絶望
6回表、首里ボーイズの攻撃は8番の安里。
ここまで57球と好投を見せてきた桑山ボーイズ先発白田。
初球にフォアボールを出すも9番の宮城をファーストフライに抑える。
続く打者は今日1安打の比嘉琉太。
「白田ー!球はまだ走ってんぞ!
腕振りぬいて来い!ゲッツーで切るぞ!」
キャッチャーの一輝が白田に声をかける
白田は頷きセットポジションに入る。
ビッ!! パァン! 「ストライク!!」
外いっぱいに決まったストレートをミットで鳴らす。
しかし比嘉は、何事も無いように打席に立ったままだ。
(...この打者は選球眼がいいからな。今のは若干外れてたけどとってもらえてラッキーだな。毎回ツーストライクまで振らないって結も言ってたし、今日も実際そうだ。)
一輝が分析し、スライダーを要求する。
白田がランナーを目で牽制し、投球モーションに入る。
スッ... 白田が振りかぶった瞬間、ランナーが走り出す。
「!スチール!」
「!!」
(大丈夫だ白田。ランナーは任せろ。腕を振り抜け!)
ビッ!
打者の膝元からインコースに入り込むフロントドア
一輝が少し体制を変え、ランナーを刺そうとした瞬間
ダンッ!っと比嘉が足を開きながらバットを出す
(な?!2球目から...いや、そんな事より身体を開いた?!スライダー狙いか!?)
一輝が思考を巡らせているのを他所に、比嘉は勢いを殺さずバットを出す。
カッ! キィィィン!!
バットは真芯を捉え、ボールはライトへ伸びていく。
「しゃぁ!!きたぁ!」
「超えろぉ!!」
「帰ってこい安里!!」
打った瞬間、首里ベンチ全員が立ち上がった。
タオルで顔が隠れていた新垣もバッと立ち上がる。
「ッ!バックサード!!」
打球はライトの頭上を超え、フェンスにワンバンでぶつかった。
一輝は配球を読まれたことを後にし
既に3塁ベースへ走っていた安里では無く、打った比嘉を進ませない為に指示を出した。
ダンッ!っと比嘉が2塁ベースを踏みつけ、3塁へ向かう。
既にボールを拾っていた島崎がセカンドへ送球をしていた。
「走れぇ!!」
「間に合う!!」
比嘉を応援する首里ベンチ。
(いつだって俺らチームを引っ張ってきたのは渉だ...)
走りながら比嘉が思い出す。
(厳しかった練習も、予選大会で結果が伴わない俺らを鼓舞し続けて来たのも、全員の思い背負って投げ込んで来たのも、全部全部、渉が居たから...)
「摩耶!!3つだぁ!!」
「おぉぉぉ!!!」
摩耶の声と共に、ボールが3塁へ送られる。
ストライクボールだ。
その時、バッと比嘉が飛び込む。
(何が小さすぎるだ馬鹿野郎...俺らにとってお前は...)
頭から飛び込んだ瞬間、ヘルメットが外れる。
ズザァ!! パンッ!
タイミングはほぼ同時だった。土埃が上がり、手元が確認できずにいた審判。
土埃が無くなり、手元を見る。
比嘉の手はグラブを上手く避け、ベースにタッチしていた。
「...セーフ!!」
「「しゃぁぁ!!!」」
「1点差ァ!!!!」
審判がジャッジした瞬間、球場が今日3度目の盛り上がりを見せる。
打った比嘉はいつも通りクールに土が着いたズボンを叩く。
そしてベンチに向けて拳を突きだす
その拳は、ベンチに向いていたが、視線は1人を見ていた
比嘉をぽかんと見ていた新垣渉だった。
「まだ負けてねーって言ったろ」
比嘉がぽつんとそう言い、拳を下ろす。
なんと言っていたのかは分からない
しかし確実に自分へのエール。
目元を赤くしながらも涙を手で拭い笑顔になる新垣。
「しゃぁ!!琉太が打ってくれたんだ!続こうぜ!!」
「おぉ!キャプテン元気になった!」
「そうだ!続けぇ!!」
再び勢いを取り戻した首里ボーイズがベンチで盛り上がる。するとアナウンスが球場に響く。
《6回の表選手の交代、シートの変更をお知らせします。》
そのアナウンスに、一瞬静まり返る球場全体
内野が集まり、レフトから歩いてくる選手が1人。
《9番ピッチャー白田くんが下がり山崎くん。
そのままレフトへ入り、9番レフト山崎くん。背番号7。
レフトの天野くんがピッチャーに入り6番ピッチャー天野焦斗くん。背番号1》
静寂だったスタンドはエースの登場にどよめき
首里ベンチは動揺を隠せていなかった。
「...白田。最後打たれたけど、ここまで投げてくれてありがとう。」
「ははっ...最終回まで繋ぎたかったけど、しょうがないよな...」
一輝が感謝を告げると、白田は少し微笑みながら話す。
ボールを拭きマウンドへ来た焦斗にそのまま渡す。
「頼んだぞ天野!最後まで応援するからな!!」
「...ありがとう白田。見ててくれ。」
焦斗がそう言うと、また微笑んでベンチに走っていく白田。
ベンチへ向かうと大きな拍手が白田を迎える。
「良く投げてくれた。あとは任せよう。」
「ッ...はいっ!!」
監督の朝日陽一が頭をポンっと撫でる。
(白田君...最後まで行く気持ちだったんだろうな...
辛いけど、チームが勝つ為...勝つ為...)
涙が溢れ出ないように上を向く白田に結がタオルを持っていく。
マウンドに集まった選手達は白田の分もここで切ると
話していた。
「焦斗、白田やみんなで繋いだ6回だ。」
「あぁ。」
「魅せてくれよ!エース!」
「分かってる。」
「よっしゃ!気合い入れてけよ!」
「打たせて良いですよ!4つには返させません!」
御手洗と摩耶も同じように鼓舞し、ポジションへ戻っていく。
「プレイ!!」
審判の声で再び試合が再開した。
2番の金城が打席に入り焦斗を見る。
すると、何かいつもと違う雰囲気を感じる。
(あ、これ...打てない??)
打席に立った瞬間分かる威圧感
スッっと上がる足。
高身長から振り下ろされたボールは勢いよく迫る
ボッ! パァァン!! 「ス、ストライク!!」
「ナイスボール」
豪速球。そのボールを難無く捕球し返す一輝。
球速は135kmを計測していた。
「ホントに中2か??」
「高校生だろ...あの球威」
黙り込んでいた観客がザワつく。
間髪入れずすぐセットポジションに入る。
ボッ!パァァン!! 「ストライクツー!」
グッ...ボッ!!!
パァァァン! 「ストライクバッターアウト!!」
三球真っ直ぐで空振り三振に切って落とすと続くは
3番ピッチャー新垣。
ボッ! ブンッ! パァァン!! 「ストライク!!」
(か、かすりもしねぇ...)
ボッ! パァァン!! 「ストライクツー!」
淡々と投げ込むその姿勢にただ圧倒される
首里ベンチ。
「無理だろ...これ...」
「大人対子供じゃねぇかよ...」
そう呟く者もいた。
しかし打席の新垣は、威勢よく声を荒らげる。
「しゃぁ!!来い!!」
グッ...ボッ! 「フンッ!!」 カァァン!
打った打球はファールだが当たった。
そして再び吠える。
「来いやぁ!真っ直ぐ!!」
その姿勢にベンチも声を出す。
「そ、そうだ!行け!!打ってこい渉!!」
「行きましょうキャプテン!!」
その声に新垣は微笑み構える。
焦斗は足をスッっとあげる。
(次も真っ直ぐだ!!真っ直ぐだけ狙え!!シバけ!!)
ボッ!!! (来た!真っす...え?) パァァァン!!!
「ストライクバッターアウト!!」
大きく空振りをし、尻もちを着く新垣。
尻もちをつきながら電光掲示板を見ると143kmと表示されていた。
その数字を見ていると手を差し伸べる一輝
「大丈夫か??」
「あぁ...ありがとう...」
「おう。」
そういい、ベンチに帰ろうとすると新垣が声をかける
「なぁ!最初、手を抜いてたのか?」
一輝が振り返り一言
「悪く言うとそうだな」
そう言って一輝はベンチへ下がって行った。
新垣はその言葉に圧倒されると同時になんとも言えぬ
ワクワクを感じていた。
ご視聴ありがとうございました!
投稿頻度が遅くて申し訳ございません!
次回もよろしくお願いします!




