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婚約破棄

王太子から婚約破棄された令嬢は、爆笑する

作者: 騙すカラス
掲載日:2026/07/28

「オリビア、お前との婚約を破棄する!」


 公爵家の嫡男アルベルトが伯爵令嬢のオリビアに指を突き付けてそう宣言した。ここは王立学園の教室であり、今は休み時間だ。

 悪役令嬢と名高い私は、アルベルトに自慢の巨乳を押し付けて高笑いをする。


「おーっほっほっほ、ざまぁですわ。アルベルトはわたくしがいただきましたわよ」

「悪いが俺はこのマリーと結婚するぞ」


 実にすがすがしい気分だ。学園のアイドル的存在であったオリビアから、婚約者のアルベルトを寝取ってやった。オリビアの絶望の表情をよく見てやろうと彼女に注目する。


 しかしオリビアの反応は全く予期しないものだった。


 婚約破棄を宣言されたオリビアは、きょとんとした顔をしていたが、突然笑い出したのである。


「あははは、あははははははは」


 まさに爆笑という笑い方だった。


 打ちひしがれて涙を流すか、怒りをあらわにして睨みつけてくるとばかり思っていた私は目を見開いた。彼女は大口を開け、お腹を抱えて笑っているのだ。

 驚いているのは私だけではない。オリビアを婚約破棄したアルベルトも、その光景を見ていたまわりのクラスメイト達も唖然としている。


 オリビアはそんなまわりの反応は意に介さず、爆笑したまま教室を出て廊下を歩いて行ってしまった。


 私はアルベルトと顔を見合わせた。


「あの女、あまりのショックで気がふれてしまったんじゃないか?」

「そうかもしれませんわね。けど、いい気味ですわ。今まで調子に乗っていたから罰が当たったんですわ」と私は言った。


 私は廊下に出てオリビアの後をつけた。


 彼女は爆笑しながら廊下を歩いていく。当然、周りの生徒たちがギョッとした顔でオリビアを見ている。いったいどこへ行くつもりなのだろう?


 そのままついていくと、彼女は体育館に入って行った。私もそのあとに続く。


 オリビアは誰もいない体育館の中を歩いて、体育倉庫の前までくるとその扉を開けた。そして体育倉庫に入って行く。


 体育倉庫にはボールとかマットとか、体育で使う道具がしまってあるだけだ。そんなところでいったい何をするつもりだろう? まさか、自殺でもする気じゃ・・・?


 体育倉庫の入り口から中を覗き込むと、オリビアはそこに置いてある跳び箱に頬ずりをしながら、ひとりごとを言っていた。


「あのね、私、アルベルトから婚約破棄されたの。教室で、みんなが見ている前で、びしっと指を突き付けて、お前との婚約を破棄するって。私、もう笑いが込み上げてきて、その場で耐え切れなくなって爆笑しちゃったわ」


 誰もいない体育倉庫で跳び箱に頬ずりをしながら独り言をしゃべるなんて、正気の沙汰ではない。オリビアは気が違ってしまったのだ。私はそのことを確信した。

 心底憎んでいた女の精神を崩壊させることができて、私は心から喜んだ。とても晴れ晴れした気分だ。


 満足した私はその場を離れようとした。


 するとその時、驚くべきことが起こった。


 オリビアが頬ずりしていた跳び箱の一段目が持ち上がって、その中からひとりの人物が姿を現したのだ。

 金髪のイケメンで、エメラルドグリーンの瞳を持つその人物には見覚えがあった。彼はこの国の王太子、ヨハネ殿下だ。

 たぐいまれなる美貌と知性を併せ持ち、この国のすべての女を魅了し虜にするスーパーヒーローである。その名声は国外にも及んで、他国の姫君からの結婚の申し込みが後を絶たないという。

 ラブレターで火を起こして風呂をたいたという逸話まであるぐらいだ。


 そのヨハネ殿下が、学園の体育倉庫の跳び箱の中から姿を現したのだ。私は驚きで思わず声をあげそうになったが、それをぐっとこらえた。


 ヨハネ殿下は跳び箱から出るとオリビアを抱きしめ、キスをした。

 そしてこう言ったのだ。


「アルベルトが婚約破棄してくれてよかった。これでもう人目を忍んで君に会わなくても済む。これからは堂々と君と付き合うことができるぞ。王太子の僕が他人の婚約者を横取りするなんてできないから頭を抱えていたんだ」

「ええ、それもこれも全部マリーのおかげよ。彼女がアルベルトを誘惑して寝取ってくれたおかげで、婚約破棄になったの」

「そうか、マリーには感謝してもしきれないぐらいだな」

「そうね、本当にマリーには感謝しかないわ」


 そして二人はまた熱い口づけをかわした。


 体育倉庫の扉のところで、私はハンマーで後頭部をぶん殴られたみたいな衝撃を受け、ただ立ち尽くした。


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