子供を授かったけれど身分違いで身を引いたら、愛が重い強面辺境伯様に見つかりました
「確かに代金は受け取った。これで契約成立だな」
エルロッド男爵家の裏門。
二月の空はどんよりと厚い雲に覆われ、地面には激しい雨が打ち付けている。そんなどしゃ降りの中、男爵家当主は奴隷商人からずっしりと重い革袋を受け取ると、ニヤリと口の端を吊り上げた。
そのやり取りを絶望の表情で見つめている少女が一人。彼女の名はユーフェミア・エルロッド男爵令嬢。エルロッド男爵家の歴とした長女である。だが両手は荒縄できつく縛られており、つぎはぎだらけのとてもドレスとは呼べないみすぼらしい服を身に纏っている。
そんな彼女は今まさに、父親によって奴隷商人へ売り渡されようとしていた。
緑の瞳に赤銅色のパサついた髪。肌は白く、だからこそ茶色いそばかすが目立つ。彼女は夢から覚めたようにハッと我に返ると、父親へ向かって懇願の表情を浮かべた。
「お、お父様! 私、もっと働きます、料理もお掃除も……! ですからこんなことはやめて、どうか考え直してください!」
「悪く思うなユーフェミア。没落寸前の我が家を持ち直すためには、こうするしかないのだ」
「そんなっ、お義母様、私どこでも寝られます、馬小屋でも構いませんからどうか!」
ユーフェミアは必死の表情で継母へ駆け寄り、彼女の美しく真っ赤なドレスへ縋りついた。跪いた拍子に、ぬかるんだ地面がドチャリと音を立てる。すると継母はユーフェミアをゴミでも見るかのような目で見降ろし、その手を扇子で無慈悲に叩き落した。
「往生際が悪いわよ、ユーフェミア。不細工で性根の腐ったお前でも、私たちの役に立てることを喜びなさい」
継母の言葉に同調するよう父親も言葉を重ねる。
「すべては可愛いマリアンヌのためだ。病弱なマリアンヌを虐めたお前が悪いのだぞ、ユーフェミア。お前は病死したことにする、二度と我が家の門をくぐることは許さん。……お前など、俺の子供ではない」
マリアンヌ。病弱で美しいユーフェミアの異母妹。
頬に打ち付ける雨の中、ユーフェミアが顔をふと上げると、屋敷の二階の窓に白い人影が見えた。そこには金髪碧眼の美少女、マリアンヌが佇んでいる。ネグリジェ姿のマリアンヌはユーフェミアと目が合うと、うっそりと微笑んだ。
ユーフェミアはマリアンヌを虐めたことはない。けれど美しく可愛らしいマリアンヌが『お姉さまが叩いた』と言えば、父と継母はそれを迷いなく信じた。
(何が、いけなかったのだろう)
馬車に揺られながら、ユーフェミアは目を閉じた。馬車はおんぼろで、隙間風が濡れた肌に吹きつけひどく冷える。こうして、ユーフェミア・エルロッド男爵令嬢はこの日より貴族令嬢ではなくなり――ただの、ユーフェミアとなった。
≋
潮の香りが風に乗り漂ってくる港街、ポートロゼッタ。
海洋通商ギルドが設置されているこの街は、王国の玄関口として昼夜を問わず賑わいをみせている。
様々な国の言語が飛び交うそんな街の桟橋に、たった今、一隻の貨物船が到着した。
船から桟橋へ梯子がかけられ、商人風の男が降りてくる。商人は桟橋に立つと遜るよう揉み手をしながら、厳めしい風貌の男にへらりと軽薄な愛想笑いを送った。
歳はおよそ30代前半ほどに見えるその強面な男は、思わず目を引くような美しい容姿をしている。小麦色の肌に、襟足まで伸びたダークブロンド。涼やかなアッシュブルーの瞳に高い鼻梁、薄い唇――。ルビーの耳飾り。
『いやぁ、お久しぶりですギルドマスター殿! 直々にお出迎えくださるとは光栄ですなぁ! いやはや――』
商人が長ったらしいお世辞をペラペラと喋り始める。扱われている言語はこの国の言語のものではなく、海を渡った隣国タルシェの公用語。するとギルドマスターと呼ばれた美貌の男は、隣に立つ、赤銅色の髪に緑の瞳を持った女性へ目くばせした。
「ミア、通訳を」
ミアと呼ばれた女性が頷き口を開く。
「お久しぶりです、ギルドマスター殿。直々にお出迎えくださり光栄です。……以下、ギルドマスターの容姿を褒めるお世辞です。訳しますか?」
「いや、いい。今日は積み荷を改めに来たとだけ伝えろ。この男は以前ワイン500本の箱に、不法移民を紛れ込ませてたからな」
「かしこまりました」
ミアが即座にタルシェ語へ切り替えて伝えると、商人の顔が引きつった。美しく完璧な発音、そして的確で無駄のない翻訳。ギルドマスターであるアーノルドは密かに感心しながらミアの横顔を盗み見る。
(流石だな、我が通訳係殿は)
彼女が秘書となってからというもの、港での業務が驚くほどスムーズになった。
様々な国の船が引っ切り無しに出入りするこの港では、多種多様な言語が飛び交う。アーノルドはギルドマスターとして、港でトラブルが起きた際はその対処に当たらなければならない。だが、すべての言語を完璧に理解し問題を解決するのは至難の業だ。地方特有の方言なども入り混じるためである。それゆえにアーノルドは、この言語問題にいつも頭を悩ませていた。
しかしミアを雇ってから、そういった言語問題に悩まされることは一切なくなった。なぜなら彼女は周辺国の言語、方言も含めすべてを把握し、自在に操ることができる非常に優秀な人材なのである。
港での業務も終わり、アーノルドとミアはギルドマスターの執務室へと足を運んだ。
重厚な扉がバタンと閉まる。手元の書類を確認していたミアが、午後の予定について尋ねようと顔を上げたその時。
「あの商人、ミアのことをジロジロ見過ぎだ。よっぽど目玉をくり抜いてやろうかと思ったぞ」
背後からぬっと現れた二本の逞しい腕が、ミアの体をきつく抱きすくめる。そしてアーノルドは彼女の肩口へ甘えるように顎を摺り寄せた。
「過激な発言はお控えください、ギルドマスター。それに、その……まだお昼です。仕事に戻ってください」
「嫌だ、ミア成分が足りない。補給しなければ動けない」
「もう、そんな子供みたいなこと。ギルドマスター、首に息があたってくすぐったいので離れて……っ」
「ミア、二人の時はアーノルドと呼んでくれっていつも言っているだろう? あと離れるのは無理だ、君が可愛すぎるから」
アーノルドはそう言うとミアを腕の中でくるりと回転させ、彼女へ熱い口づけを落とした。がっちりと頭を固定されミアは動くことができない。
――二人きりの時はいつもこうだ。普段は鉄仮面で取り付く島もない、誰もが恐れ敬うギルドマスターであるアーノルドは、ミアの前でだけとろけるような甘い顔を覗かせる。
商会の執務室でいちゃつくなど、本来であれば言語道断な行いだ。
けれど、ミアはやがて抵抗を止め、彼の口づけを受け入れた。彼女の心の傷を埋めたのは、いつだってこのアーノルドの溺れるほどの愛だったから。彼の手を振り払うことができず、結局最後はこうしていつも丸め込まれてしまう。
かつて家族に捨てられたユーフェミア・エルロッド男爵令嬢――けれどこの時ばかりは、ただのミアでいられる。
「愛してる、ミア」
熱が籠もった彼のアッシュブルーの瞳に、ユーフェミアはいつかの自分を見た。
――アーノルドと初めて出会ったのは、ポートロゼッタから遠く離れた王都だった。
家族によって奴隷商人に売り渡されたユーフェミアは、牢に入れられ『商品』となった。そこで彼女は、タルシェ公国から売られたという年若い女性リーナと仲良くなる。彼女には将来を約束した恋人がいたらしいが、ある日突然奴隷商人に拉致されてしまったという。
そんなある時、潮の匂いを漂わせながら『彼』は現れた。
第一印象は、胡散臭くて美しすぎる男、だったと思う。
商人との会話で、ユーフェミアは彼がタルシェ語を話せる人材を欲していることを知る。他の国の言葉を話せる奴隷がいればその奴隷も買うと。
彼に買われることになったリーナは、手で顔を覆って可哀想なくらい咽び泣いた。
だから、ユーフェミアは彼――アーノルドへこう提案したのだ。
『私はタルシェ語を含んだ周辺国の10か国語を完璧に話せます。まさに貴方様が求めておられる人材かと。ですが私を買うのなら条件があります、彼女、リーナを解放してあげてください』
奴隷風情が何を偉そうに、と一蹴されるのが関の山と思ったが、アーノルドはあっさりと条件を呑みリーナを開放してくれた。そして、ユーフェミアのことも。彼はポートロゼッタに到着すると、ユーフェミアを奴隷としてではなくギルド職員として雇いたいと提案してきた。
行く当てもなかった彼女は、アーノルドの提案を受け入れ、彼の通訳係兼秘書平民の『ミア』としてギルドで働くこととなった。
そこでがむしゃらに働くうち、次第にアーノルドと打ち解けるようになり、やがて彼からの熱烈な告白で押し切られ二人は恋人同士になったのだが――。
「ミア、今日は付き合って3年の記念日だろう? 仕事が終わったら、灯台のレストランへ食事しに行かないか」
「そ、そうですけど。でもあのレストランって超高級店ですよ」
「もちろん俺が御馳走する。君と出会えたことを祝いたいんだ。な……いいだろう?」
如何せんこのアーノルドという男は、恋人であるユーフェミアをいつもどろどろに甘やかす。
業務が終わり、折れた彼女はアーノルドと共に灯台のレストランへと足を運ぶことにした。
一応、二人が恋人同士であるということは秘密にしてある。けれど人通りの多い商店街でよくデートをしているので、姿を見かけたことのあるギルド職員も少なからず居るはずだ。
だがアーノルドの怒りを買うのを恐れてか、事立てて騒ぐものはおらず、二人の関係は暗黙の了解となっていた。
橙色のランプがいくつも吊り下げられた明るい商店街。
白い天幕をくぐりながら、ユーフェミアとアーノルドが石畳を歩く。握られた彼の手はごつごつしていて、彼女の手を覆いつくすほど大きい。ふと隣に顔を向けると、冷涼で美しい横顔が見えた。
(ほんとうに、綺麗な人)
今夜彼が身に纏っているのは、上品な紺のフロックコート。いつもは実用的な革コートを羽織っているので、そのギャップでドキドキしてしまう。どこかの国の王子様と言われても納得してしまいそうな風貌だ。
(不美人な私にはとても釣り合わない……)
身に余る恋人だといつも思う。
彼の恋人であり続けるのは幸福だが、同時に強い劣等感と罪悪感に襲われ彼女の心を苛む。
家族に売られた、みじめな元貴族令嬢。愛される資格などないのに愛に飢えている。まだ家族が自分を捜しに来て、買い戻してくれるのではと心のどこかで期待している、救いようのない愚かな娘。
それがユーフェミアという人間だった。
「どうしたミア、気分がすぐれない……? どこかで休もうか」
ひどく優しい声が降り注いで、ユーフェミアは顔を上げた。
「いいえ、大丈夫です。メインディッシュはお肉と魚、どちらにしようかと迷っていました」
「ふふ、そうだったのか。じゃあ俺がミアの選んだほうと違うのを選んで、半分わけてあげよう」
高級店でそんなことをしたらひんしゅくを買いそうだ。けれどアーノルドの優しさが嬉しくて、ユーフェミアは思わず顔を綻ばせた。しかしすぐに呪いの言葉が蘇り、彼女の心を支配する。家族の凍てつくような冷たい目が。
『お前など、俺の子供ではない』
(勘違いしちゃ駄目よ、ユーフェミア。家族に捨てられた私が、彼から本当に愛されているなんてあるわけがない……)
この時ユーフェミアは気づかなかった。そんな仲睦まじい二人の様子を、ある人物が盗み見ていたことを――。
≋
次の日の朝。
今日は久々の非番だ。ユーフェミアは自宅である質素なアパートで朝食の準備していた。熱したフライパンの上で、ベーコンエッグがジュージューと食欲をそそる音を立てている。その時、コンコンと扉を叩く音が響いた。
「はい、すこしお待ちください」
アーノルドが仕事前に立ち寄ったのだろう。そう思ったユーフェミアは料理の手を止めると、エプロンで手を拭いながら玄関へと向かい、覗き窓を見ずに扉を開けた。
だがそこに居たのはアーノルドではなく、思いもよらない人物であった。
「……マ、マリアン、ヌ……!?」
ユーフェミアの異母妹である、マリアンヌ・エルロッド男爵令嬢。
マリアンヌはユーフェミアの頭からつま先までをジロジロと値踏みするように眺めると、やがて美しい顔に薄笑いを浮かべた。
質素な貸アパートに似つかわしくない、フリルがふんだんにあしらわれた桃色の豪奢なドレス。艶やかな金髪は一糸乱れず美しく巻かれ、耳や首元には大きな宝石が嵌った高級そうな装飾品が飾られている。
一目見るだけで、マリアンヌの裕福な暮らしぶりが伝わってくる。対してユーフェミアはシンプルな白のリネンシャツにブラウンのロングスカート。実用性を重視したみずぼらしい、良く言えば質素な装いだ。
ユーフェミアが呆気に取られていると、マリアンヌは冷たく目を細め口を開いた。
「お久しぶりです、お姉さ――いえ、ユーフェミア。しばらく見かけないうちにずいぶんと痩せたわね? それにしてもまぁ、よくこんな薄汚い犬小屋のような狭い部屋に住めること。私なら絶対無理だわ」
「……っ」
ユーフェミアは恥じた。質素な部屋に住んでいることをではない。マリアンヌの姿を見て、一瞬でも喜んでしまった自分の愚かさを。
「それでね、ユーフェミア。今日はおまえに忠告をしてあげに来たの」
「ちゅう、こく……?」
やっと出た声は掠れていた。マリアンヌの瞳に、姉に対しての嘲りと隠し切れない優越感の色が浮かぶ。
「単刀直入に言うわ。今後一切、あのお方に近づくのはおよしになって」
「え……?」
あのお方。誰のことかわからずユーフェミアは思考停止してしまう。彼女が固まっていると、マリアンヌは苛立ちつよう舌打ちをし言葉を続けた。
「察しが悪いわね、いいこと? あの方おまえなどが軽々しく口を利けるような方ではないの。なぜなら彼は、現辺境伯家当主であらせられるアーノルド・フォン・ローゼンヴァーグ閣下なのだから」
アーノルド・フォン・ローゼンヴァーグ辺境伯。
その名にユーフェミアは大きく目を見開く。ローゼンヴァーグ辺境伯家といえば、国内でも指折りの大貴族だ。国境や港を長年守護してきたかの家は、貿易によって巨万の富を得たことで、王家に匹敵する権威と軍事力を保持しているという。
その大貴族であるローゼンヴァーグ辺境伯家当主が、あのアーノルド――?
「昨晩おまえと閣下が歩いている姿をたまたま見かけて、本当に驚いたわ! 男爵家から放逐されて平民同然の身であるおまえが、どんな色仕掛けで愛人の座についたのかはわからないけれど――身の程を知りなさい。それに彼はこの私との婚約が決まっているのよ! アーノルド様は、未来の私の夫なの!」
「ア、アーノルドとマリアンヌが婚約……!?」
ショックでユーフェミアの顔がみるみるうちに青ざめていく。するとマリアンヌは愉快でたまらないとばかりに、口の端を吊り上げた。
そして不吉な笑みをたたえつつユーフェミアの耳元でこう囁く。
「おまえは、家族から捨てられた要らない子。そんなおまえが、彼から愛されるなんて本気で信じたんじゃないでしょうね? 遊ばれているに決まってるでしょう!? ――あの後、エルロッド家はおまえを売ったお金で持ち直したわ。けれど、お父様もお母様も、ユーフェミアを買い戻そうなんて一言も口にしなかった。……おまえは、誰にも愛されない運命の元に生まれた人間なの。それをよく覚えておくことね!」
そう言い残し、マリアンヌは嵐のように去っていった。
ユーフェミアは、フライパンの上にあるベーコンエッグがすっかり冷めてしまうまで、その場にずっと立ち尽くしていたのだった。
≋
最悪な再会から明くる日。ユーフェミアはいつものように朝の支度をし、何食わぬ顔で海洋通商ギルドへ出勤した。自分でも可愛げがないと女だと思う。けれど悲しいかな、ユーフェミアという人間は元来そういう性質なのだ。
「おはよう、ミア。俺の女神は今日も変わらず可愛らしいな」
執務室に入ると、相も変わらず美しい男が彼女を見てとろけるような笑みを浮かべ、歯の浮くような台詞を口ずさむ。
(本当にこの人が、王家に次ぐ権力と軍事力を持つローゼンヴァーグ辺境伯家当主……?)
そしてマリアンヌの未来の夫。ズキリとユーフェミアの胸が痛む。
「……おはようございます、アーノルド」
名で呼ぶと、アーノルドが「おや?」という顔をした。職場では、いつも頑なに『ギルドマスター』と呼ぶのに、一体どういう風の吹き回しかと。
「どうしたんだミア? ご機嫌斜めと見えるが、もしかして俺は、何か君を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか」
「え……? 怒る?」
眉尻を下げつつそう告げられ、ユーフェミアは驚いた。アーノルドに対して怒りの感情を抱くなんておこがましい、そんなことを思うはずがない。――けれど。
(……アーノルドは、本当に辺境伯当主なの? もしそうなら、なぜ今まで身分を明かしてくれなかったの? マリアンヌと婚約するって、本当?)
私のことは遊びだった?
だがその疑問は言葉にならない。言えるはずもない。彼女の心をただ黒く塗りつぶしていくだけだ。するとふいにユーフェミアの手をアーノルドが掬い上げた。
「ミアがそんな顔をしていると俺も悲しくなる。君さえ良ければ、何があったのか聞かせてくれないか?」
そう言って指先に口づけを落としてくれる彼に、ユーフェミアの沈んだ心が嘘のように浮上していく。
だからこそ思った。彼を困らせるようなことはしたくない、たとえアーノルドの愛が嘘偽りのものであっても。
「いいえ、ギルドマスター。ちょっと、寝不足なだけです。心配なさらないでください」
「そうか……? もし体調が悪くなったらいつでも言ってくれ。君は優秀だが働き過ぎだ」
「ふふ、そうしますね」
ユーフェミアが小さく微笑むと、アーノルドは目元をそっと赤く染めた。その様子を見ると、彼に本当に愛されているのではと自惚れてしまいそうになる。家族から愛されず捨てられた自分が、こんなに美しい人から愛されるはずないのに。彼はきっと、醜く哀れな女にいっときの情けをかけてくれているだけなのだ。アーノルドは、優しい人だから。
主へ一礼し、ユーフェミアは業務のため執務室を去っていく。しんと静まり返る室内で、アーノルドはポツリとこう零した。
「君を悩ませるすべてを滅ぼしたら……ミアは、俺のことだけを見てくれるか……?」
≋
それは、本当に偶然の出来事だった。
その日の午後、ユーフェミアは過去の取引帳簿を確認するため、アーノルドに許可を貰い彼の執務室へ足を運んでいた。
(マリアンヌの言ったことが本当なら……私は……)
取引帳簿は棚の上。ユーフェミアが背伸びをすればギリギリ届く高さだ。彼女はつま先立ちになり、ファイルへ必死に手を伸ばした。すると足元のバランスを崩し、その拍子にファイルの隣にある小箱に指が触れてしまう。
ガシャン!
という音と共に、ファイルと小箱の中身が床へ散らばる。
「あっ、いけない……!」
ユーフェミアは慌ててしゃがみ込み、散らばった書類と小箱の中身を拾い集めようとした。するとその中にある、銀色の懐中時計に目が留まる。落下の衝撃のためか、その蓋は開かれていた。
「硝子にひびが入っていないかたしかめなきゃ……!」
不安になった彼女は懐中時計を手に取り、時計が壊れていないか確認しようとする。そしてユーフェミアは、蓋の裏に描かれていた紋章を見て、息を呑んだ。
(蛇と三叉鉾の紋章。これは、ローゼンヴァーグ辺境伯家の紋章だわ!)
その瞬間、彼女の脳裏に昨晩告げられた言葉がぶわりと呪いのように蘇った。
『――いいこと? あの方はお前などが軽々しく口を利けるような方ではないの。なぜなら彼は、現辺境伯家当主であらせられるアーノルド・フォン・ローゼンヴァーグ閣下なのだから』
「……マリアンヌの言っていたこと、本当、だったんだ」
パチン、と懐中時計の蓋が閉められる。
その後ユーフェミアは謎の吐き気に襲われ、ギルドの駐在医師を尋ねたところ、またもや衝撃の事実が判明する。
「妊娠、ですか……!?」
ユーフェミアは今度こそ目の前が真っ暗になった。
もし、マリアンヌから脅されていなければ。もし、アーノルドが高位貴族であることを隠していると知らなければ。彼女はアーノルドに妊娠のことを打ち明けたかもしれない。
けれどユーフェミア怖くなった。もし彼に妊娠を打ち明けて、それがもしマリアンヌや家族に知られたら、子供の命が狙われるかもしれない。なにせユーフェミアを奴隷商人に売り渡すような家族だ。その可能性は大いにある――。
ゆえにユーフェミアは決心した。
自分と子供の命を守るため、アーノルドの元を去り、ひっそりと子供を産み育てようと。
覚悟を決めた彼女は、アーノルドに気取られることなく淡々と引き継ぎ業務を行った。そして自分が去ってもギルドの業務が滞りなく行われると確信した後、タルシェ行きの船へ、一人乗り込んだのだった――。
≋
「君の子は天才だよ、ユーフェミア! 5歳で10か国語をマスターするなんて本当に信じられない! 将来はタルシェ公国を支える筆頭文官になること間違いなしだ!」
――ユーフェミアが単身タルシェへ渡った、5年後。
彼女は『アラン』と言う名の元気な男の子を産んだ。行く当てのなかったユーフェミアだが、着いた先の港で幸運にもリーナと再会することができ、彼女の住んでいる街に移住することが叶う。
リーナの婚約者はなんと子爵家の三男で、牢から解放された後二人は無事結ばれたらしい。リーナの夫の、準貴族としてのつてもあり、ユーフェミアは貴族の令嬢や令息に語学を教える家庭教師として生計を立てていた。
「恐縮です、若様」
「ユーフェミアは本当に控え目だよね。まぁそこが貴方の良い所なんだけど! ふふ、僕の愛しのユーフェミア……」
金髪碧眼の子爵令息であるロバートは目を細めると、ユーフェミアの手に自らの手を添えた。そしてうっとりした視線を送られ、ユーフェミアは鳥肌を立ててしまう。気まずくて視線を左右に彷徨わせる。
(はぁ……困ったわね。リーナの紹介で働かせてもらっている以上、乱暴に手を振りほどくわけにもいかないし)
子爵家の静かな図書室。ロバートもまたユーフェミアの生徒で、週に3回語学の勉強を教えていた。彼が17歳に対しユーフェミアは23歳で子供もいる。ゆえに恋慕の情を抱かれるなど微塵も考えていなかったのだが――。
ユーフェミアが内心深いため息を吐いていると、窓の外で正午を知らせる鐘の音が鳴った。
(助かった!)
「本日の授業はここまでになります。それでは私はこれにて、若様」
彼女はするりと手を引き抜くと、平坦な声でロバートへ別れの挨拶を告げる。ロバートは何か言いたげだったが、ユーフェミアは気づかない振りをして、足早に子爵家を去ったのだった。
≋
「迎えが遅くなってごめんなさい、リーナ!」
街の高台にある大きな屋敷。ユーフェミアは薔薇が咲き誇るアーチを潜り抜けると、庭で洗濯物を干している女性に駆け寄り声をかけた。その声に女性――リーナがパッと表情を明るくして振り向く。
「あらユーフェミア、お疲れ様! そんなこと気にしないでいいのよ、アランは私の息子同然だもの!」
「ありがとうリーナ、いつも本当に助かってるわ。これ、少ないけれど」
ユーフェミアが銀貨を差し出すと、リーナは呆れたように笑い首を振った。
「もうっ! お金は要らないっていつも言ってるでしょう? あんなに可愛い子の面倒を見れるんだから、こっちが払わせてもらいたいくらいよ」
リーナは普段、ベビーシッターとして子供を預かりお世話をする仕事をしている。だがほとんど慈善活動のようで、お金は受け取っていないらしい。代わりに、新鮮な卵や野菜を受け取る姿をユーフェミアはよく見かけていた。
「でも申し訳なくって」
「じゃあ今度、二人で街にコーヒーでも飲みに行きましょう?」
「……ありがとう、リーナ」
笑い合う二人。すると庭の奥から小さな影が駆け寄り、ユーフェミアのスカートに勢いよく飛びついた。
「ママ、おかえりー!!」
「ただいま、アラン。いい子にしてた?」
「うんっ!」
そう言って満面の笑みを見せるのは、ユーフェミアの一人息子であるアランだ。
ダークブロンドの髪に緑の瞳。顔立ちは父親であるアーノルドに瓜二つの美しい少年。そして齢5歳にして10か国語を堪能に操る天才児でもある。
「ねぇママ! いいこにしてたから、港にあそびにいっていーい?」
「港? 海に近いから子供だけじゃだめよ」
「えーっ」
残念がって頬を膨らますアラン。すると屋敷の中から背の高い青年が現れて二人に声をかけた。
「じゃあ私がアランと一緒に港へ行くよ。絵の仕事もひと段落ついたしね。それでいいかなリーナ、ユーフェミア?」
彼はリーナの夫であるセドリックだ。準貴族である彼は、子爵家の実家からの支援を受けつつ、現在は画家として生計を立てている。セドリックは最愛の妻であるリーナの頬にキスをすると、ユーフェミアへ微笑みかけた。
「セドリックが見ててくれるなら安心じゃない?」とリーナ。
「じゃあ……お言葉に甘えていいかしら」
「もちろんよ!」
「ありがとう二人とも。……じゃあアラン、セドリックおじさんの言うことをちゃんと聞くのよ。海には絶対近づかないように」
「はぁーい! やったぁー!」
ぴょんぴょんその場で飛び跳ねて喜んだ後、アランはセドリックと共に港へと向かっていった。女性二人が取り残されると、ふいにリーナが思い出したと言わんばかりに口を開いた。
とても、驚くべきことを。
「そういえば聞いた? 貴方の故郷で大きな事件があったらしいわよ。なんでも、闇の奴隷商で儲けていた悪徳貴族が捕まったとか。家名は確か……そう、『エルロッド男爵家』だったかしら。捕まえたのは、港で幅を利かせてる大貴族の、ローゼンヴァーグ辺境伯家のご当主様ですって。一家は国賊として処刑されたそうよ。これを機に奴隷商人なんてこの世から居なくなればいいのよ! ねぇユーフェミア――」
多分、相槌は打てていたと思う。
その後ユーフェミアはリーナと別れ、青白い顔をしながら、ふらふらとした足取りで帰路へとついた。
≋
ユーフェミアとアランの家は、リーナの家のすぐ傍にある。
二人で住むのにちょうどいい広さの、煉瓦造りのこじんまりとした家だ。ユーフェミアはぼうっとしながらドアを開けると一目散にベッドへ飛び込んだ。
ふかふかの白いシーツに顔を埋めながら考える。
まさか5年経って、家族――いや、元家族や最愛の人だった彼の名前を聞くことになるとは思わなかった。
「アーノルド……」
名を呟けば、ずっと抑えていた愛しいという気持ちが洪水のように溢れて胸を満たす。そして複雑な感情も。自分を捨てた家族がまさか奴隷商に手を染めていたなんて。しかもそれを断罪したのは、最愛の人であるアーノルドであるとは。これは偶然の出来事なのだろうか、それとも――。
ユーフェミアが思い耽っていると、ふいに扉からコンコンというノック音がした。
彼女はノロノロと身を起こすと、ゆっくり扉を開けた。この家には覗き窓がない。
「アラン? 早かったわね――」
「やぁユーフェミア! 突然訪ねてきてすまないね」
「わ、若様」
ユーフェミアは冷や水でも浴びせられたようにギョッと目を見開いた。まさか子爵令息であるロバートが訪ねてくるなんて露ほどにも思っていなかったし、なにより彼の手には真っ赤な薔薇の花束があったからだ。
彼女と目が合うと、ロバートは白皙の頬を真っ赤に染めた。彼女の背を嫌な予感が撫ぜる。
「貴方が好きだ、ユーフェミア。どうか僕と結婚してほしい」
「……若様、それは」
答えを聞く前にロバートが声を荒げる。
「なぜなんだ、ユーフェミア……!? こんなに愛してるのに! 僕は歳の差も身分の差も気にしない。アランのことだって愛せる自信がある!」
「お気持ちは嬉しいですが、貴き身分であらせられる貴方様に私ごときが相応しいとは思えません。お若いのですから、どうぞお考え直しを」
「ハハ……ユーフェミア。僕は、貴方のそういう奥ゆかしいところにいつも、心をかき乱されるんだ。貴方の愛が欲しすぎて欲しすぎて、今にも正気を失ってしまいそうだよ」
ロバートの瞳から光が消え失せると同時に、薔薇の花束が地面へグシャリと落ちる。
するとロバートは突然、ユーフェミアの細い手首をグッと握りしめ、そのまま彼女を家の中へ連れ込もうとし始めた。
「痛……っ! お、おやめください若様! 何をなされるんですかっ!」
「貴方がいけないんだよユーフェミア! 僕の愛を無下にする貴方が……! こ、こうなったら体でわかってもらうしか――」
予想だにしなかったロバートの暴走に、ユーフェミアが背筋を冷たくさせたその時だった。
「それ以上彼女に無体を働けば首を切り落とす。言っておくが、本気だぞ」
冷淡でいて、狼が低く唸るような声がした。その懐かしい声にユーフェミアはハッと目を見開く。顔を上げると、そこにはかつての恋人で絶世の美丈夫である――アーノルドの姿があった。
彼は胡乱なまなざしで、ロバートの首に剣をひたりと突き当てている。剣にぐっと力が込められると、ロバートは思わずといった様子で情けない悲鳴を上げた。
「ひっ……!」
「去れ。そして二度と彼女の前に現れるな」
尋常ならざる殺気に、剣を向けられているわけでないユーフェミアも額に汗を滲ませる。
「ひ、ひいいい!!」
すると殺気に耐え切れなくなったロバートは、犬が尻尾を巻いて逃げるようにその場を去っていった。
辺りがしんと水を打ったように静まり返る。腰を抜かしその場に尻餅をついていたユーフェミアは、そっとアーノルドに視線を向けた。
懐かしくて、呼吸が止まる。
小麦色の肌。鈍く輝くダークブロンドの髪。アッシュブルーの瞳は、何があったのだろうか、左眼が眼帯で隠されている。顔立ちは変わらず美しいが、どこかやつれたような薄暗い悲壮さを帯びていた。
身に纏っているのは、大貴族に相応しい黒い毛皮のコート。身丈の高い彼がそれを羽織れば対峙するものに威圧感を与える。
「五年もの間、ずっと、君を捜していた」
黒い革手袋を嵌めた、すらりと長い指がユーフェミアへ差し伸べられる。彼女はしばらく迷ったのち、その美しい手に自らの手を重ねた。
「ミア……いや、ユーフェミアが居なくなって、心配でしばらくは食事もままらなかったよ。周りは俺に愛想を尽かして出ていったんだって言った。一時はそれを信じたくて君を憎もうとしたが、できなかった。それで……捜して、捜し続けて……色々あったが、やっとこうして会うことが叶った。世界で一番愛するユーフェミアに」
「アーノルド」
彼女が名を呼ぶと、アーノルドの片目からはらはらと真珠が落ちるように涙が零れ落ちた。ユーフェミアが驚いて息を呑むと、彼は縋りつくよう彼女を腕の中に閉じこめた。ユーフェミアの呼吸がままならないほど強く。
「ごめんなさい、アーノルド、私……」
「いいんだ、わかってる。君が、君の家族にどんな目に遭わされてきたかも全部。だが、もう心配はいらないよ。君を脅かすものは全部滅ぼしたから」
「マリアンヌとの婚約話があったんじゃ」
「そんなものあるわけない。俺には、後にも先にも君だけだ、ユーフェミア。君だけをずっと愛してる」
「……っ」
ユーフェミアを貶めたエルロッド男爵家を、容赦なく滅ぼした彼を恐れるべきなのだろうか。捨てられたとはいえユーフェミアとは血の繋がった家族。けれど――。
「ユーフェミア、君も、今でも俺を愛してくれている……?」
泣きはらして縋るような瞳に、彼女への執愛が宿っている。最愛の人の家族を滅ぼしたというのに、アーノルドはそれでも愛を乞う。ほぼ、正気を失いかけているのだろう。
けれど、いつかのように指へ口づけを落とされれば、ユーフェミアは素直にこう返事をするしかなかった。
「はい、愛して、ます。愛していました、ずっと」
ユーフェミアは、アーノルドの溺れるほどの愛を受け入れることにした。
「嬉しい、俺のユーフェミア……! 世界で一番君を愛してる」
そうして、二人はしばらくの間抱きしめあっていた。
――すると、家の門の奥から声が聞こえた。
「あ、アーノルドおじちゃんここにいたぁ! きゅうにはしってくから、びっくりしたよー!」
「ア、アラン、おかえりなさい……! ええと、二人はもう知り合いだったの……?」
最愛の息子アランの登場に、ユーフェミアは慌ててアーノルドから身を離す。アーノルドはそんな彼女に苦笑しつつ、駆け寄ってきたアランを両手で軽々と抱き上げた。目線が高くなったアランが、楽しそうなはしゃぎ声を上げる。
「あぁ、港で困っていたところをアランに助けてもらったんだ」
「そうだよー! アーノルドおじちゃん、タルシェ語がにがてでこまってたの! あかい『かみ』のひとをさがしてるっていおうとして、あかい『かめ』をさがしてる、ってまちがえてたんだよっ! えへへ、おもしろいでしょ!」
「さっきは本当に助かったよアラン、ありがとう。困っている人を放っておけない優しさも、その語学の才能も……お母さんに似たんだな」
そう言って眩しそうに目を細めるアーノルドの表情は、深い慈愛に満ちていた。するとアランは不思議そうに瞬きをして、そっと小さな手を伸ばした。風に揺れる、自分と同じ色をしたその髪へと。
「おじちゃんのかみ、ボクのかみのいろ、いっしょだねぇ」
そんなアランとアーノルドのやりとりを見て、ユーフェミアは思わず瞳を潤ませた。
「……アラン。むかし、アランのパパはどこにいるのって、聞いてくれたことがあったわよね……?」
パパ、という言葉を聞いたアランは花が咲くように表情を明るくする。
「うん! パパは、うみのむこうにいるんだぁ! かっこよくて、やさしくて、ママのヒーロー! ボク、パパにあったことないけど、パパのことだいすきなの。だってママがだいすきなひとだもん」
だから、いつかパパにあえたらいいなぁ。
アランから無邪気な笑顔を向けられ、アーノルドは喉が詰まったように息を呑み、やがておずおずとユーフェミアへこう尋ねた。
「ユーフェミア、アランは、この子はやっぱり……」
「――はい、アーノルド。アランは、私と貴方の子供です」
「っ!!」
アーノルドはその言葉を聞くと、泣き出しそうな笑みを浮かべた。アランは目を大きく見開き、白い頬を興奮で真っ赤に染め上げる。
「えっ!? アーノルドおじちゃんがぼくのパパっ!?」
翠玉のような瞳が『嬉しくてたまらない』と言いたげにキラキラ輝きだす。
「あぁ、アラン。俺が君のパパだ。……今まで傍に居てやれなくて本当にすまなかった。アランさえよければ、これからは傍に居させてほしいと思っている……どう、かな?」
するとアランは返事をする前にアーノルドの首に抱き着き、彼の肩口へ顔を埋めた。そして急にしおらしくなり、恥ずかしそうに小さな声でアランは呟いた。
「うん、いいよ。アーノルドおじちゃんが、ほんとうにボクのパパなの? ゆめじゃない? ずっと、ボクのそばにいてくれる……?」
「あぁ、夢じゃない。ずっと一緒に居ると約束する。……これから、たくさん一緒に遊ぼうな。――アランは、船が好きか?」
するとアランは、先ほどのしおらしさが嘘のようにバッと勢いよく顔を上げた。
「すきっ! おふねのりたい!」
「ふふ、じゃあパパとママと一緒にうんと大きな船に乗ろう。船長とは知り合いだから、舵を取らせてあげるぞ」
「やったぁー!」
キャッキャと腕を上げ無邪気にはしゃぐアランに、アーノルドは目尻を下げて顔を綻ばせる。
すると彼はユーフェミアへ顔を向け、優しいまなざしを湛えながら彼女へ手を差し伸べた。
「君もおいで、ユーフェミア」
ユーフェミアは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに花が咲くような幸せな笑みを浮かべ、やがて彼の手を取った。
引き寄せられると、心地よい温もりが彼女の肩を抱く。ユーフェミアはそっと目を閉じた。かつて家族に捨てられ、冷たい雨に打たれていた記憶が、まるで遠い夢のように溶けていくようで。
孤独の海を彷徨ったユーフェミアの長い長い航海は、今ここに終わりを告げた。ほんとうの家族という、安住の港に錨をおろして。
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