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ダイヤモンドスター  作者: オカピ
中学2年生編
4/5

一等星④

秋。まだ夏の暑さが少し残る昼間。

俺は八王シャークのグラウンドで練習をしていた。


夏の全国大会が終わり、ほとんどの子は次のステップへ舵を切る頃だろう。

中学軟式野球、シニアリーグ、ボーイズリーグ。

選択肢は色々あったが、俺にはもう心に決めていた

チームがひとつあった。


それは地元の野球少年で知らない人間は居らず、

誰もがそのチームに入り、プレーしたいと思っている

最強最高のチーム。「桑山ボーイズ」だ。


チームメイトの焦斗と御手洗も既にそのチームに

入団する事に決めているそうだ。

あの2人と俺が居ればきっと全国制覇だって夢じゃないと思う。既に楽しみで胸が踊っている。

だがレギュラーを取れるのか。そもそもベンチに入れるのか?そう物思いにふけ空を見上げていると。


「何浸ってるの?」

と後ろから女の子の声が聞こえてきた。

幼馴染の松井結衣だ。


「うひゃん!!!」と情けない声で驚く俺。

びっくり系は苦手だ。

すかさず「な、なんでもねぇよ!」と言うが

俺の悲鳴にツボったらしい結衣がゲラゲラと笑う。


「そっか〜。桑山でやる事に少し不安があるんだ。」

「不安って程じゃねぇよ...でも俺が知らないだけで

全国には俺よりすごい奴なんて沢山いる。

だからどんな奴が来るのかなって思ってただけだ!」


笑顔を崩さず、髪をかき分けて結衣が言う。

「何事も思い立ったら不安が付きまとうもの!

大丈夫!一輝はウチが見た選手で1番なんだから!

胸張っていつもみたいな大きい声で堂々と門をくぐればいいのよ!」


ショートヘアが風で揺られながら結衣がそういう。

「そうだな!不安なんてわざわざ克服する必要も無いからな!気合と根性で乗り切らないとな!」

「そうそう若いもんはその意気でなくちゃ!」

「同い年だろ!」


そう言いながら2人で笑いあった。



「ただいまぁ〜」

気の抜けた声でそう言う親父が帰ってきた。


「おかえりなさい〜」

「オカエリナサーイ」

「ちょっと優香!ソファで変な体制でお父さん

に挨拶しないの!もう高校生になるのよ!」

「へぇ〜い」


リビングで母と姉が何かを言い合っている。

その声で親父が帰ってきたことに気づいた俺は

「おかえり!早く準備して!閉まっちゃうよ!」

とベランダのドアを勢いよく開けて言う。


「まだ18:00だぞ。バッティングセンターは22:00

までやってるでしょ。」

やれやれという感じで母が言う。


わかったわかったと。父がヘラヘラしながら支度をする。


「じゃーちょっと行ってくるわ〜」

「行ってらっしゃーい。19:30にご飯にしたいからあんま遅くならないようにね〜」

「いっへらっしゃ〜い」


そう言う母とまたまただらしないカッコで言う姉。

俺は竹バットを持ち助手席に座る。

父が車を出す。


「一輝。もう中学でやるチームは決めたのか?」

「決めたよ。桑山に行く。焦斗と御手洗も行くって言ってたし。」

「桑山かぁ〜新設されたチームだけどかなり強いチームだな。ま、お前が決めたことならいいさ。

途中で投げ出すなよ〜」


そうにやにやしていう親父。

俺は「する訳ねぇだろ!絶対全国制覇してやる!」

と意気込む。



「にしても桑山か。そんなとこでレギュラーになって全国制覇なんてしたらプロ野球選手一直線だな。」

「俺はエリート街道を進むのさ!

誰にも負けないくらいの選手になってやる!」


「誰にも負けない選手か。いいなぁそれ。

お前の力があれば絶対できる。なんせ1番輝いてたからな。」

「え?いつの話?」

不思議そうに俺が聞く。


「全国大会の決勝の時だ。

打席に入る前からお前はもう違ってた。オーラって言うのかな。あのダイヤモンドで1番輝いてた。」

「オーラかぁ〜」

よく分からんが褒められてる事は理解出来た。


「なぁ一輝。俺は別に、お前にプロになって欲しいとかは無いんだ。でも目標に一直線に進むお前を見ているとこっちは応援したくなる。そう言う人間だお前は。そしてこれからもあのダイヤモンドで1番輝け。」

「?よくわかんないけど任せろよ!スタンドから見てろよ!」


「ハッハッハ。」

親父が大きな声で笑った。


「ドン!!!!!」


次の瞬間。俺を乗せた親父の車は宙を浮いていた。


「ガシャーン!!!」


何が起こった??なんだ?なんだ?

分からない。頭がクラクラする。生暖かい水見たいのが首筋に垂れてる?


分かるのは笑っている親父を見た瞬間

運転席の窓からトラックが突っ込んで来たことくらいだ。


「一輝...」

消え入りそうな声が聞こえる。


親父?親父??どこにいるんだ?暗闇で全く分からない。怖い。

その瞬間右手が握られたのを覚えている。


「無事かぁ?一輝。良かった。」


親父だ。俺に覆いかぶさって頭から血が出ている。

「とーちゃん??」


意識が朦朧とする。


「事故だー!トラックが衝突したぞ!

中に2人!子供もいる!」


誰かの叫び声が聞こえた。


正気に戻った俺は親父に声をかける。


「とーちゃん!とーちゃん!」

「あぁ、大丈夫だ。」


大丈夫なわけが無い。頭からの出血が酷い。

医療の知識が全くない俺でもわかる。だがそれを否定するように言葉を発し続ける。


「とーちゃん!!誰かが救急車呼んでくれるよ!

だからもう少し頑張って!」


声が震えてちゃんと伝えられてるか分からない。


「一輝。俺は大丈夫だ。でも言いたいことが

ちょっとだけあるから静かに聞いてくれ。」


喋らないで安静にして!と言おうとしたが、

親父の眼差しがそれを許さない。


「まず、由美香、かーちゃんにだけど。

俺に何かあったら遠慮なく俺の方のばぁちゃん家に

助けを求めろと言ってくれ。俺はダメな男だったけどお前に会ってから多少まともになったって。」


親父が続ける。


「優香には、色々話したいことあるけど、とりあえず自分が正しいと思ったこと、感じたことを続けろと言ってくれ。あいつはかーちゃんと同じで感が良くて

よく人を見ている。」


涙が止まらない。俺の涙なのか、上から落ちてくる親父の涙かはどうでもよかった。


「最後に一輝。お前は星家の男だ。星家はそれなりの名家で家はでかい。そうしてきたのは星家の男が支えて来たからだ。でも俺はすぐ逃げる馬鹿野郎だったからな。お前がそうなっても攻めはしない。でも

誰かを悲しませて泣かしちゃいけねぇ。

これは星家だからじゃねぇ。男だからだ。

約束しろよ。俺が今言ったこととさっきの話。

グラウンドで。あのダイヤモンドで...」





〜現在〜

目を開けた一輝。

日野の球が内角の高めに来た。

すごい唸りを上げてる。

一輝は親父の最後の言葉を思い出す...


俺は、誰かを夢中にさせる。

このダイヤモンドで1番輝く一等星になる!!!!


キーン!!


振り抜い球は焦斗の頭を超え、室内練習場の屋根に

ドン!!!と鈍い音で当たった。







一等星④

ご視聴頂きありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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