託し託され
桑山は負けた
試合終了後、大吾と会って話した。
なんてことの無いただの雑談だ。
大吾は最後にもう一度謝ったけど俺はもう
謝らなくていいと言いその場を後にした。
とても複雑な気持ちだ。
ホームラン打って、焦斗の最高のボールも取って
大吾の...過去の精算が出来た。
でも...3年生の先輩達は今日で最後になった。
2.3ヶ月しか一緒に野球をやらなかったけど、
学んだこと、尊敬できたとこ、色々あったのに
自然と涙は出てこなかった。
カチャッカチャッ...
ロッカー室の前に立つと
ドアを開けるのが怖くなった。
みんなが沈んでいる所...見たくないな...
ギィィイ...
「おつかれぇ!!!!!」
「いぇーーーーい!!!!」
「自由だァー!!!!」
唖然とした。
3年生のみんなで缶のコーラとか水をかけ合ってた
絶対監督コーチに汚すなと怒られる...
いやそんな事よりなんで
こんなハイテンションなんだ?!
「おぉ!いっき!戻ったか!」
「か、鎌田さん??これはなんです??」
「何って「祝・引退パーティ」だが?」
「な、なんでロッカーでやってるんです?」
「外でやる訳にも行かないだろう。監督コーチは
俺らが傷ついてるだろうという理由でここには入ってこない。絶好のチャンスだ。」
「は、はぁ...」
バシャッ!!っとバケツで水をかけてきたのは
日野さんだった。
「シケたツラしてんじゃねぇよ。
お前ら2年はあと3回全国制覇のチャンスがあるんだからよぉ。」
「日野さん...」
「天野!おめぇもいつまでもホームラン引きずってんじゃねぇよ!
んなとこで泣いてんじゃねーよ。」
部屋の四隅で焦斗が体育座りでいた。
泣いては無いが凄く責任を感じていそうだ。
「...泣いてないっす。」
「誰でもホームランなんて打たれるに決まってんだろ。天才サマは悩むスケールが違うねぇ」
「日野さんを...
もう一度マウンドに立たせられませんでした...」
日野さんの手がピタッと止まる。
あの焦斗がそんな事言うとは
俺も日野さんも思わなかった。
「はぁー...天野よぉ...俺は桑山じゃ
散々投げた。お前が気にすんのはこれからの
お前らのチームだろ。」
「でも...」
じんわり焦斗の目から涙が出かかった時、
バシャァ!!っと日野が上から水をかける。
「なんも言うな。しろよ。全国制覇。」
「...はい...」
そうか。焦斗にとっては初めて自分ではなく
エースナンバーを着けた先輩であり、
いつも一緒に走ってた先輩でもある。
思う所はあるんだな...
「よぉーーしお前ら!あとは俺ら3年が片付けるからさっさと出ていきやがれぇ!」
山下さんが最後まで変わらない乱暴な口調で
優しいことを言うと、俺らは退室した。
球場入口前で最後のミーティングがあった。
片付けで俺らより一足遅く出てきた先輩たちの
目元は少し赤く腫れていた。
帰り際、神宮のスタンドに座ってぼーっとしていたら結が来た。
「惜しかったね。最後。」
「あぁ。本当に惜しかった。悔しかった。」
「でも一輝。少しスッキリした顔してる。藤くんと何かあった??」
「うん。今までのこと。解決した。」
「そっか...良かった。」
「先輩達に会えたのも、大吾に会ってスッキリ
できたのも全部結のおかげだよ...」
「へへーん!ジュース奢ってよね!って...
それは今まで必死にやってきた一輝の努力の成果だよ。」
誇らしそうに話す結に「そう、だといいなぁ...」
と俺は言うことしか出来なかった。
少しの沈黙の後、俺は再び口を開く。
「俺、2.3ヶ月の付き合いだけど
先輩たちの事すげー尊敬しててさ。」
「うん。」
「でも...大吾との事で俺だけスッキリして...
泣けないんだ。」
「それは...」
「それは仕方ない事だな!!」
バッと後ろを向くと鎌田さんがいた。
「か、鎌田さん...」
「いっき。俺はお前に何があったかは知らんが、
今日の試合でお前の中の何かが変わったと言うなら。俺はそれでいい。」
胸を張ってそういう鎌田さん。
「でも...」
「いいんだ。いいじゃないか。
最後の最後に後輩に何かしてあげられたならば
先輩冥利に尽きるというものだ。」
「...」
「俺も先輩達にそうしてもらった。だからお前も...次の世代の奴らにそうしてやるんだ。
託し託され成長して行こう。生きている限り、
人に成長の限界なんて無いんだ。」
「か...鎌田さん..」
気づくと目からスーッと雫が零れていた。
〜2日後〜
ピンポーン
「はーい。」
ガチャッ...
一輝の家のチャイムが鳴る。
「あ、あの、自分藤大吾と言います...一輝くんの
お母さんでしょうか?」
「あぁ!大吾君ね!ちょっと待ってね。
一輝〜!!大吾くん来たよー!!」
大吾の訪問に一輝の母、星友香が玄関で迎える。
一輝を起こすように名前を呼ぶと
「うぇーー」とだらけきった一輝の声が聞こえる
「ごめんねぇ...あの子出迎えとかしないから。」
「い、いえ!大丈夫です!」
「...ふふ。お母さんからお話はよく聞いてるよ。
本当に大きいわね!お昼ご飯食べた??」
「ま、まだです!」
「じゃー食べてって!そっちの子も!」
「いただきます。」
そういうとこひょこっと泉が顔を出す。
チーーーン....
大吾が仏壇に手を合わす。
「今日は来てくれてありがとうね。
試合で疲れてるのに。」
「いえ。どうしてもご挨拶がしたくて...
いつも行けなかったので。」
申し訳なさそうに話す大吾に友香は笑顔で返す
「そうねぇ。お母さんから聞いてたわよ。
ずっと元気がなかったって。でも元気になってくれて良かった。またいつでも来ていいからね!」
「!ありがとうございます!!」
その時、ガチャっと玄関が開く音がした。
「おばさーん!こんにちはー!」
「ちわーって靴多い。」
「結!焦斗くん!いらっしゃい。」
結と焦斗の急な訪問に
(呼鈴も鳴らさず入ってきた...)と大吾は思った。
「あれ?!藤くんと泉くん!来たんだ!」
「うっ...藤...」
焦斗が気まずそうに藤の名前を呼ぶ。
打たれたのがトラウマなのか。
「あ、どうも...」
「ちわ。」
「おばさん一輝は??」
「まだ、寝てる。もう11時なのに。」
「ウチ起こしたきマース。」
起こしに行った結が5分かけて
一輝を起こし、全員で食卓を囲む。
「はい!いっぱい食べてね!」
「いただきます!」
「いただきます。」
「い、いただきます!」
「いただきます。」
「うぇ」
「一輝!「うぇ」って何よ「うぇ」って!」
結が怒鳴る
「あんた他の人の家でもそう言ってんじゃ無いでしょうね?!」
母も怒鳴る
「今日はかーちゃん2人居るからめんどいな...」
「なぁ天野、いつもこんな感じなん?」
「あぁ。」
昼ごはん (一輝は朝ごはん)を食べた後近くの公園に5人は向かう。
「いやー昨日の試合凄かったなー!
大吾2本ホームラン打ってさぁ!」
「ねー!ウチめっちゃ興奮したー!」
昨日は天王ボーイズの決勝戦。
俺ら3人は球場に足を運んだ。
結果は11-1と天王ボーイズが圧倒
夏の選手権大会は天王ボーイズが制した。
「天野見た後やと...な?」
そういう藤に、焦斗は少し嬉しそうにしていた。
「泉が投げなくてもあの投手陣ってやっぱ
天王ってつえー」
たわいない会話をひとしきりした後
藤と泉を駅まで送っていく。
その間も沢山話しをした。
「じゃー大吾!また秋!全国で!」
「おおう!また!」
2人が挨拶を、再戦を交わし電車が発車した。
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作者X↓
@Okapiii2025




