第一話 始まりは訪れて
またまたファンタジーです。読んで下さると嬉しいです。 そして感想等があればどうぞお書き下さい。
今を生きてる。
私達は…今を生きてるの。
負けないよ、きっと……強くなってみせる。
だって約束したよね。
離れないって。
覚悟してよ。
またすぐに会いに行くから――…。
「朝妃ー!!帰ろー!!」
茜色に染まる空の下、其処には二つの影が浮かんでいた。
建物の中に紅が混ざる。
「先帰って!!あたしまだやる事あるからー!!」
一つの影が動き、手を振って、もう一つの影が居る方向とは反対の方へ歩いて行った。
残った影も手を振り、反対の方向に歩いて行く。
朝妃……。
彼女の名だ。
淡い栗毛色の、肩より長い髪が特徴的だ。
瞳は日本人独特の黒。
吸い込まれそうな闇の色…。
朝妃はある場所へ向かっていた。
それは……。
彼女が今まで探していた場所…。
見つかった時は、まさかこんな身近に、しかも学校の中に在るなど、思いもしなかった。
向かう先は……。
……学校の地下。
カツン…と、地を歩く音がする。
肌を刺すような寒さ。
外は春で、気候は暖かいのに、此所だけ気温が下がり、肌寒い。
寒さに身を震わせながら、先を歩く。
歩いた先に見えたのは、大きな古びた頑丈そうな扉。
朝妃は足早に扉に近づき、重い扉を両手でゆっくり開ける。
ギギギ…と鈍い音が響き、完全に開けられた扉を背にしてまた歩き出す。
遠くに見えたのは…。
「……鏡…」
そう…朝妃の体全て入る程に大きな鏡があった。
ゆっくりと近づき、まだ新しそうな鏡に触れる。
鏡は全く汚れていなく、埃一つ付いていない。
疑問に思いながらも、ツゥ…となぞる。
指には埃は付かない。
「誰かが手入れしてるのかな…。……不思議な鏡…」
でも……お兄ちゃんはこの中に入ったんだ。
実は朝妃の兄…涼は、一年前から行方不明になっているのだ。
書き置きの手紙もなく、家族や警察は一年間探し続けた。
そしてやっと見つけた。
朝妃が…この鏡を。
涼はこの中に入った。
証拠に、見つけた時涼のピアスが鏡の前に置いてあったんだ。
朝妃は確信した。
涼は鏡の中に入ったと。
だから兄を連れ戻す為に、自分も鏡の中に入る決意をした。
両親にも、友達にも内緒で。
「…お兄ちゃんって本当勝手だよね。まったく…」
ふぅ…と小さいため息を溢し、腰に手を置く。
そして意を決したように瞳を鏡に向け、両手を近づけた。
自分も入れるか分からないけど、やってみなくちゃ分かんないんだから。
両手の指が鏡に触れる。
その瞬間……。
何の前触れも無しに、その指が吸い込まれるようにして鏡の中へ入っていった。
「っ…!」
怖い。そう強く思った。
だがここで負けちゃいけない。
一度瞼を閉じ、一つ深呼吸をして、ゆっくりと体を入れていった。
肩まで入り、足も入れる。
最後に顔を入れ、やっと体全部が鏡の中へと入った。
そして体が浮く感覚がして、味わった事のない浮遊感に目眩がする。
咄嗟に瞼を閉じて、されるがままに流されていく…。
その間に、あまりの気持ち悪さに意識を失いそうになったが、何とか堪えた。
しかしそれは無駄なものとなり、朝妃は静かに意識を手放した……。