今も昔も
《1回の裏、桑山ボーイズの攻撃は
1番.ショート.御手洗君。背番号、6》
ウグイス嬢のアナウンスで御手洗が打席に入る。
「相手のピッチャー情報ある?」
一輝がひょこっと顔を出し、結に話しかける。
「んー。予選大会では初戦と準々決勝で投げてるけど、昨日投げてないからあんまりどういう投手かはわかんないな。でも1番つけてるからエースなんじゃないかな。」
「まぁそうだろうな。」
「120中盤の真っ直ぐを主体にカーブで決める
変化球ピッチャーなんだけど...」
「いやそこまで分かるんだ。さすが球ふぁ」
一輝が次の言葉を話そうとした瞬間結がギロッと目をとがらせる。
「あぁ。何でもない何でもない。」
「...御手洗君は予選大会、そして昨日合わせて
出塁率6割だから今日も期待できるね。」
「6割!さっすがだな〜。」
(一輝は.722だけど...)
カァァン!!
ふたりが話していると、金属音が響く。
「しゃー!センター前!さすが御手洗!」
ベンチで皆がそう御手洗を称えていると
パンッ!! っと鋭い打球をショートが
キャッチする。
坂町ボーイズショート迫和也だ。
「なっ!?」
ビッ!っとすぐさま起き上がり一塁へ投げる。
ドンッ! パンッ!「セーーフ!!」
際どいタイミングだが、御手洗の足が勝る
「危ねぇー!あの体制からギリギリかよ!!」
「起き上がり速ぇ〜!」
パッパっと土埃の着いたユニフォームを
叩きながら迫が帽子を被り直す。
「足速いな。
並の選手ならアウトなんだけどな。」
冷静に御手洗を称賛する迫
「足はお前の専売特許じゃねぇからなぁ!」
(あっぶね〜!今のでギリかよ!
セーフなら気持ちよく出塁させてくれよ!)
内心ヒヤヒヤしながら思う御手洗
打席には2番摩耶が入る。
ピッチャーが2球牽制を入れ、リズムを作る。
バッとクイックをした初球、
御手洗がスタートを切る。
ズザァーっと滑り込み2球で0アウト2塁を作る。
「ピッチャー落ち着いていけ!1個ずつだ!」
「あ、あぁ。」
迫の呼び掛け虚しく
フォアボールで0アウト1.2塁を作ってしまう。
《3番、キャッチャー、星君。背番号、10》
一輝の名前が呼ばれると球場は大きく盛り上がり
ピッチャーの顔には汗が滴る。
(0アウト1.2塁。内野定位置、外野若干前。
ベストは長打、センターから右側、最低限は進塁打!外野運べば御手洗が帰る!)
一輝がそう考え、打席に入る。
ビッ! パァァン! 「ボール!」
パァァン! 「ボールツー!」
(ピッチャー気負ってる。キャッチャーもストライク欲しいカウント...次だな!)
ビッ! (来た!アウトロー真っ直ぐ!)
キィィン!!
一輝が打った打球はお手本の様なセンター返し。
ガッ!! しかしピッチャーの反応も早くグローブに当たる
「関係ねぇ!センターまで運べるぞ!」
「1点だ!!」
ベンチがそう叫んだ瞬間、バッ!っと高く飛ぶ
ショート。
パンッ!! とボールがグローブに収まる
「なっ?!飛びすぎだろ!」
ショート迫がジャンピングキャッチをし
着地と同時に
飛び出していた御手洗を横目に二塁ベースを踏み一塁転送。6-3のトリプルプレーが成立した。
「おけー!ナイス迫ー!」
「いいジャンプだー!」
冷えきっていた相手ベンチに活気が戻った。
「どんまいどんまい!場所が悪かったな!
切り替えて守っていこう!!」
「あの野郎ベース踏む瞬間ニヤってしてやがった!天野!俺にも同じことさせろ!」
「無茶言うなアホ。さっさとグローブはめて守れ。」
「きぃー!!!」
焦斗と御手洗が漫才をしているのを尻目に
プロテクターをつけながら一輝は考える。
迫は定位置だったけど俺が振った瞬間
前に出てきた...
あいつ守備範囲もだけど1歩目がとんでもなく速い
並のショートじゃねぇなあれ。
「星!切り替えて守りからリズムを作れ!天野の制球、今日はかなり良さそうだから遊び球もあまり使わず打たせていけ!」
「はい!!」
高島コーチの激励を貰い、再び守備へ。
その後、両チーム得点0で4回の表、坂町ボーイズの攻撃。迫が2打席目を迎える。
「なぁ星、焦斗は東京そっちで元気なんか?」
再び打席に入る前、迫が声をかけてくる
「...まぁそうだな。生意気だけど素直だし、
みんなに好かれてるよ。」
「はぁ?そがぁなこと聞いとらんけぇ。なんで急にそがぁな余計なこと言いよるんや!」
「広島弁初めて聞いたわぁ!
そんな感じなんだな!
焦斗が言ってたよ。迫が変に東京弁使ってたけど、焦ると広島弁出るじゃないかって(笑)」
笑いながら話す一輝にイライラしながら
迫が続ける
「なん言いたいんや?」
「お前、焦斗の事気にしてんだろ?」
「はぁ??」
「焦斗はこうも言ってたぞ。
「一人ぼっちだった俺に野球を教えてくれた。
アイツは人の事よく見てる」ってよ」
「...」
「なに意地はってるか知んないけど、せっかく再会したんなら正直に話せばいいじゃんか。」
「...あいつは俺のこと置いて、東京行きよったんじゃ」
[7年前]
「なぁ焦くん!一緒に野球やらん?」
いつも部屋でゲームをしている従兄弟の焦斗に
俺が初めて野球に誘った時から全て始まった
「野球?」
「ほうよ!ずーっと家でゲームばぁしよったら、体が石みてぇになってしまうで!」
「和くん野球初めてからオレとゲームしてくれんくなった。だから野球好きじゃないよ」
拗ねているような焦斗に俺は続ける
「ほんなら、ゲームと野球をかわりばんこでやろうや!そしたら一石二鳥じゃけぇ!グローブ取ってくるけぇちぃと待っとって!」
初めはただの気まぐれ、キャッチボールの相手が欲しいから誘っただけやった。それに焦斗はいつも無表情で無気力だったから、野球やれば元気になる思っとった。
パシッ!
「どうじゃ焦くん!楽しいじゃろ!!」
「ただ取って投げるだけじゃん。
ゲームしたいよ。」
「かー!わかっとらんのー!よう見とけぇ!」
焦斗をどかし、壁に思い切り和也が投げる。
どむっ! 可愛らしい鈍い音が壁からでる。
「どうじゃ!早かろ!」
「...オレもやってみたい。」
「ええよっ!思っきし振りかぶるんじゃぞ!」
焦斗がボールを手にし、思い切り振りかぶる。
和也の見よう見まねで思い切り足を上げ、叩きつける。
ドンッ!! っと足で地面を踏みつけ
ビッ! っと放る。
ドムッ!!っと壁が鈍い音を立て
コロコロと焦斗の方へ戻っていく
その一球。たった一球を見て確信した。
焦くん...焦斗には才能があるって。
その日から焦斗は、ゲーム機に触らなくなった。
毎日壁当てをするようになった。
学校に行く前、帰ってきた後、夕ご飯の前、後。
俺と同じチームに加入して瞬く間にピッチャーとして試合に勝っていた。
小2なのに4年生の大会に出たこともあった。
ピッチャーだった俺はショートに回ることが多くなった。
焦斗の周りには見る見る人が増え
もうあの頃の一人ぼっちの焦斗は見る影がなかった。
「なぁ焦くん。野球楽しい?」
「うん。すっごい楽しい。和くんのおかげ。」
焦斗が初めてピッチャーの構えをして投げた壁当ての日、あの目は未だに俺の目に焼き付いている。
小2の冬、焦斗のお父さんの転勤で焦斗が
東京に行くって聞いた。
別れ際、初めて焦斗が泣いていた
「年末は絶対戻ってきてまたキャッチボールやろう!絶対だから!次会う時より、俺上手くなってるから!」
うん。そう言い残して焦斗は東京に行ったきり、
俺はキャッチボールを焦斗としていない。
〜現在〜
パァァァァン! 「ストライク!」
焦斗のストレートに球場がザワつく。
「5回投げてまだ140km...」
「ば、バケモノかよ!」
そう。焦斗は凄い。
パァァン!! 「ストライクツー!」
最初から凄くて、いっぱい練習してた。
俺はそんな焦斗が今も昔も...
パァァァン!!!
「ストライクバッターアウト!」
誇りだったんだ
ご視聴ありがとうございました!
明日も更新予定です!
よろしくお願いいたします!




