大大大博打
4回の舞鶴ボーイズの攻撃で2-2と同点に追いつかれた
桑山ボーイズの攻撃は、6番ピッチャー焦斗からだ。
「なぁ結、今焦斗何球??」
「48球。初回10球くらい投げさせられてるけどその後テンポよく討ち取ってるから球数は抑えられてるね。」
「今日は完投するって言ってたし、このままいけば大丈夫そうだな。白田も準備出来てそうだし。」
カァァン!!
2人が真剣な顔で話していると大きな音が鳴った。
バッターボックスに目を向けると、バットが宙に浮いていた。打球はセカンド頭上を超え、左中間へそのまま転がっていく。
「天野2つ!!」
「しゃぁ!先頭でた!ピッチャー疲れてるぞ!!」
舞鶴ボーイズ先発椎名の顔には汗が滴っていた。
「椎名の球数は?」
「61球。多分この回で変わると思うな。」
「変わってランナー居たら嫌だし、点もリードされてたら嫌だから、その前にプレッシャーかけておきたいな。」
《7番、レフト、綾部君。》
綾部が打席でサインを確認する。
監督も一輝と同様、ここが大一番と踏んでかサインを出す。
ビッ! タンッ! 「ボール!!」
制球が乱れ、早くも3ボール1ストライク。
「椎名!打たせてこい!!」
「外野ランナー返すなよ!!」
舞鶴ナインも声をかける。
スッ... ダッ!! 「!!スチール!」
(なに?!塁が埋まってもないのに仕掛けてきた!!)
キィィン!! キャッチャーの岡崎がそう考えていると
綾部がヒッティングを試みた。
打球はピッチャーの足元へ弾かれる。
「抜ける!!天野帰れる!!」
パァン!! しかしこの打球をショート鷹宮が取る。
焦斗をチラッと見たあと、すぐさまファーストへ送球する。
「だぁ〜くそっ!あれも抜けねぇのかよ!!」
「でも1アウトでランナー3塁!!あるぞこれ!」
桑山ベンチがそう湧いていると、監督が審判に告げる。
「バッター山崎に変わって戸山!」
「え??!!」
戸山蒼弥、2年生捕手であり夏の合宿の際、一輝と共に
1日目を乗り切った男。
《選手の交代をお知らせします。8番、センターの山崎君に変わりまして、戸山君。背番号2。》
本来正捕手が付ける背番号2。一輝がキャプテンの為
付けることのなかった番号を背負っている。
「ここで代打か〜。この大会一度も出てなかった子だな」「でも星が居なかったらこの子が正捕手だった訳だろ??どんな打撃見せてくれるんだ??」
スタンドの観客も戸山の打撃に心を躍らせる。
「一輝く...星さん。戸山さんって打撃良いんですか?」
1年の摩耶がそう聞いてくる。
「え?!戸山か。うーん...そのイメージは俺もあんま無いな。でもいつもホームラン狙ってんのか、すげーアッパースイングなんだよな〜」
「プレイ!!」審判の掛け声と共に
ピッチャーの椎名が構える。
ビッ! パンッ! 初球はスクイズを警戒してか大きく外す。キャッチャーの岡崎は戸山が動く素振りを見せないことに違和感を覚える。
(全く動かなかったぞ??天野もだけど...ここは1球一か八かで...)
スッと構えたところはインコース真ん中。
ビッ! パァン! 「ストライク!!」
しかしそれにも微動だにしない戸山。
(なんだ?!何が狙いだ??)
岡崎がそう思っているのと裏腹に戸山の内心は穏やかではなかった。
(な、何故ここで俺なんだ?!もっと居ただろ?!
バットも振ってないのに急に代打て!!監督はこの試合諦めてるのか?!)
普段は冷静沈着な戸山だが、本性はとても小心者だ。
試合に出たいと思うことはあるが、ライバルが全国屈指の捕手である一輝。自尊心が保てないのも納得だ。
パンッ!! 「ストライクツー!!」
(ヤバいヤバいヤバい!追い込まれた!!なんだって
俺がこんな目に...!!)
バッターボックスで顔が青くなってきている戸山を他所に監督がサインを出す。
焦斗はそれを確認、しかし戸山はサインを見落としてしまう。
(このバッター、何を狙ってるか知らんが内のシュートで詰まらせる。あわよくば見逃し貰おう...)
岡崎がそう判断しサインを出す。
スッ... 椎名が足を上げる。
(もういい...思いっきり振って終わろう...)
ビッ! 椎名が投げた瞬間、ダッ!!っと焦斗が走り出す。「おぉぉぉ!!あたれぇ!!」
いつも通りのアッパースイング。
ゴシャァ!! しかしそのスイングが幸をそうしてか、
バットにあたる。
打った打球はサードライン際に物凄い回転をかけながら
回る。
「走れ戸山ー!」
「え??」
「椎名!切れる!!触るな!!」
ダンッ! 焦斗がホームベースを踏んだ後も、戸山が
一塁ベースを踏んだ後も、ボールは回転の勢いが止まらない。ただその場で回転し続けていた。
ギュルギュルとボールの勢いが弱まり、その場に止まる。
「オールセーフだ!!」
「まじか!!マジかよ戸山!!」
「ラッキーボーイや!あいつはラッキーボーイや!!」
サードランナーホームイン、そしてバッターランナーも
セーフとなり1アウト1塁となる。
盛り上がるベンチを他所にコーチの高島が監督である
朝日陽一に声をかける。
「戸山を起用したのはこういう狙いがあってですか?」
「あぁ。奴はネクストで準備させてると緊張でバットを振らなくなるからな。あまりこう言う博打は良くないが、結果は見ての通りだ。頭空っぽにし、ワシに責任を擦り付けたからこそこういう思い切ったプレーが産まれた。」
「博打って....」
半笑いで居る高島を尻目にナインに声をかける。
「さぁ、まだ野球の神様は桑山に微笑んでくれてるぞ!気を引き締めろ!!」
「「「はい!!」」」
引き締まったベンチを他所に、戸山は一塁ベース上で
高々と、まるでわかっていたかのような顔でガッツポーズをしていた。
ご視聴ありがとうございました!
舞鶴ボーイズ戦も大詰めです!
次回もよろしくお願いします!!




