第十四話 思いと思い
この話から戦いが始まっていきますね。 戦闘描写は無いですが、徐々に盛り上がる予定です。
ただ静かな空間の中に、ある一つの音だけが響く。
「お前、好き勝手やってくれたみたいだな。前から頭がキレると何するか分かんなかった奴だけど……まさかここまでするとはな」
カムイは横目で朝妃を見やると、スッと歩みを進めた。朝妃に向かって。
しかしそれは男の子によって阻まれてしまった。
男の子が朝妃の前に立ち塞がってしまったのだ。
カムイはピタリと歩みを止める。
いつもの目付きではない目を、男の子はカムイに向けた。
カムイも鋭く尖った瞳を男の子に向ける。
そこだけ火花が散っているように、朝妃は感じた。
誰も口を開く事が出来なくなってしまい、長い長い沈黙が部屋を包む。
そして……。
どちらからともなく気術の淡い光が溢れた。
朝妃は一瞬の事だった為に、目の前で何が起きたのか全く分からなかった。
激しい気術のぶつかり音が耳に響く。
目眩がする中で、やっと状況が少しだけど理解する事が出来た。
目の前で起きてる事態は……朝妃の予想を超えた。
カムイと男の子が、体に自分の気術を纏いながらそれぞれの武器をぶつけ合っていた。
カムイは剣を。
男の子も、剣を。
二人の顔は気術のせいで見えなかったけど、何となくカムイの表情だけは予想出来た。
カムイはきっと、怒りの形相をしてる。
凄く怒ってる。
それだけは分かった。
ほんの一瞬だけど、気術の隙間からカムイの表情が見えた。
見た瞬間、朝妃は固まった。
鋭い目付きで男の子を睨み、あたしだったら腰が抜けるだろう恐怖の表情をしていたから。
怖い……。
素直にそう思ってしまった。
声も出せなくて、二人を止める事も出来ない。
止めなきゃいけないのに、これから起こる惨劇を生み出さない為に、止めなきゃいけないのに……。
自分は無力だ。
止められない。
止められる訳ない。
力なんて無いし、二人に対抗など出来る筈ないんだ。
「っ……」
朝妃は強く下唇を噛む。
自分の無力さに嫌気がさす。
苛々してしまう。
二人を止めたい……。
カムイを……止めたい。
必死に声を出そうと試みるが、全くと言っていい程声が出なかった。
しかし朝妃は諦めない。
恐怖に打ち勝って、二人を止める。
そう決めたから。
「………っ……。――…カ……」
絞り出すような声。
やっと喉から出てきた。
しかし二人には届かない声音。
もう一度……朝妃は声を出す。
「―――……カム……イ……。カムイっ……カム……っ」
まともに声が出せるようになった時、強すぎる二人の気術のせいで強風が吹いた。
風は瞬く間に部屋全体に広がって、もちろん朝妃にもその風はふりかかった。
「きゃあっ!!」
朝妃は咄嗟に腕で顔を覆う。
吹き飛びそうな強風に、朝妃はなんとか耐えた。
しかし普通の人間にこの風が耐えられる訳ない。
あと少しで吹き飛びそうになった時、ふっと風が止んだ。
いや……風は止んでない。朝妃の周りだけ風が止んだのだ。
それに体が仄かに暖かい気がした。
ゆっくりと瞼を上げると……。
「……白い……壁」
そう。
朝妃の周りを、白い壁が囲んでいた。
正確に言うと、壁ではなく白い空気のようなものが、朝妃を包んでいたのだ。
朝妃はこれが何なのかすぐに理解した。
「レイン君……」
横を見れば、レインが朝妃に向かって手を翳していたのだ。
その手に白い光を集めながら。
レインはニッと微笑むと、目線をぶつかってる二人に向けた。
朝妃は、自分がレインによって守られていると自覚すると、レインに微笑んだ。
二人は未だに衝突しあっている。
それは誰にも止められない。
何故なら、この戦いはカムイの思いの強さが生んだ戦いなのだから……。
始まってしまいました! きっとこの二人の戦闘シーンは長くなります。 と言っても次話だけだと思いますけど。 戦闘描写は得意ではありませんが、上手く書いていきたいと思います。 それではまた次回もよろしくお願いします。