表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

FILE.0-a それは他愛もない問いかけ Dead

「聞いてもいいかい?」

「……何?」

「――なぜキミは『生きて』いるんだ?」

 ソプラノ調の優しげな声は、僕の目の前から聞こえてきていた。

 黒革張りの高価な椅子に深く腰掛けた少女は、ニヤニヤと笑ったまま唐突に僕に訊ねてきた。僕はその少女が浮かべる意地の悪い笑みに顔をしかめる――ということはなく、無表情のまま聞き返した。

「……なぜって?」

「だってそうだろう? この世は喩えて言うなら〝地獄の釜〟のようなものさ。人間達が持つ醜い欲望とドス黒い権力。それに愚かな暴力と金への執着がそこかしこに息づき渦巻いている。……そう、私には分からないんだよ。こんな人間の欲望と権力と愚かさがぐつぐつと煮えたそんな釜の中で、どうしてキミはそんなにも『生』にしがみついているんだい?」

 真向かいに座る少女の笑みは崩れない。「分からないから訊ねる。道理だろう?」とただ僕がどう返すのかを愉しんでいる――そんな目だった。彼女は特別何をするわけでもなく、胸元のポケットから小さなケースを取り出し、そこから一本の真新しい煙草を摘み上げた。

 その煙草が少女の細い指に弄ばれ、くるくると踊り出す。部屋の中に響き渡るカチコチと時を刻む音がメトロノームのようにリズムをとっていた。

「……さぁ、どうしてだろうね」

 疑問をぶつけられた僕は、ふとそんな事を漏らしながら、少女が弄んでいる煙草のように、ただぐるぐると思考を巡らせた。

 まるで僕の隣で「あなた間違えていますよ」とでも言われているような、そんな感覚に近い。

「……それじゃあ、なぜキミは生きているの?」

 考えがまとまらない僕は、同じ質問を目の前の少女に投げかけた。

 瞬間、少女はニタリと歯を見せ、「くっくっ……」と笑いそうになるのを必死で押し殺す。

何がそんなにおかしいのだろう? 僕は彼女が笑うようなことは何一つ言っていないのに。

首をかしげる僕に、少女は泰然と煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。煙草の先から漏れる紫がかった煙をぼうっと見つめながら、その少女は「当然だろう?」とでも言うかのように言い捨てた。

「なぜ? なぜだって? それは――」

 黒革の椅子に腰かけた少女――いや、死神のイルは、

「人間ほど《醜く》《愚か》で――そして《面白い》生き物はいないからさ」

 まるで歌うように、目の前に座る少女は僕に答えを返していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ