『嫌なモノ』の正体
ほとんど眠れないまま朝を迎え、私はベッドで眠る少女に声をかけた
「おはよう、俺大学に行ってくるよ。」
「お前にも合鍵を渡しとくから、外に出るんなら戸締りはよろしくな。」
「あと冷蔵庫にサンドイッチとか入ってるから好きに食べていいぞ。」
「ん~っ・・・えっ!!大学!?」
寝ぼけ半分で返事をする少女
「あぁ、大学。お前、どうせ今日は学校なんかには行きたくないだろうし、未来はこの部屋でゆっくりしてていいから。」
「・・・!?・・・」
「ん?どうかしたか?」
「今『みき』って呼んだ・・・?」
「あっ、ゴメン。嫌だったか?」
「ううん、その逆、男の人に呼び捨てにされるなんて初めてで、変な感じはするけど・・・なんか嬉くて・・・。」
「アハハ、そうか、じゃあ俺のことも『ゆうき』って呼び捨てで頼む。」
「うん、分かった。じゃあ優樹、いってらっしゃい!!」
「おう、行ってきます。」
未来は玄関先まで出て、笑顔で私を見送ってくれた。
久しぶりに誰かに送り出して貰える嬉しさと、不思議なくすぐったさを噛み締めながら、私は大学へと向かい、その日は講義が終わると早々にアパートへと帰った。
「あっ!!お帰り、お兄さ・・・っと、優樹。」
「うん、ただいま未来。」
「・・・何か照れるし・・・こんなのドラマの新婚さんみたいじゃん・・・」
「ガキが何を生意気言ってるんだか、新婚さんなら奥さんから『おかえりなさいのキス』があるんだぞ。」
「キ、キス?そんなの・・・、・・・ってガキじゃありません~、おっぱいだってあります~。」
「確かに小さいけどあったな・・・ハハハ。」
「・・・って!!ナ、なに言ってんのよ!!・・・そうか、全部見られたんだったよ・・・ね?」
「小さいおっぱいとか?」
「そうじゃなくて…身体の・・・」
「・・・ああ、・・・うん。」
「ゴメンね、嫌なモノ見せちゃって・・・」
「嫌なモノって言い方をするな!!それより、あの痣はどうしたんだ?言いたくないなら無理には聞かないけど・・・」
「・・・しい・・・さん・・・」
「えっ!?」
「・・・新しい・・・さん・・・の・・・が・・・」
「新しい何?」
「お母さんの新しい彼氏さんが・・・何かあるとすぐに私を・・・」
「殴る・・・のか?」
未来はコクリと頷くと、顔を伏せたまま
「お母さんが留守の間とかに・・・『躾』だとか言って・・・」
未来の話を要約すると、彼女の家は母子家庭なのだが、最近母親の交際相手が家にやってきて、事あるごとに未来に暴力を振るうらしく、その恐怖から逃れる為に家を飛び出したようだった。
「お母さんには?」
急に未来は語気を強め
「お母さんには言えるわけない!!あんなに笑って幸せそうにしてるんだもん、あんなに楽しそうにしてるお母さんの笑顔を壊したくない!!」
「でも何も言わなきゃお母さんには伝わらない、今度みたいに家を飛び出したらお母さんも心配するだろ?」
「うん・・・そうだけど・・・」
「ところで、今日はその彼氏ってのは家にいるのか?」
「今日は来ない日だと思う。」
「じゃあ今日は一旦家に帰りな、送って行くから。」
「未来ン家ってどこにあるんだ?」
「初めて会ったコンビニの先のマンション・・・」
「えっ!?あの大きなヤツ?」
「うん。」
「なんだ、そんなに近くに住んでるんだったら、何時でも遊びに来ていいぞ。」
「今朝、合鍵を渡しただろ?俺が学校とかバイトで留守にしてる間でも、アレ使って勝手に入ってゲームでも漫画でも自由にしていいから。」
「うん、ありがと。そんなに言うならお世話になっちゃおう・・・かな。」
「おう、好きにしな。」
「ところで未来って携帯は持ってないのか?」
「ケータイ?持ってるよ、今は家に置いたままだけど。」
「…じゃあコレ、俺のアドレスと番号、何かあったら・・・いや、なくてもいいから、いつでもメールでも電話でもしてこいよ。」
「いいの?」
「おう、中学生の貧乳美少女と友達になったなんて、大学の友達にも自慢できるわ。」
「美少女はいいけど、貧乳は余計だっての!!これからもっと大きくなるんだから!!」
「アハハ・・・今から送ってくから、部屋に着いたら直ぐに電話ORメールするんだぞ。」
「それと、お母さんにはちゃんと謝って俺の家に泊まったことも正直に言う事!!」
「分かった!!家に連れ込まれて、おっぱい見られて傷ものに・・・って言えばいいんだね。」
「ばーか!!」
そうやって明るく笑う未来は、元気でノリも良く、とても暴力に耐えているようには見えなかった。