だし、髪の色とか瞳の色とか違うし。
…あたし…異世界に来れたんだ!!
やったぁ!!
此所にお兄ちゃんが居るんだ!!
よしっ!そうと決まったらさっそく…。
「……う、うわあぁぁ!!」
「えっ?」
変な服着た人が走ってっちゃった。
しかも凄い顔であたしを見てきたよ?
どうしたんだろう…。
「うぅん…」
「…おい」
「ん?」
下から声が…。
……え?
「退け、重いんだけど」
「………」
あたし…何見知らぬ人の上に跨がってるの?
何してんの!?
「ごごごめんなさい!!すぐ退きます!!」
あたしはすぐに男の人から離れ、地面に立った。
男の人は心底嫌そうな顔をしながら立ち上がり、服を払った。
あたしはその行動を眺めていたが、自分の目的を思い出して辺りを見回した。
「へぇー、この街すごい栄えてない?ちょっと買い物したいなぁなんて…て、馬鹿あたし」
お兄ちゃんを探しに此所まで来たんでしょ?
探しに行かないと!!
てかこの世界のお金も無いし、買い物出来ないって!
よし!じゃあ行きますか!!
「えっと、あっすいませんでした!乗っかっちゃって!以後気をつけます!ではっ!」
男の人にお辞儀をして、回れ右をして歩こうとした時…。
後ろから腕を掴まれた。
「え?」
何?まだ怒ってたり…。
「…お前…どうしてくれんだよ」
「えっ…?」
やっぱり…。
「獲物逃がしちまったじゃねーか!!やっと見つけたんだぞ!?どうしてくれんだよ!!」
怒ってらっしゃる!!
激怒だ!!
「えええっと…」
「上から落ちてくるし!何者だよお前!」
「何者って…」
言っていいの?異世界から来たって。
でも信じてくれる訳ないよね。
どうしよう…。
「おい、聞いてるのか?」
顎を掴まれ、上を向かせられた。
薄紫色の瞳と目が合う。
…綺麗な瞳…。
髪の色と合ってるし、それにこの人美形すぎる…。
かっこ良い…。
「…何だよ、ジロジロ見んじゃねぇ」
って…あなたが上を向かせてるんでしょ!?
自分勝手だし!!
「は、離してください!」
「質問に答えろよ、じゃなきゃ離さねぇ」
こっ…この人意地悪だ!!
見ず知らずの人にこんな威圧して!
自分勝手だし…怖いし!
えぇーん!!
お兄ちゃんー!!
「なぁあんたさ」
「はっ?」
横から数名のガラ悪そうな男達が、意地悪なこの人に話しかけた。
この人達も怖い…。
此所は不良の集まりなの!?
「その子と知り合い?」
そう言ってあたしを指差してきた。
あたしの顎を掴んでた手が離れ、男の人はガラ悪そうな男達に向き直った。
「知り合いじゃねーけど、何?」
「知り合いじゃねーならその子よこせよ」
「「は?」」
男の人と声が重なった。
てか…よこせって何で?
行きたくないし!!
「何でお前等にやらなきゃいけないんだよ、こいつは今俺が用あるんだけど」
「名の知れたあんたのようなハンターが、こんな餓鬼みたいな女に何の用があんだよ、いいから黙って渡してくれねぇか?」
餓鬼!?
ちょっと!!あたしこれでも17歳ですけど!!
餓鬼って呼ばないでくれますか!?
デリカシーが無いんだね!此所の人達は!!
「嫌だっつったら?」
男の人の声が変わった。
ニヤリと口端を上げ、楽しそうに相手を見下ろす。
そして怖いくらいに低く呟いた。
「お前等みたいな下等生物に、誰が渡すかよ。なんならお前等が牢屋行くか?」
「…おいおい、甘く見んなよ。いくらお前が有名だからって、…数数えてみろよ。死ぬぞ?」
確かに…向こうは四人。
こっちは男の人一人。
勝てるの!?
「はっ…死ぬのはお前等だ」
男の人が告げた瞬間…朝妃の目の前から男の人が消えた。
そう…文字どおり消えたのだ。
何処行ったの!?
朝妃が辺りを見回した時…。
「ぎゃあぁぁあ!!」
四人の内の一人の男の声が響いた。
見ると其処には……。
血を流して倒れている男…。
その隣には、さっきの男の人が剣を片手に佇んでいた。
鋭く光っている剣先には、赤黒い血が付いている。
「っ…」
あたしは咄嗟に顔を逸らした。
む…酷すぎる…。
女子高生が見るのじゃないってば!
「ぎゃあぁぁ…!!」
「えっ?」
また悲鳴が…。
ブシュッ…。
「きゃあ!」
二人の男が血を流して倒れていた。
いつの間に…。
残るはあと一人…。
最初に突っかかってきた男だけ。
男はビクビク震えていて、逃げ腰だった。
…情けない。
あんな事言ってたのに…。
「ぅ…うあぁ…」
怯えている男に男の人がゆっくりと近づき、正面で止まった。
そして不気味な笑顔を男に向け…片手を上に上げ、振り上げる。
「うわあぁぁぁあっ!!」
あたしは瞼を強く閉じた。
次に何が起こるか分かってたから。
もう見たくないから。
「駄目ー!!!」
…え?
「ぅわ!レインお前!!」
「駄目だよカムイ!!人殺しちゃ!!いくらハンターだからってさっ!」
……えぇと…空耳じゃないよね…。
何か…男の子…?
の声がする。
あたしはそろーっと瞼を開けてみる。
予想通り…、剣を持った男の人に抱きついてる見た事ない男の…子?人?が居た。
二人争ってるご様子。
「殺してねぇよ!気絶させただけだ!見れば分かんだろ!?」
「分かるけど!この人の事は殺そうとしたでしょ!目が本気だったよ!!」
そう言って座って怯えている男を指差した。
「本気で殺すか馬鹿!!つか離れろよ!!」
べりっと男の子……を引き剥がす男の人。
うぅん…美形が二人言い争ってる。
貴重だなこれ。
何て感心していた為、背後から近づく影に気づかなかった。