第十六話 これからの三人
「ところでアサヒはリウに何もされなかった?」
「ぅえ!?」
ふいに言われたレインからの質問にひどく動揺する朝妃。
これには二人も驚いた。
「何かされたんだねアサヒ! 何されたの!?」
レインが朝妃の肩に手を置いてぶんぶん揺らす。
「あ、の、ちょっとレイン君……っ」
大きく揺さぶられて何も言えなくなってしまった。
必死に落ち着かせようとするが、レインは聞いてくれない。
「レイン、それじゃあアサヒ話せないから」
カムイの冷静な言葉にレインはハッとして肩から手を離した。
「ご、ごめんアサヒ!」
「大丈夫……。えっと、リウには何もされてないよ」
「本当!? 大丈夫なんだね!?」
「うん!」
本当はキスされたけど敢えて言わないでおこう。
後が怖いから。
「良かった……」
「………アサヒ」
「何? カムイ」
カムイに呼ばれて後ろを振り返ると、複雑そうな表情を浮かべたカムイがいた。
「カムイ?」
「っ………、ごめん」
「えっ?」
あまりに唐突すぎて何に謝られたのか理解できないアサヒ。しかしカムイはそのまま言葉を続けた。
「そ、の……キレて無理矢理襲……て」
成る程。やっと朝妃は言葉の意味を理解した。
でも朝妃は笑顔だった。
カムイは不思議に思って朝妃を見つめていると……。
「もう気にしてないよ」
「え……」
嘘だろ? と小さく呟くが、朝妃はずっと笑顔だった。
「何か色々ありすぎてもういいや! でも謝ってくれた事は嬉しいよ、ありがとう」
「あ、あぁ……」
何だか納得しないが、朝妃自身がいいと言っているので良しとしとこう。
「カムイ、部屋戻る? いつまでもここにいると窓弁償しないといけなくなるよ」
「そうだな、行くか」
「えぇ! 割ったのカムイなのに……」
「いいんだよ、ほら行くぞ」
カムイに急かされて急いで部屋から出た朝妃だが、やっぱり変じゃないかと疑問に思う朝妃であった……。
しかしそこは無理に納得させる。
ここは異世界なのだから、と。
―――――…
「カムイ達はハンターの仕事明日もあるの?」
時刻は夜になり、三人でソファーでまったりしている時、朝妃がカムイに聞いた。
レインは今お風呂に入っている。
「あぁ、明日はこの街を出ようかと思ってる。もう用はないからな」
「そうなんだ……」
朝妃はある事を頼もうと思ったが、どうしようか悩んでいた。
もじもじしている朝妃に気づいたカムイが眉を寄せる。
「どうした?」
「っ、えっとね……その……」
まだ言い迷ってる朝妃に痺れを切らして、先程よりも強い口調で問いただした。
「何かあるなら言え」
「うっ……、えっと……。………あのね!」
カムイを真っ正面から見つめて言葉を吐き出した。
「会いに行きたい人がいるの!」
「………は?」
「えっと! これ見て!」
そこで取り出したのは紙一枚。
カムイはそれを手に取り、中身を見る。
「リウに、リョウっていう博士の事を教えてもらったの。で、その博士に会いに行きたいなって思って、博士が住んでる場所の地名と地図を書いてもらったんだ」
「………博士に会いたいのか?」
「うん……博士物知りらしいし、もしかしたらお兄ちゃんの事知ってるかもって思って……」
そこまで言ってカムイを見る。
カムイは眉間に皺を寄せていかにも嫌そうな顔をしていた。
やっぱり駄目か……、と落ち込んでいると、カムイからは意外な一言。
「分かった、博士の所に行こう」
「えっ!? いいの!?」
「他に目的も無いし、俺はいいけど?」
まさか嫌そうな顔をしていたカムイから良いなんて言われるなんて思ってなかった朝妃は、心を踊らせた。
「わぁい! ありがとうカムイ!!」
嬉しくて堪らず朝妃はカムイに抱きついた。
「っ!! な、何してんだお前はっ!」
「だってぇ……」
「は・な・れ・ろ!」
べりっと朝妃を自分から離す。
その時、遠くから殺気を感じてカムイは横を向いた。
「………」
「……レ、レイン?」
いかにも殺気立ってますよオーラを出しているレインに冷や汗が流れたカムイ。レインはにっこりと笑って、此方に向かって歩き出した。
お風呂上がりなので首にタオルを巻いて。
「あ、レイン上がったの? じゃあ次あたしが入って……って、どうしたのレイン」
レインの変わり様に朝妃はすぐに気づき、説明を促すようにカムイを見た。
カムイは首を振って否定の合図。
朝妃はまたレインを見た。
「っうわぁ!!」
レインは朝妃のすぐ傍まで来ていて、怖いくらいの笑みを朝妃に向けている。
これには堪らず朝妃も恐怖を感じた。
「えーと、レイン……?」
レインからの返答は無し。無言でその場が流れるかと思ったが、沈黙をレインが破った。
「アサヒー」
「は、はいっ!」
「さっき、カムイに何したの?」
その時、朝妃の頬に冷や汗が伝った。
―――――…
「えっと、じゃあレインも良いって言ったから、明日は博士の所へ行く事になった」
「うん!」
「はぁい……」
あの後朝妃はレインからげんこつを食らい、頭のてっぺんに大きなたんこぶができた。
そんなに力は入れてなかったみたいだが、朝妃にとっては強力な一発だったみたいで、涙を溜める程に。
そんな朝妃をカムイは同情且つ、何故朝妃がレインに殴られたのか不思議に思った表情で見つめていた。
「手加減してよレイン……」
「無理」
「………」
今夜は賑やかになりそうだなと、カムイはしみじみ思ったそうな。
とにかく明日の予定も決まった事だし、三人はそれぞれの寝床についた……。
またまた投稿できて嬉しい雨音です。次回は話ががっぽり動く予感……。ではまた早く投稿できるように頑張りたいです。それでは次回にてお会いしましょう!!