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Introduction

以前に書いた習作をこちらにUPします。


感想等頂ければ。。。

「人間は生まれながらにマゾヒストさ。なぜかって? それは彼ら彼女らが至極面倒で難しく、ストレスの溜まる《生》に日々挑戦しているのだからだよ」


 それは幼い少女だった。これは僕の目の前に座っていた彼女の言葉だ。

 透き通るような銀の細糸にも見える白髪を腰まで垂らし、さながら宝石をも思わせる赤い瞳が特徴的だった。日焼けのしていないキメ細やかな肌と、それを隠すような白いフリルが付いた黒のゴスロリ服をその身に纏っている。

 けれども、そんな「お人形さんみたいに可愛くて綺麗」という印象を持たれる少女が、堂々と煙草を吸っている姿は、せっかく抱いたものを見事に壊しているようにも思えてならない。

 マグカップに入っていたブラックコーヒーをすすりながら、艶やかに輝きを放つ黒革張りの高級ソファに深く腰掛けている幼い少女は、誰に言い聞かせるわけでもなくただ淡々とそう呟いた。

 この言葉を聞いた時、僕は素直に「これは本心から言っているんだろうか?」などと疑問に思ってしまった。

 なぜなら外見と態度が全く似合わない。いや、いっそ「似合っている」と表現するのさえまだ可愛げがあるのかもしれない。

 これが僕以外の人間だったのなら、違和感さえ残るかもしれない。

 少なくとも僕が今まで生きてきた中でこんなことを言う人と出会ったことがないし、聞いたこともない。

 しかし、彼女の言葉にはそれをすんなりと信じさせてしまえるほどの力があった。

 それを「説得力」と言い切ってしまえばそれまでだ。

 ただ――そんなものとは違う力がその少女の言葉にはあった。

 あえて表わすなら、それは《魅力》とも言うべきものなのかもしれない。


「人間の価値はどのぐらいだと思う? それは――真夏の太陽の光を存分に浴びきった灼熱のアスファルトを這い回る、小さな蟻よりもずっとちっぽけなものだよ」


 こんな言葉を真顔で言える人間はたぶんいないだろう。

 それはなぜか。

 答えは人間だからだ。こんな言葉を平然と言い放つことができるのは、よほどの自殺志願者か、あるいは地球外知的生命体ぐらいしか思いつかない。

 もっとも、少なくとも、僕の知っている限りでは……という範囲ではあるけれど。

 だから僕は、当たり前のことを当たり前のように、目の前の少女に指摘してあげた。

「キミだって人間じゃないか。だったら、それは自分をも卑下しているということじゃないの? その、こう言ったらなんだけど……。言っていて哀しくはない?」

 するとどうだろうか。僕の目の前に座る少女の口の端がわずかに上がったのだ。その上品な仕草に、誰もがため息さえ浮かべるかもしれない(ちなみに僕は淡々と眺めるだけだったが)。

「哀しい? いや、ちっとも。私はそもそも人間じゃないからな」

「それじゃあ、キミは一体何者?」

「私かい? 私は――」


 ただの〝死神〟だよ。


 それはまるで朝に交わされる挨拶のように。

 それはまるで夜寝る前に言う言葉のように。

 僕の目の前に座る少女は嬉しそうに告げた。

「私はただの死神さ。愚かで醜く、そして面白い人間が生み出した神様なんだよ」

「人間が生み出した……?」

 釈然としないその説明に、僕はたまらずそう疑問を呈した。神様って、人間が生み出したものなのだろうか、と思いながら。

「だってそうだろう? 神様、なんて呼ばれる存在は人間の豊かで面白い想像力が生み出したものさ。別に神が人を造ったワケじゃない」

「まぁ、冷静に考えればそうかもしれないね」

 僕は少女が示した回答に、一応納得して首肯する。確かに神話や伝承の類に出てくる神様は、所詮人間が創り出したものでしかない。では何故そんな神様が現実のこの世界に存在するのか? という疑問も浮かんだが、僕には理解できそうもない話になりそうだったので深くは追求しなかった。

「そうさ。そして、その瞬間から人間は愚かになった」

「……その瞬間から?」

「あぁ。ほら、キミの周りを見てごらんよ。目にするのは人間の飽くなき欲望と、耳に入るのは辛く残酷な人間同士の醜い争いばかりだ。神の代行者? 聖戦? なんなんだね、ソレは。そんなのは人間が都合よく組み立てた理屈だろう? 神様というものは、結局人間の欲望と醜さの捌け口でしかないのさ」

 僕の反射的な問いかけに、死神の少女はこっくりと頷きながらそう告げた。どこか辟易とした表情で呟く彼女に、僕はどうすることもできないけれど。

「……そうなんだ」

「そんなものなんだよ」

 少女は僕を見つめたまま、そう静かに呟いた。

 その白く長い髪が夏の夜空を流れる天の川のように輝いていた。



 そう。これは僕とこの死神が出会い、経験した出来事。


 そして、僕と死神が触れた『不幸』のお話。

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