もう一度
《天王ボーイズ、選手の交代をお知らせします。》
ウグイス嬢のアナウンスが球場に響き渡る
4回表、舞鶴ボーイズの先制点の後、球数制限もあり
エース泉が降板しようとしていた。
《ピッチャーの泉君に変わりまして、豊田君。背番号11》
内野陣が集まるマウンドに向かう2番手の豊田。
泉からボールを受け取ろうとすると違和感を感じる。
空気が重いのだ。そして泉は降りようとしなかった。
「泉...」
「ゆ、優心...交代だ。上手くリード出来なくてすまなかった...」
「なぁ泉...?ここは下がろう?な?」
「...」
キャッチャー北島とショート白浜が声をかけるも
泉は黙り込み根が張ったように動かない。
そこに「ポンッ」っと誰かが手を置いた。
キャプテンであり4番でもある男、藤大吾だ。
「優心。点を取られ悔しい気持ちはよぉわかる。
でも今は下がってくれ。ここに立っていてもお前にできることは「今は」無いんや。」
「ちょっ...大吾...」
(なんてバッサリと...)
「それとももう負けたつもりでいるのか??」
「...」
「ふっ。まぁヒット1本も打っとらんくて私怨でプレーしている俺に言われたく無いか...」
藤が少し微笑む
「優心!約束する!必ずもっかいお前をマウンドあげたる!俺らのチームはここじゃ終わらへん!!
明後日の桑山戦に向けて今日は下がっとけ!」
「大吾...」
「せや!大吾の言う通りや!!ここで終わるなんてありえへん!!明後日ん為肩は温存しとき!!」
「早すぎるわ!!」
藤の一言で内野陣に元気が湧いてきた。
すると泉は帽子を取り汗を拭いながらマウンドを下りる。
「そこまで言うんなら任せるわ。今日は俺が折れたる。」
そういうと泉はベンチに戻って行った。
「よし。泉の分もきっちり勝ったろやないか!!」
「せや!大吾と泉だけのチームじゃないの見せつけたろ!」
タイムが終わり各々が守備位置に戻る。
先制のツーランを放った鷹宮が険しい顔で藤を見る
藤も鷹宮を見ており、その目には闘志が宿っていた。
パンッ! 「アウト!」
その後走者を出すも2番手豊田が無失点に抑える。
しかし4回裏は打線は未だ沈黙したままだった。
迎える5回の表もランナーは出るも得点を許さない天王ボーイズ。
そして5回裏、2アウト1.3塁で迎える打者は4番藤大吾。
「ここやぞ大吾ー!」
「一発行ったれ!!」
応援する天王ベンチ。
「東山ー!山場や!!流れ完全にこっち持ってこよ!」
「歩かせてもかまへん!厳しく行け!!」
ピッチャー東山に声をかける舞鶴。
ビッ! パンッ!! 「ボールツー!」
「見えとる!見えとるで!!」
「ドカン行ったれ!!」
痺れる試合を静観しているのは桑山ボーイズのメンバー。
「ここで藤か。打つヤツは良いとこでも回るよな。」
「こう言う場面で打つから、あいつは世代ナンバーワン打者って言われるんだろうな。」
「それ、死亡フラグじゃね?」
「でもやっぱり藤さんは威圧感ありますよ。
スタンドから見ててもあの気迫が感じられます。」
御手洗と島崎、摩耶が言葉を交わす。
(大吾...)
この試合一言も喋らないで見ているのは
桑山ボーイズキャプテン、星一輝だ。
「凄い集中して観てるね。藤くんに勝って欲しいのかな?」
「それはそうだろう。俺もそうだ。夏の借りを早く返せるのはこの秋大だ。」
コソコソと話しているのはエース天野焦斗とマネージャーの朝日結だ。
パンッ! 「ボールスリー!」
「逃げんなコラピッチャー!」
「勝負せぇー!!」
「うっさいアンタら!!応援と野次はちゃうで!!」
軽い野次を飛ばす選手に怒鳴ったのは監督代理の皇花だ。
「大吾...」静かに祈っている泉。
そして迎えた4球目。
ビッ! 「アカンフォアボールや...」 ブォォン!!
「ス、ストライクー!!」
一瞬、審判も理解が出来なかった。
それは球場にいた全ての人達もだろう。
明らかに外れたボール球を、藤は全力スイングした。
「な...何しとるんや?!大吾!!」
「クソボール空振りよった?!」
「大...吾??」
ネクストサークルにいた5番北島も戸惑いの様子だ。
(何考えとるんや?自己満で野球やるような奴とは思わんかったわ...)
鷹宮も少し戸惑いを見せる。
(ラッキーや。振ってくれたんならこっちもそれなりに勝負出来る。外の外れるスラで空振り、当たってもフライになるとこ決めようや東山!今のこいつなら必ず振ってくる!!)
コクリと頷き、東山が振りかぶる。
グッ...ビッ!
東山が投げると、ダンッ!!という音を聞き鷹宮が戦慄した。
藤が思い切り踏み込んでいた。
「行け!」
スタンドに居た一輝も、思わず声が出る。
カァァァン!!!
(な?!めいいち踏み込んで来よった!!
でも平気や!東山は要求通り投げた!レフトフライで終わりや!!)
キャッチャー岡崎がそう思い、空を見る。
が、落ちてこない。伸びる。伸びる。
「嘘やろ?!」
定位置にいたレフトが下がる。
「「バケモンが...」」
一輝と鷹宮が同時に思い、口にする。
ドッ! 伸びた打球はレフトフェンスに突き刺さる。
「「回れー!!!」」
天王ベンチ全員でそう叫ぶ。
ダンッ!! 1人目のランナーが悠々生還。
2人目のランナーである白浜が3塁ベースを踏む。
「こっちやー!こっちに滑れー!!」
生還した3塁ランナーがホームコーチャーとして指示を出す。
パンッ!! ズザァー! だがタイミングはアウト
しかし白浜の避けながらのスライディングを決める。
「...セーーフ!!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「藤やべー!!ボール球を逆方向にあんな打球で!!」
「怪物だ!!はんぱねー!!!」
球場全体が揺れる4番藤の同点ツーベースヒット。
「なに勝った気でおるんや??まだ後半やぞ?」
「お前1人頑張ったって何も変わらん。
敬遠避けて勝負したんが何よりの証拠や」
キィーン!! 藤に打たれた初球、5番北島が跳ね返す。
ダンッ!! 藤がホームベースを力強く踏む。
「俺が敬遠球を打ったんは北島が心配だからやない。
俺を楽に帰させて貰う為や。」
天王ボーイズVS舞鶴ボーイズ。
5回裏3-2で天王ボーイズ勝ち越し!
ご視聴ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!!




