新球
ブンッ! ブンッ!
アピールするかのように投球練習をしている
一輝、焦斗バッテリーの横で素振りをする鷹宮。
そんな鷹宮を意に返さず「ボールバック!」と一輝が声を上げる。
セカンドへ送球し終えると一輝が焦斗の方へ向かう。
口元を隠しながら2人は話し合う。
「先頭バッター大事だぞ!」
「分かってる。止められた流れの分はあいつ自信に払ってもらう。」
「だな。試合前話した通り今日も一巡するまではストレート主体で行く。いいな?」
「...」
「どうした??」
「悪い一輝。今日は初回から変化を使おうと思う。」
「?...理由は?」
「まず鷹宮、俺の見た感じあいつは真っ直ぐだけで抑えられるとは思えない。でもこれは弱気とかそんなんじゃない。一昨日の天王ボーイズとの試合であいつが立った打席全部が既に打っているような感覚があったから」
「ほう...」
「...認めたくないけど、あいつは藤や一輝と同じようなタイプだと思う。」
「...どんなタイプだよ!キャラ全然ちげーよ!」
「そうじゃなくて、あいつも...チームの...なんて言ったら良いんだろうな。」
「...わかった!ただし飛ばしすぎてへばんなよ!!」
「あぁ」
「行くぞ!」
話し終えた2人はポンッとグラブを合わせる。
(あいつが自分から何をやるって言ったのは何気に初めてかもな。)
一輝がそう思いながらホームの方へ戻る。
「お話は終わった?」
「おー。お前を倒す取っておきの作戦会議がな!」
「そら楽しみやわ。」
「プレイ!!!」
審判の掛け声と共に一輝がサインを出す。
焦斗は頷くとワインドアップから足を思い切り上げる。
(お手並み拝見やね)
ビッ!! タンッ!! 「ストライク!!」
初球、キレたカーブが外に決まる。
(意外やね。てっきり真っ直ぐ来る思ったわ。)
ボッ!! パァァン!! 「ボール!」
2球目に続き3球目も外れる。
スコアをつけていたマネージャーの朝日結が考え込む。
(鷹宮くんは予選と本戦の試合合わせて打率は8割超え、 ホームランは3本...並大抵の相手じゃないけど、付け入る隙はあった。それは登録したての1年生やデータのない野手ピッチャーに討ち取られる事が多々あった。だから焦斗は急遽新しい変化を覚えようとしたんだよね??)
ビッ! カァァン! 「ファールボール!!」
「ん〜惜しい!」
三塁線に切れたボールを眺め鷹宮が呟く。
(カウント2-2、使うなら今だけど...)
一輝がそう考えながら焦斗を見る。
焦斗もここしかないという顔で一輝を見る。
ニコッと一輝が微笑み、サインを出す。
それに焦斗が強く頷き構える。
スッ... 足を上げた瞬間、球場全体が静まる。
ダンっ!っと足を強く踏み腕を振る。
スポッ!! 「「「?!」」」 カァン!
鷹宮が打った打球はライト前へライナーで転がる。
トンッ。っと鷹宮が一塁ベースを踏む。
(なんや今のは、抜け球??スローボールなんてあったんか??いや...)
マウンド上で少し赤面している焦斗と笑いを堪えているような仕草をする一輝を見て冷静に分析する。
(新球...か?今のはすっぽ抜けやね。流石に驚いたわ。)
「しょ...焦斗!切り替えよう!切り替えような!笑」と
笑いながら宥める一輝、焦斗は自分の指先を見ながら固まっていた。
《2番、セカンド、白鳥くん》
2番の白鳥だ。鷹宮に次いでチーム2番目の打率と出塁率を誇る。
焦斗は気を取り直しセットポジションに入る。
そしてすかさず一塁牽制、鷹宮は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と帰塁する。
ボッ!! パァァン!! 「ストライク!!」
ビッ! カァァン! 「ファールボール!」
2ストライク1ボールのストライク先行で放った四球目、
スッ... ダッ!! 「っ!スチール!!」 「くっ!」
ボッ!! キィィィン!! スチールと同時に白鳥の捉えた打球は右中間に飛んでいく。
スタートを切っていた鷹宮は快足を飛ばし一気にホームイン。舞鶴ボーイズは初回の攻撃いきなり先制点を奪う。
「ナイスバッチ白鳥!!」
「鷹宮もナイバッチ!ナイラン!!」
手を振りかざす仲間を無視し、鷹宮がベンチに座る。
「あ...」
何も言わない鷹宮に少し戸惑う舞鶴ベンチ。
「そんなんええからはよ点取ろうや。ウチで打てんのは俺と白鳥だけけ?やっぱ後ろか前に置くんなら白鳥やな...なーんて言わせんなよ〜。」
「お、おぉ!任せろ!俺らで点とって来るわ!」
しかしその後、持ち直した焦斗の前に三者凡退。
攻撃が入れ替わる。
2回表、先頭バッターの島崎がツーベースを放つも
後続が続かずスリーアウト。
裏の守りも焦斗が3人に討ち取る。
3回も両チーム点が入らず4回へ突入する。
1番の御手洗がフォアボールで出て、2番の摩耶が
三遊間へのいい当たりを見せるが、これも鷹宮に阻まれゲッツー。そしてこの日2度目の打席の一輝。
ビッ! パンッ! 「ボールツー!」
2ボール1ストライク。ボール先行で迎えた四球目。
カァァン!! ドムッ! 完璧に捉えた当たりはレフトスタンドの雑木林へ消えていった。
ベースを駆け回る際、鷹宮が一輝に声をかける。
「さすがやね。素直に褒めるわ。」
「そりゃどーも。それが本心かは知らねーけど!」
島崎も続きレフト前へ弾き返すが、5番の梶原がショートゴロに倒れチェンジとなった。
4回裏、舞鶴ボーイズの攻撃は8番ピッチャー椎名。
3球でツーストライクに追い込まれ、1球も振らずに
三振に倒れる。
《9番、ライト、木元くん。》
「よし」と1年生の木元が意気込み打席に入ろうとすると
「ちょーまちぃ。木元くん。」
「え、あっ、鷹宮さん。」
「そんな気張るなや。楽に行こう。そんなんじゃ打てるもんも打てへんで?」
「は、はい。」
「...塁出たいか??」
「え?」
「塁に出たいかって。ここまで無安打、全国のメンバー選ばれたゆーてもこのままじゃ次の試合、出られへんよ?せっかく京都から見に来てくれた親御さんも、可哀想やろ??」
「は、はい...」
「でもな、ここで君が出たら流れ作ったゆーてヒーローの立役者になれるかもしれへんで?」
「...自分、塁に出たいです...教えてください!」
「よう言ったわ。ええか?まず...」
「?? 9番の子!次早く!」
「は、はい!」
審判の声で木元が打席へ向かう。
向かう最中、鷹宮の方を見るとニコッと笑っており
「頑張るんや!!」と激励を飛ばした。
そして右打席に入ると、ザッ! っと土を強く踏む。
その光景に、一輝は少し違和感を覚えた。
カンッ!「ファール!!」
1ボール2ストライク。粘る木元に一輝は狙いを変える。
インコース少し外れた所。仰け反らせストライクを取られればヨシ。振ってくれれば尚良のキワキワのゾーン。
焦斗も頷き足を上げる。
ボッ!!すると、木元が線を踏みながら肘をうちに入れる。 ガッ!! 「っ...ターイム!!デッドボール!」
「え?!いやっ!!....」
「ん?どうかしたかい??」
「....いえ。なんでもありません。」
(ここで主審を敵にするのは良くない。冷静になれ俺。)
そう考え込み、焦斗のいるマウンドへ駆け寄る。
「今の故意だ。気にするなよ。」
「あぁ。わかってる。それより次は。」
「あぁ。」
2人の目線の先にはケタケタ笑いながら素振りをしている鷹宮が映っていた。
「今日は2安打。2打席目はいいあたりのツーベース。
初球大事に行こうな!」
「あぁ。分かってる。」
話終えると一輝はキャッチャーボックスへむかう。
すると、鷹宮の独り言が聞こえた。
「いや〜。ほんま木元くんはええ芝居するわ...」
「...!」
その一言で一輝は全てを察した。
そして腸が煮えくり返るような思いを必死に堪え鷹宮を見つめる。それに気づき鷹宮は少しニヤける。
「君!早く座って!」
「...はい。」
スッっと座り、力強く一輝がミットを叩く。
(さぁ〜て。第3ラウンドや。)
鷹宮がニヤつきながらそう心の中で呟く。
ご視聴ありがとうございました!
しばらく投稿出来ず申し訳ありませんでした。
次回更新も未定ですが、近日中には更新します!
よろしくお願いします!!




