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3月。春季大会が終わり1週間のオフを挟んだ
桑山ボーイズは、とある市民会館に集まっていた。
「それでは、第9期生入団式を行います」
マイクを持った高島が話す
今日は桑山ボーイズ新中学生の入団式だった。
コーチの高島が視界を務め代表、監督へとマイクが渡る
「それでは、ここで桑山ボーイズキャプテンから一言
頂きます。キャプテン、前へ」
高島の合図で1人の選手が階段を登りマイクを取る
「キャプテンの白田甲です。入団した皆様、おめでとうございます。」
珍しく緊張している白田に2.3年生は少し笑いそうだった。
その中には一輝もいた。
〜1日前〜
公民館に集まった監督、コーチ、選手達はミーティングを始めた。
先週の試合の労いの言葉や次の課題などを話していると
1人の選手が遅れてやってくる。
主将の一輝だ。右手首にはギプスが付いていた。
「皆も知っていると思うが試合の後病院に行った星
だが、橈骨遠位端骨折だったそうだ。
最低3ヶ月のリハビリが必要となる。」
監督のその言葉に皆は絶句する。
一輝は監督に自分からも話してみろと言われ皆の前に立つ
「ということで俺は3ヶ月野球ができない。
リハビリに全力を注ぐ!勿論チームのサポートもだ!
3年生最後の夏なのに申し訳ない」
そう言い深々と頭を下げる
他の選手達はその言葉を深く噛み締める
3ヶ月。今から3ヶ月後ということは
関東大会はおろか夏の選手権大会予選には間に合わないと言うことを暗に示していた。
一輝の居ない試合への不安よりも最後の夏の試合に
出れないという現実。
同じ3年生にはその気持ちが痛いほど分かる。
にも関わらず一輝自身はやってしまったと軽く
話していた。
「サポートするにあたって俺はキャプテンを降りる。
白田、ピッチャーで大変だろうけど任せていいか?」
「え??」
急な指名に白田が思わず声を上げる
「急で悪いがやっぱり選手を引っ張るキャプテンは
試合に出ていた方がいいんじゃないかと思うんだ」
「ちょ、ちょっと待て星!お前はそれでいいのか!?」
御手洗が大きな声でそう言い席を立ち上がる
「このチームを作ってきたのは星だろ?!
それに監督達はそれを容認してるのか?!」
監督を見ながら言う
「あぁ。ワシが承認した」
苦虫を噛み潰したような顔で監督が告げる
「納得できません。白田がダメと言ってるんじゃありません。星だからこのチームは秋、春と勝ち続けられたんです。」
島崎も続く
「おれもそう思います。なぁ星、ベンチでもやれる。
俺らはお前だから着いてきたんだ」
白田も立ち上がり言う
「...」
部屋が静寂に包まれる
ガタッと1人の選手がその場に立つ
「俺は一輝と監督に賛成です」
そう言い放つのはバッテリーとして今までチームを
引っ張ってきたエース、天野焦斗。
「白田。ピッチャー達をまとめるのは俺がやる。
だから...一輝の気持ちを組んでやってくれないか??」
「天野...」
長年の相棒の力強い言葉に...何より普段あまり自分の意志を伝えない焦斗が言うことだ。皆何も言えない
そんな中、その光景を黙って見ていた一輝が口を開く
「俺は...俺の怪我は桜木ボーイズの時から違和感があったんだ。」
その言葉にピクっとする結
「マネージャーの静止を振り切って決勝も出た。
痛みを隠してだ。戸山がマスクを被ってたらもしかしたら結果も違ったかもしれない。
俺は自分のエゴを優先してチームを危機に陥れたんだ」
皆の視線が一輝に集まる
「怪我で...出れない、チームより...自分を優先した俺が
今...このチームで頭を張れる資格は...ない。」
一輝の言葉が震え始める
「それでも...俺は...ぐっ...このチームに居たい...
俺が復帰して...試合に出るかは監督次第だが...
必ず戻ってくる...それまで白田.....チームを引っ張ってくれ....すまない」
1粒の雫が床に落ちる
しばらくの静寂の後、白田が声を上げる
「...わかった。引き受けるよ。星」
「.....すまん」
「だが勘違いするなよ。それは夏の予選までだ」
「え??」
「ナニ呆けた顔してんだよ!当たり前だろ!」
ポカーンとした一輝に御手洗が告げる
「必ず戻れよ星。それまで俺も白田を支える。
お前も一緒にサポートしてくれるよな?」
「島崎...」
ふっと笑い焦斗が続く
「みんな待ってるんだ。しっかり治して天王にリベンジするぞ。一輝」
「焦斗...」
頬をなぞるように涙を流す一輝に
スっと結がハンカチを差し出す
「結...」
「ちゃんと戻ってきてよね!泣き虫キャプテン!」
そう言う結にも涙が零れていた。
「しっかり治してくださいねキャプテン!」
「関東大会も夏の大会もどっちも取りますから!」
「サポートお願いしますよ!!」
他の選手達もそう一輝に言い放つ。
いつの間にか監督の顔は穏やかなものになっていた。
「みんな...ありがとう....!!
絶対に戻ってくる!夏は俺らが1番になるぞ!!」
「「おぉぉ!!」」
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数週間後、関東大会予選。青梅スタジアム
初戦を戦う桑山ボーイズは町川ボーイズとの試合を
行っていた。
桑山ボーイズは例年通り新1年生、2年生を中心に
試合を行う体制だ。
荒削りなチームだが何とか勝利を納め2回戦へコマを
進めた。
次の秋川ボーイズと瀬田東ボーイズの試合の前
指揮を取った高島のミーティングを終えチームは解散
した。
「一輝〜これ持ってってー」
「おいおい怪我人にこんなの持たすなよー」
「女の子にもこんなの持たすなー」
ジャグを左手で持ちながら一輝が結に文句を垂れて
歩いていると、スタンドに居る1人の男に注目が
集まっているの2人をを見た。
「ねぇねぇ...あれって...!」
「まじか!本物?!なんで?!」
観客がザワザワ噂事を言っている
2人が目線を移すとそこには歳が40〜50代と思われるが
180cmは超えている身長、ガタイのいい体つき。
更にサングラスを掛けていて
とても只者とは思えなかった。
「パパ!?」
結が驚くようにそういうと一輝が「は?!」っと驚く
その声に気づいた男は嬉しそうにこちらに寄ってくる
「結ちゃん〜!!お久〜!!2ヶ月と14日ぶり!」
「ね〜キモイー!人前でやめてよ〜!」
抱きつこうとする男に結が逃げながら罵詈雑言を飛ばす
彼は結の父、朝日智幸
NPBで3度の三冠王、メジャーで本塁打王を4回
打点王を4回、首位打者2回、MVP5回と規格外の成績を
残した日本人プレイヤー最高傑作と言われた男だ。
「智幸さん!お久しぶりです!」
一輝が挨拶するとその男がピタリと止まり振り向く
「一輝!何やってんだこんな所で!」
「いやいやこっちのセリフですよ?
俺らは試合だったんです。」
「あー桑山今日試合かー。てことは親父も?」
「いや、今日は居ませんよ。」
「そっかー。お前と焦斗の事で話したかったんだけどな。」
「俺と焦斗の事??」
ご視聴ありがとうございました!
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