瓦解する垣根
桑山ボーイズと首里ボーイズが激突する
秋の全国大会決勝戦。
5回裏2アウトランナー1.3塁
エース新垣が桑山ボーイズ星一輝を三振に討ち取り
マウンド上で雄叫びを上げる。
湧き上がる首里ナイン。
その首里ボーイズとは裏腹に桑山ベンチは鎮まり返っていた。
今まで幾度となくチャンスで答えてきた一輝
10割バッターなんて存在しない。
そんなことは強豪チームで野球をやってきた彼らが
知らないはずがない。
しかし、せっかくのチャンスを失い、精神的支柱の主将の空振り三振、響かないはずが無かった。
スタスタとバッターボックスから出ていく一輝
ネクストサークルでその光景を見ていたのは主砲島崎恵。
「星...」
声をかけようにも何を言えば良いのか。
すると一輝は何も無かったような顔で
「ん?なんだ??」っと島崎を見る
その態度に島崎は一瞬困惑した。
「いやーめっちゃいいボールだったわ。
コースも完璧、曲がる角度も。ああいうピッチャーと組むと楽しいだろうな〜。思わずチャンスの事とか忘れるくらい夢中になっちまった。」
「...案外余裕そうだな」
「へっ...そりゃ。後ろにお前らが居るからな。頼んだぜ4番!!」
トンっと島崎の胸に拳を当てる一輝
そのままベンチへ下がっていく。
「次の打者!早く打席に!」
そう審判に言われ、島崎も歩み出す。
「渉!!ツーアウト!次も気ぃ抜くなよ!」
「こっち打たせろ!三振要らねーぞ!!」
完全に勢いづいた首里ボーイズ
新垣がロジンを手に着け「フッ」っと息を吐き
島崎を力強く見つめる。
集中力はまだ続いている様だった
対する島崎も肩の力を抜きながらも、新垣の方を
ただ一点に見つめ続けていた。
スっ...ビッ! タンッ! 「ボール!!」
初球は外いっぱいのボール球。後数mmでストライクだっただろう。
ビッ! ブンッ!!! タンッ! 「ストライク!!」
そのスイングに野手陣はビクッと身体を動かす。
全国常連チームの4番のスイングだ。悪いイメージが
頭をよぎる。それと同時に、新垣が必ず討ち取ってくれるという信頼もあった。
「へいへいバッター!!思いっきり振っても当たんなきゃ意味ねーぞ!!」
ベンチから声がした
振り向くと防具を付けた一輝が声を上げていた。
「頼りない3番の代わりに頼むぜ!意地見せろ!」
一輝の声に釣られ、ベンチも声を出す。
「そ、そーだ!いつも通りクールにランナー返してくれよ!!」
「歩いて帰ってきても良いからなぁ!」
負けじと首里ナインも声を荒らげる。
「さぁ来い!!打たせてこい!!」
「ピッチャー楽に投げられるぞ!」
3球目、新垣がすり足で投げ込む
ビッ! カァァン!! 「ファールボール!」
カァァン!! 「ファール!」
キィィン!「ファール!」
タンッ!! 「ボールツー!!」
7球の粘りを見せる島崎、力強く投げ込む新垣。
(あのボールを待て...決めに来るあのボールを!!)
(心臓がバクバク鳴ってる。星だけのチームじゃない。
こんなすげーバッターが沢山いる…そんな奴らと戦えてる!!)
2人とも強い思いを胸に8球目、新垣が足を上げる。
グッ! ダンッ!
力強く踏み込んだ足が音を鳴らす。
ビッ!!
(マウンドプレート左端から右打者に食い込む速球。
しかし新垣のボールはここから!!)
カッ!! バットがボールを芯で捉えた音がした。
キィィン!!!
「!!!」
その音と共に新垣がレフト方向を振り向く
「レフトー!!」
全員がそう叫ぶ。
「行けー!!!」
島崎がそう叫び、新垣も、続けて叫ぶ
「止まれぇ!!!」
ガシャァン!!
限界まで下がったレフト。その頭上
「走れ摩耶ー!!!」
ダンッ!! 一塁走者の摩耶が2塁ベースを力強く踏み込む。
「バックホーム!!琉太中継!!!」
キャッチャー中曽根が叫ぶ。
パンッ!! ショートの比嘉琉太がレフトからボールを受け取りホームへ振りかぶる。
「中曽根ぇー!!!」
グンッっと伸びる送球はキャッチャーミットに収まる。
が、その前に一塁ランナー摩耶がホームベースを踏む。
「らぁぁぁぁ!!!!」
2塁ベース上で島崎が声を上げる。
「しゃっぁぁぁぁ!!!」
先に帰っていた御手洗と摩耶が抱きつき喜び合う。
「やったぁぁ!!」 バシッ!
スコアを付けていたマネージャーの結が一輝の尻を
思いっきり叩いた。
「いっ!!...ははっ!ナイスバッチ...島崎!!」
塁上では普段叫ばない島崎が小さく、力強くガッツポーズをしていた。
カァァン!!
続く6番、天野焦斗。ショート頭上に痛烈な打球を放つ。
「島崎!帰れる!帰れる!!」
センターの宮里が捕球し送球する。
パンッ!! 「...アウト!!」
際どいタイミングだったがホームで島崎はタッチアウトになった。
しかし桑山ナインは盛大に迎え入れる。
「ナイバッチ島崎!!流石だぜ!!」
「狙ってたのか?!狙ってたんだな?!」
バシバシと叩かれる島崎、そこに一輝が帽子とグラブを
持って近づく。
「な!お前が居るから、俺はなんの心配もなくベンチに戻れるんだよ!」
島崎は少し微笑み、口を開く。
「しっかり仕事はしたぞ。」
一輝も微笑み全員に呼びかける
「しゃぁ!締まっていくぞ!!」
「「しゃぁぁ!!!」」
盛り上がる桑山ナイン。対象的に首里ボーイズは
「まだこれからだ!」
「2点なんて返せる!気合い入れるぞ!!」と
円陣を組んでいた。
円陣から離れ一人ベンチに座る新垣。
タオルの下からは雫がぽたぽたと垂れていた。
調子に乗っていた?
星を三振にしてそれで終わりな訳ないのに。
皆が期待してくれてたのに…
そういう考えをすればするほど、涙が零れていた。
俯いている新垣に金具の音を鳴らしながら近づいてくる
足音があった。
「渉、泣いてんのか?」
「…」
「あんだけ綺麗に打たれれば、相手を称える。なんてこと、出来るわけねーよな。」
「琉太...俺は、みんなの期待を背負うには小さすぎるのかな?」
「…」
「簡単なんて思って無かったけど...いざこう言う立場になるとつれーな...」
そう言いタオルを取る新垣。
目の下は赤く腫れていた。
「はぁー...」っとため息をつきながら比嘉はヘルメットを被る。
「何終わったみたいな顔してんだよ。
誰がこのまま、お前を負け投手にするんだよ。」
「琉太...」
「周り見ろ。試合終わったと思ってんのは、お前が負けたと思ってんのは、お前だけだ。」
そういうと比嘉琉太はバッティンググローブをはめ、
バットを持ちベンチからグラウンドに飛び出て行った。
ご視聴ありがとうございました!
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