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ダイヤモンドスター  作者: オカピ
中学正編
28/70

ドンッ!!

勢いよくバックスクリーンに当たったボールが

鈍い音を鳴らす。

静まり返る球場に「おっ...」と誰かが声を漏らす。


「おぉぉぉぉ!!星ぃ!!!!!」

「逆転だ!!逆転のスリーランホームラン!!」


バットを放り、一輝が一塁へ向かう。

藤はそんな一輝を見て驚いて良いのか、また謝罪をすればいいのか分からず目を逸らす。


「ふ、いや、大吾。」

「?!」

「こんな終盤で、しかも逆転してから言うのも

なんか変だけどさ...」

「っ...」

藤は何を言われても動じないと言わんばかりに気張る。「俺さ!今凄い楽しいんだ!大吾や泉みたいに凄いやつらと戦えてさ!だから...もう前のことは気にしないでさ!ベスト...尽くそうぜ!」

一輝は少し照れくさそうにそう言う。


「星くん...」

「星くんじゃなくてさ!一輝って呼んでくれ!

同い年でライバルなんだからさ。」

そう言いながら一輝はにこりと楽しそうに話す。


「う、うん。あぁ...あぁ!!」

藤の少し引きつったような笑顔を見て、一輝は一塁ベースを後にし、ダイヤモンドを一周する。


「一輝...ありがとう。」

藤がそう呟く。



トンッ... 「フゥ...」

(言いたいことは言えた。ここからは集中だ。

1点。相手は9番からだからな!)


一輝がホームベースを踏み、ベンチに帰りながらそう思っていると。


「いっきぃ!!!!よく打った!」

と鎌田さんが頭をわしわししてきた。

「っ...はい!はい!鎌田さんも続いてください!」

「ふっ...任せろ!!」

その背中はとてもたくましかった。


「いっきぃー!!」

ベンチ前、大勢の先輩たちがそう言い喜びながら

駆け寄ってくれた。


「お前はすげぇよ!すげぇ!」

「あぁ!お前...ほんと...」

「増田泣くな!」

「泣いてねぇ!ぐすっ...」


祝ってくれる先輩たちの後ろに泣いていた結を見つけた。良かった。みんなが...結が笑顔になってくれた。


「まぁ塁に出た俺と香山さんのおかげだな!」

高らかにそう言う御手洗に山下さんが「うるせぇ!」と笑いながらヘッドロックをかける。


カァァーーン!

その喜びを遮るように鎌田さんの打球が一塁線へ襲いかかる。

パンッ!!!

その打球を藤がダイビングキャッチした。


「ぬぅ!!」

「鎌田さんドンマイです!最後の守り!気張りましょう!」

「あぁ!お前ら!ここが正念場だぞ!」

「「「おう!!!」」」



[天王ボーイズベンチ]

「すいませんでした!!」

泉が深々と頭を下げる。


「何を謝っとん泉!!まだ3-2やろが!」

「せやで優心!俺が塁に出て...いや同点弾ぶち込んだるわ!!」

「お前じゃ期待できんわ!バックネット裏の子供呼んできて!」

「なんでやねん!!」


先輩達は気丈に振舞っているが、目元がやや赤い。

こんなに焦ってる先輩達は初めてや。

優心も...諦めてるとは思わんけど...


パァァン!! 「ストライクバッターアウト!」

「「...」」

静まり返るベンチ。

勢いに乗った天野を打ち崩せるイメージが沸い取らんのか...


「大吾...すまん。どうしてもお前勝たせたかったんやけど...俺が足引っ張っ」

ガッ!っと藤は泉の頬を掴む。


「大丈夫や!優心!お前が謝るのはこの回俺に打席回せんかった時や!頼んだで!ホンマに!」

「だ、大吾...お前...」

「俺の方こそすまんかったな。いつまでもメソメソと。でも...一輝に会ってわかったわ。俺が見るんは前じゃない。これからや。」

ギュッと手を握り締め、藤は力強く言う。


カァァーン!

「レフトー!」

(くっ...追いつかねぇ...ギャンブルするのも無理だ...)

ポトンと落ちた打球を山下が冷静に処理する。


「しゃー!カラスマー!お前は2年なのに3年の9番とは違うなー!ジュース1本や!」

「やかましいわ!カラスマ!牽制きをつけろ!」


ビリッとレガースを外しながら、天王ボーイズ2年

烏丸は焦斗のボールに驚愕していた。

(キレが増しとる。真っ直ぐもえらい早いわ。

ホンマに同学年かこいつ。まぁ。化け物はこっちにも居るねんけどな。)


泉が打席に入り、藤がネクストへ入る。


スッ...パァァン!! 「ストライク!!」

(き、球速上がっとるやんけ...それにしても...)

パァァァン!!「ストライクツー!」

(138...)

パァァァァン!! 「ストライクバッターアウト!」

その凄まじい球に、天王ベンチはお通夜状態になっていた。


スッ...藤がネクストで立ち上がり、バッターボックスへ向かう。

向かいながら、在りし日を思い出す...



キィィィィーン!!

「入った!ホームランだ!!」


小学生の時、俺は...俺と優心は無敵だった。

誰が来ても優心が抑え、俺がホームランを打つ。

それが楽しくて、毎日狂うほどバットを振っていた。


「今日お父さん帰ってくるってー」

「え?!ホンマ!バッティング見て貰わな!!」

「仕事で疲れとるんやから無理言ったらアカンで。」

そう母が言った瞬間、ドアが開き

「無理なことちゃうで!オトンは最強やからな!」

とオトンが帰ってきた。

「オトン!早いなぁ!」

「まだ昼やから球場いる思たらだーれも居らんかったわ!」

オトンはトラック運転手であまり家に帰ってこない。

帰ってきても大体寝とる。でも当時の俺はそんなん

関係なしにいつも練習を見てもらってた。


家の前の空き地に行ってスイングを見てもらう。

「あら〜藤さん!帰ってたんやね。」

「仕事して野球も付き合うなんて偉いわぁ〜」

オトンは近所で有名な野球選手やった。

甲子園にも出てドラフト候補やった。

だから地元じゃ有名やったんや。


「大吾まーた身長でかくなったな。オトン抜かれてまうわ!」

「抜くのは身長だけやないで!野球の実力もや!

オトンも練習した方がええで!」

「ハハハ!...ふわぁーあ」

「あくび出るほど俺のスイングは眠たいか!

うぉぉぉ!!」

「そんなスイングしとったら型崩れんで〜」


家に帰ると飯が用意されとった。オトン居る日はいつも飯が早い。まだ17:00や言うのに。


「んでな!んでな!俺ホームラン2本打ったんよ!」

「えぐいなぁ大吾は。相手が可哀想やわ。おっと、もう17:30超えとるわ。んじゃオトンはまた仕事行くからなぁ〜。」

「早いなぁ!オトンは!あんま帰ってこんと瑞希(妹)に忘れられるで!」

「そら困るわ。んじゃ行ってくるで。」

「早いんやね。寝てへんけど平気?」

「あぁ。東京行く途中どっかで寝るから平気や。」

「東京!オトンお土産買ってきてや!」

「東京よりこっち(大阪)の方がええもんあるで〜。ほな!行ってくるわ!」

「次帰ってきた時またホームランの報告したるわ!

仕事頑張るんやで!!」

「行ってらっしゃい!気を付けてね!」

「おう!!」


その日、オトンが帰ってくることはなかった。


オトンは事故を起こしたらしい。うとうとしてたら

対向車とぶつかったらしい。

オトンは生きとったけど...相手の親子の親が亡くなり、子供の方は助かったらしい。

目の前が真っ暗になった。

オカンが泣いてたのは生まれて初めて見た。


その日から周りが俺らへ態度が急変した。

挨拶したら返してくれた近所のおじさん、おばさん。

学校の友達。先生。全員が俺らを無視する様になった。

唯一口を聞いてくれたのは優心だけやった。

犯罪者一家と言われ、車に針を刺された跡も会った。

オトンとはあの日以来、会っとらん。

オカンがそれを許してくれん。

事故を起こした相手の葬式に行った際、オカンは泣いて謝ってた。向こうの親族は、話を聞かず何も言わず

オカンを葬式に参加させんかったらしい。


俺が...オトンを眠らさないで練習に付き合わせてしまったから。

俺が...野球なんてやってなかったら。

今頃オトンもオカンも瑞希も...一緒の飯食ってたはず

やったんや...


ご視聴ありがとうございました!

明日、更新予定です!よろしくお願いします!!

ブグマ、作者Xフォローお願いします!

@Okapiii2025

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