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「ボールバック!」
一輝の声でボールが返球されていく。
秋の予選大会決勝
マウンドには2年白田甲が上がる。
桑山ナインの顔がいつもより強ばっているのがわかる。
新チームができてまだ1ヶ月と少し
前回の夏は全国ベスト4。もし今回、全国に上がれなかったらそれだけで「不作の年」などと言われる事もある。
「フゥーー....」
マインドの白田が深く気を吐く。
「みんな!ピッチャーがピッチャーだから不安だと思うけど!後ろは任せたぞ!!」
自虐を少々挟み場を和ませようとする白田だったが、他のナインは「お、おう!任せろ!」と要領を得ない返答をしていた。
かく言う一輝も、決勝の舞台でエースが投げないことに不安があった。
「なんだよ。天野投げねーの?」
打席に入ろうとした瀬田ボーイズ主将喜田がか一輝に声をかける
「...」
一輝は何も答えず構える。
「舐めプのつもりかしんねーけど
そんな甘くねーぜ。俺らは」
ビッ!! キィーン!!
初球ストレートを思い切り振り抜き
ボールはライトの頭を超えていく。
「っ...バックサード!!」
「ハッハァ!!間に合うかよ!!」
一輝の声に喜田が走りながら笑う
ザァァ! バシッ!
綺麗なスライディングが決まり
0アウトランナー3塁。1球でピンチだ。
「白田!落ち着いてな!1点OKだ!」
「あぁ!すまん!」
(くそっ!なに投手に謝らせてるんだよ俺...)
キィィン!! パシッ!
2番はセカンドフライに打ち取るが
ボール先行であまり良くない。
ビッ!! カァァーン!
鋭い当たり...だがこれもセカンド正面。
「おっけぃおっけぃ!セカンドありがとう!」
「お、おぉ!白田もっと打たせろよ!」
「しゃぁ!」
1アウト事に周りに声をかける白田。
落ち着いている。大丈夫そうだ
(カカ..焦ってる焦ってる...でも次はウチの4番。
どデカいのカマせよ!菊田!)
3塁ベース上で喜田がそう内心で笑う
「ツーアウトツーアウト!外野後ろからだ!
内野強いの体で止めろ!!」
一輝の声で外野は下がる
(4番の菊田。夏は5番で2本塁打打ってて今年も
2本打ってる...一塁は空いてるからな
厳しめに来いよ白田!)
グッ...ビッ!! パァァン! 「ストライク!」
「OKOK!そのボールだよ!」
(さすがの喜田でもホームスチールは無い。
腰おろしてパスボールだけ無しだな。)
ビッ!! ブンッ!! パァァン!!
「ストライクツー!」
「さぁ追い込んだ!好きに投げてこう!」
一輝も一球ごとに声をかける。
だがそれは逆に相手の瀬田ボーイズからすると
余裕のないように見えた。
(カウントは良い。思い切り
下に叩きつけていい!スライダーで来い!)
白田がこくりと頷き、構える。
グッ... ビッ!!
(?!甘い!!) 一輝がそう思ったのも遅く
キィィィーーン! と鳴り響く金属音。
ガシャァン!とレフトフェンスに直撃するボール
「回れ菊田ー!!」
「綾部二つだー!!」
巨体を揺らし菊田が走り
レフトの綾部が打球処理を丁寧に行う
ザァァ! バシッ! 「...セーフ!」
「しゃぁぁぁ!!先制点!!
菊田ナイバッチ!!」
湧き上がる瀬田ボーイズ。
ホームベースを踏む喜田が一輝に声をかける。
「白田は悪ぃピッチャーじゃねぇけど...
天野対策してきた俺らにはちょっと厳しいかもな...カカカ!」
「...」
(まだ1回...まだ1回だ!焦るとこじゃねぇ!)
その時、白田がバックに声をかける
「いやぁ!打たれた!すまんみんな!
取り返してくれ!ここは俺が抑える!」
「いやヒーロー気取ってんな!余裕かよ!」
白田の発言に御手洗がツッコむ。
(白田...打たれても気を落とさずチームに声を...)
「よっしゃぁ!星早く座れ!行くぞ!」
「あ、あぁ!」
この回は抑え、桑山の攻撃、1番御手洗、3番星が出塁するも後続は続かずチェンジ。
2.3.4回と白田は粘るも5回に喜田が追加点の
タイムリーヒットを放つ。
パシッ! 「アウト!チェンジ!」
何やってんだ俺は...白田がきっちり投げてくれてんのに、全く盛り上げないで...
これでもキャプテンかよ
そう考えている一輝の横を
ドスッ!っと空振り三振帰りの白田が座り込む。
「いや〜!やっぱ瀬田は打つなぁ!
投げるのも良い奴居るし!
まぁ星が打ってくれれば俺ももうちょい楽なんだけどな!ははは!」
「...白田、すまん。俺キャプテンなのに何も出来なくて。」
落ち込む一輝に白田は焦る様な素振りを見せる
「!?おいおい冗談だよ!真に受けんなよな!」
「いや。そうじゃなくて、お前が打たれてもロクに声かけずに考え事ばっかしてて...」
神妙な面持ちな一輝の顔を見て白田が話す
「...まぁしゃぁねぇよ!入って4.5ヶ月の奴が
キャプテンなんかにされちゃぁよ!」
「俺より...白田とかの方が良かったんじゃねぇか?って思っててよ。」
その言葉に白田がピクっと眉を釣り上げる
「...」
「暗い雰囲気でもお前は声出して場の空気変えようとしたりしてさ。俺は...なんて言うかずっとこんなんで。」
「はぁぁぁ〜〜~。」
白田が長い溜息を吐く
「?! え?ナニ?」
「何を言い出すかと思えばそんな事かよ〜」
「いやだってよ...」
「なーにしょぼくれてんだ!お前はいつも通りやるだけで良いんだよ!」
「いつも通り??」
「夏の中附戦!お前の声掛けから
うちは勢い着いただろ!キャプテンになって
その場の空気読もうとすんなよ!お前はお前。
俺は俺!できることやっていこうぜ!」
眩しいほどに笑う白田に一輝はいつの日かの結を重ねた。
同時に、暗く沈んでいたあの頃の自分も。
「思ったこと口にしていいんだよ!そんなんじゃ、また島崎にキレられるぞ!」
屈託のない笑顔で白田がそう告げる
「おま!なんでそれ知ってんだよ!」
「にししし!そんなんじゃ朝日ちゃんにまた叱られるぞ!」
「どこまで知ってんだよ!!」
「「...ははははは!!」」
2人は同時に笑っていた。
「そうだな!俺がこうしてたら変だよな!
よっしゃ!ちょっと行ってくる!」
「おう!」
《2番、ファースト、摩耶くん。》
アナウンスが流れ、まだ緊張が取れていない摩耶が打席に入ろうとしていた。
3塁には直前にスリーベースを打った御手洗がいる
「摩耶ー!!!!固くなってんじゃねぇ!後ろに
誰がいると思ってんだ!!
三振して早く戻って来い!!」
一輝のその声にバッと顔を向ける摩耶
「か、一輝くん??」
「早くそこどかねーと御手洗が帰れねーだろ!
打つか三振するか位で良いんだよ!!」
「う、打ちます!!」
「よし!行け!!」
(一輝くん...何だか昔みたいになってるな...
よぉし!)
ビッ! パァァン! 「ストライク!!」
(1アウトランナー3塁、2点差、1年の俺を警戒せず初球ストレートのストライク球...
油断している?こういう時一輝君なら...)
少し考え構える摩耶
ビッ! コォォン!!
バットを思い切り下に叩きつけ
ボールは地に跳ね空を舞う。
「?!」
「ピッ...いやセカンド!!4つだ!」
叩かれ大きく跳ねるボールをセカンドが必死で
追いつき、ホームへ送球する
しかし
「間に合わねぇよ!!」と御手洗が快足を飛ばす
ザァァ! 「セーフ!!」
素早く御手洗がホームインを決める。
バッターランナーの摩耶も残塁し1アウト1塁。
「しゃぁ!摩耶ナイス!」
「御手洗もいい判断だ!!」
《3番、キャッチャー、星くん》
グッと屈伸をし、一輝が打席に入る。
パァン!
ピッチャーは摩耶を警戒して牽制を行う。
....少しの間が開き
バッとピッチャーが振りかぶると
摩耶は完璧にスタートしていた。
(初球スチール?!だが刺せ...はっ!)
キャッチャーがそう思った瞬間一輝は
思い切りバットを振り抜く
カッ...キィーーーン!!
一輝が放った打球は右中間へ。
センターの喜田が必死に追う。
バッ!とダイビングキャッチを試みるも飛球には届かず、ボールはそのまま転がっていく
「バックホーム!!」
(くそ!初球エンドランアタック?!喜田の肩で間に合うか?!)
バシッ! 喜田が大きくふりかぶる。
「舐めんな1年坊主ー!!!」
ザァァ! タイミングはアウト、しかし摩耶が横にズレ、ピッ...っとホームベースを触る。
「セーーーフ!!!」
「しゃぁぁ!!!同点!!」
「摩耶このやろー!やるじゃねぇか!」
「星もナイバッチー!!」
5回裏、桑山とうとう追いつく。
ご視聴ありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!!




