試合に備えよう
キーーン!!
ドン!!
鋭い打球音と鈍い屋根の音が室内練習場に響く。
「誰だ?第2球場から飛んできたのか??」
「今第2球場使ってんのって今日入った新入りと
の日野だろ?新入りが打ったのがここまで飛んできたんじゃないか?」
「んな事あるか?日野の球ァここまで運べるなんて鎌田くらいだろ。」
「無くはないっすよ。相手が星なら有り得ますっすよ。」
室内練習場でティー打撃をしていた
3年鎌田賢、武田昌也、山下透、2年の島崎恵が
話していた。
「なんだぁ島崎。お前あいつ知ってんのかぁ?」
「知ってるも何も俺らの代で全国制覇したチームの
キャプテンっすよ。地元であいつ知らない奴いないし、中学上がる前は全国でもあいつと天野倒すって目標のヤツらが多かったっすよ。ふらっといなくなってましたけど、今日入ってきてびっくりっすよ。」
山下と島崎が話していると、主将の鎌田が
「それなら見に行って見るか!」と言い出す。
ー第2グラウンドー
一輝が特大ホームランを放ったあと、
傍観していた1年生達が少しの静寂の後、
「「「ぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」と口にする。
打たれた日野は少し驚いた顔をしながら室内練習場を
見たまんまだ。
「ほぉ。打撃は腐っとらんようじゃなぁ。」
「当たり前よ!ウチに入るって決まった時から
ずーっと素振りしてたもん!うちも見てた!」
1人の老人と、女の子が話している。
それに気づいた1年生のひとりが声を上げる。
「こ、こんにちは!!」
「!!こんにちは!!!」
つられて1年生全員が声を上げる。
監督の松井陽一だ。隣はその孫兼マネージャーの
松井結衣だ。
「んー。」と挨拶を返す松井監督にマウンドの日野、
キャッチャーの多田、外野の焦斗、御手洗が
頭を下げ「「「「こんにちは!」」」」と
大きな声で言う。
「一輝〜。どうだ。このチームは?やってけるか〜」
「こんにちは!先輩に胸を借りてました!
小学生とはレベルが全然違いました!
でも気にかけてくれる先輩もいるしやって行けそうです!」
そう話すと監督は少し微笑み、球場を後にする。
監督が去った後、日野は言う。
「あーあ。監督に恥ずいとこ見られたぜ。
オマケに後輩に気を使われるとはよォ〜」
「気を使う?何を言ってるんです?
日野さん全然本気じゃなかったじゃないですか?」
日野は横目で一輝を見る。
「日野さんって直球も早いけど一番の武器は
多彩な変化球とコントロールですよね?今日は一球も変化は来てません。」
「すまんな、いっき。あいつはあれでもお前を気遣ってたんだ。言葉にするのが苦手なだけだ。
だから許してやってくれ。」
そう言う多田に(この人喋るんだ...)
と思う一輝だった。
「っせーよしょーま!負けは負けだ。
俺が変化球投げなくても抑えられると思って投げただけだってんだよ。そんなに言うなら俺に変化投げさせるまでの打者になってみろってんだ。」
小っ恥ずかしそうに話す日野に、焦斗が口を挟む。
「あの〜すいません。俺の番いつです??
ずっと待ってるんですけど。」
「あ〜?天野、おめーも打席入りてーならそー言えや。」
「いや、俺は日野さん抑えに来てるんで、早く
メットとバット持って打席入ってください。あ、多田さんも。」
内心ぶっ殺してやりてーと思った日野だが、
渋々打席に入る。
「キャッチャー変わります。」
一輝がそういうと黙々と防具を脱ぎ始める多田。
(この重み。久しぶりだな。)
防具をつけならがら一輝が微笑む。
「1打席だ!俺としょーま2人で2打席!それで終わりだァ!」
「分かりました。」
返事をしたのは焦斗ではなく一輝だったが、構わず
日野は構える。
「あれ?天野投げてんじゃん」
「ほんとだ。初めて見るわ。」
「あいつは投げれんのかァ?なぁ?島崎ぃー」
室内練習場から出てきたのは先程
ティー打撃をしていた4人だ。
片付けが終わってから来たようだ。
「投げれますよ。肘の状態悪くて去年投げなかっただけですけどね。」
「いい球放るんかぁ?」
「いい球も何も...小学生の時天野よりいいピッチャーなんていませんでしたよ...」
ズドン!!!
鈍い轟音が響く。
「は、速ぇー!!」
「なんだよあの球!日野さんより速くねーか?!」
1年生が驚く。
「おぉ...あれは凄いな。」
「速ぇ〜。130後半は出てんじゃねーか??」
「やっぱ化け物だわあいつ。ははは。」
感心する3人を横目に、鎌田は思う。
(あの、新入り。あの豪速球をいとも簡単に捕球し
ゾーンに納めたな。多田に劣らないキャッチングだ。)
(うっそだろ?!こいつこんなに球速ぇーんかよ!
ほんとに中二かよ。)
(球の速さだけじゃない。リリースポイントが低いのに浮き上がるような球。それを軽々取るいっき。)
日野、多田両者に汗が滴る。
ビッ! カン!
2球目、早速当ててきた日野。
これには一輝も驚く。
(この人ピッチングだけじゃなくてバッティングも
すげーんだな。すぐに修正して焦斗の球に当ててきた。)
少しニヤリとして一輝は焦斗の方を見る。
(すげぇ!これが桑山ボーイズ!俺はここで全国制覇するんだ!!!)
ビッ!! キーン!!
焦斗の真横セカンド側に日野の打った球が飛ぶ。
(チッ)
にも関わらず日野は舌打ちをした。
ダッダッダ。羽のような軽い足取りで御手洗がくる。
パンッ! 追いついた。セカンド定位置ちょっと横の
位置まで走って追いついたのだ。
「せんぱーい。これアウトですからね〜。」
「うっせーよ御手洗!!おいしょーま!次お前な!」
「いや、俺はいい。お前より惨めに討ち取られたくないし。」
「はぁ?ざけんなぁ!おめーなら打てんだろーが!」
そんな風に騒いでいると、キャプテン鎌田が日野の肩に手をかけながら声を掛ける。
「なら俺に譲ってくれるか??」
「!鎌田。室内じゃなかったのかよ。」
「誰かさんが打たれた音がしたんでな。」
「うるせーよ!星と天野に聞けや!」
「なぁ、いっき。いいだろ?俺も入れてくれよ。」
(で、デケェ。180cm超えてる?焦斗よりでけー。)
息を飲みながら、一輝は言う。
「僕は全然いいですよ。焦斗がいいなら。」
「なんだよ。みんなあやふやな回答ばっかしやがって。天野ー?いいかー?」
「よ、よろしくお願いします!!」
焦斗は少し動揺しながら承諾した。
若干顔が引きずっている。
御手洗がショートからレフトへ行く。
高校野球の取材で見たくらいの一輝とは違い。
焦斗と御手洗はこの男の凄さを理解している。
中学通算38本塁打、中学生とは思えない身体。
一言に恐ろしいだろう。
そんな気持ちを押しのけ、焦斗はセットポジションに入る。
すると。
「そこまでだー!」と大人の声が聞こえた。
天然コーチ高島だ。
「お前らもう18:00だぞ!そろそろ終わっとけ!
明日は試合だぞ!」
その掛け声に、鎌田はしょんぼりしながら言う。
「なんだ。終わりか。しょうがないな。
天野!続きはまた今度だ!」
「は、はい。」
気の抜けた声で焦斗が受け答えする。
「いっき。お前と天野の実力は何となくだがわかった。今日からチームメイトだ。夏の全国大会に向けて9人18脚で頑張るぞ。」
「!は、はい!(9人18脚??)」
困惑している一輝に山下がトンボを持ちながら声を荒らげる。
「おいコラおめぇーら!話してねーで整備スっぞ!」
(あ、手伝ってくれるんだ。)「はい!」
帰り道。一輝、焦斗、結衣の3人が
自転車に乗らずとぼとぼ歩いていた。
「いや〜日野さんはすげー投手だったなー!
エースって言われるだけあるわー。」
「打った癖に何言ってんの。って言われんの待ってる??」
「あ、バレた?(笑)でも満足なんてしてないよ。
あの人変化投げてないし、打たしてくれた気もする。」
「あの人がー?なんでよ。意味わかんないっ!」
「なんとなくだよ!次は本気出させる!」
キャッキャ話してる2人に焦斗が口を開く。
「鎌田さんとやりたかったな。高島コーチが
入らなければ抑えてたのに。」
「従兄弟は時間を守っただけだから!明日も試合なんだし大人しく帰るの!」
その言葉に、一輝はハッとする。
「そう!明日試合じゃん!2年ぶりだな〜!
楽しみすぎる!俺出るかな!」
「多分途中からになるだろ。先発は増田さんらしいけど。俺も出番あるかな。」
「増田さん?俺あったこと無いわ。どんな球投げんだろ。でも今日の日野さん鎌田さん見る限り、上級生はやばいな!燃えるぜ。」
目に闘志を燃やす一輝に同意する焦斗。
(あぁ、懐かしいなこの感じ。ほんとにまた野球やってくれて良かった。)
少し目が潤う結衣だった。
次回!試合です!
評価してくれると嬉しいです!