終戦。そして...
「行くぞ一輝・・!!」
「はい!!!」
5回の表、中附ボーイズの攻撃
打者は5番真田。
マスクを被り一輝が冷静に分析する
(この打者は今日ノーヒットだけど、
かなりいいあたりしてるよな...
様子見!は要らないな。
初球から攻めてきましょう。日野さん)
一輝のサインにコクッと日野が頷く。
スッ... っと足を上げる日野
ビッ! パァァン!! 「ストライク!!」
ビリビリと伝わるミット。
(これが本番の日野さんの球...!
練習で何回か取ったことあるけど気迫が違う!
って感心してる場合じゃないな。)
「フン!結構いい音鳴らすじゃねぇか。」
一輝のキャッチングに日野がそう微笑む
ビッ! カァーン!!
「?!レフト!」
インコースに真っ直ぐ伸びた球を真田はレフトへ持っていく
パシッ! っと
レフトに入った香山が捕球する。
(スイングが鋭くなっている??)
一輝が疑問に思う
ビッ!! カァーン!
「ショート!!」
「あらっ...よっと!!」 パァン!
御手洗が得意げに捌く。
「ナイスショート!
日野さんいいボール来てますよ!」
「フゥ...あったりまえだろ!」
憎まれ口を叩きながらも
少し肩で息をし始めてきた日野
(やっぱり日野さん流石に疲れてきてるな。球数ももう70球近い。規定投球数は80球...
球数的にもこの回までかな。)
一息付き、一輝が審判にタイムを取る
「タイムお願いします。」
「タァイム!」
そのタイムに日野は少し不服そうにする
「あ?なんだよ、来なくていいよ」
「いやいや日野さん聞いてくださいよ。
あの審判タイム取る前欠伸してましたよ...
きっとこの試合が長くて疲れちゃってます。」
急にそう言い出す一輝に日野が聞く
「はぁ?何が言いたいんだ?」
「眠たい試合はここまでにしましょう!
80球近いんで、ここは軽く打たせて次の天野に
任せましょう!」
ピクッ...
日野の眉が少し動いた。
「それじゃ!あと少し頑張って行きましょう!」
遠くなる一輝を見ながら日野は思う。
(あのガキ...俺にハッパをかけに来たつもりか?
...おもしれぇ...乗ってやるよ。残り一人よぉ!)
ビッ! パァン! パァァン!! パァァァン!!!
「ストライクバッターアウト! チェンジ!!」
三振したボールを一輝がガッチリ掴み
ベンチに戻りながら日野に駆け寄る
「いやぁー!日野さんないッピっすね!流石!」
「るせー!この野郎...
先輩の事をおちょくりやがって!」
パンッ!と一輝のメットを叩く。
「いって!すいません...ははは。」
「ったく。いいキャッチングだったよ。
天野と二人で締めてこい。」
「!はい!!」
5回の裏、5.6.7番を抑えたといえど
7回には打順的に長房にもう一度回る。
監督の朝日は9番日野に変え
代打に神崎(2年)を送る。
「ベンチで奴の球筋は見た...1発かましてくる!」
神崎は三振に倒れ、次の打者御手洗も山下も三振に倒れる。
一時球速が落ちたように見えた長房は持ち直し
ほぼストレート1本で桑山打線を抑える。
「さ、行くぞ!準備は大丈夫か?」
「ん。優勝投手は俺だな。」
「あと2回抑えてから言え!」
生意気にそう言う焦斗に一輝がツッコム
ベンチから星・天野バッテリーが飛び出す。
パァァァン!!! 「す、ストライク!!」
その初球
そのボールの速さを見た会場の人々は度肝を抜かれる。
急に出てきた2番手投手がいきなり140kmを出したからだ。
観客は「速い」や「すごい」などと
ザワザワしていた。
中附ボーイズ側はそれどころでは無かった。
「ほ、ほら!みんな!まだ2回攻撃があるんだ!」
パァァン!!
「まだ諦めないで声を...」
パァァン!!
「ストライク!バッターアウト! チェンジ!」
中附ベンチは励まし会おうとするが
一輝のミットの音がそれを遮る。
そして無情に突き付けられるチェンジの声
6回裏、守備に着く中附ボーイズの
足取りは重くなっていた。
長房は一人、マウンドで考える。
(まだだ...まだ僕の打席がある!
1人でも出てくれれば僕が打つ...)
そう自分に言い聞かせバッっと振りかぶり放る。
キィーーーン!!
初球、投げた球が大きく中に舞う
ドンッ!!
鳴り響いた快音はバックスクリーンに突き刺す
ソロホームランとなった。
打ったのは3番、捕手キャッチャー・星一輝。
長房はマウンドで固まる
後続は何とか打ち取るが、6-3絶望的な状況だ。
パァァン!!
その音を聞きながら、長房は打席に立つ。
7回表2アウトランナーなし。
ベンチでは3年生が既に泣いている。
主将の真木も声を出して居たが目が潤んでいた。
(あぁ...なんで...)
パァァン!!
(なんでもっと寄り添わなかったんだろう...)
パァァン!!
(なんでもっと僕は...
野球を練習してこなかったんだろう...)
パァァァァン!!
「ストライクバッターアウト!整列!!」
マウンドに居る焦斗に一輝が、野手のみんなが
走って行く。
「しゃぁぁぁぁ!!!」
「全国だー!!」
マウンドで抱き合うバッテリーを他所に
大きい巨人は土で膝を汚す...
「6-3で桑山ボーイズ!礼!!」
「「ありがとうございました!!!!」」
両チーム3年生同士が固い握手をする。
「絶対1番取ってこいよ!鎌田!」
「あぁ!お前らの分も乗せて行ってくる!」
主将の鎌田と真木が固い握手を交わす
その遠く、ベンチに引き下がろとしていた長房に
一輝が駆け寄っていく
「...星クン...」
「ん!」
「え?...あ...」
目が腫れた長房に一輝が手を差し出す。
その行動に長房は戸惑う
「お前すげーよ。喜田にした態度は許せねぇけど野球の実力は本当に凄かった!
またやろう!!
今年の秋で当たってどっちが勝っても恨みっこ
無しだからな!お互いに!」
「...うん...」
長房は溢れる涙を左手で拭き右手で握手をした。
1週間後...市民体育館会議室。
メンバー20人が集められていた。
ホワイトボードの前に立っているのは
監督の朝日陽一。
「みんな、先週はお疲れ。多田の手首の件だが
3ヶ月の治療とリハビリが必要の様だ。
つまり、全国の舞台ではもう戦えない。」
「...」
全員わかっていたことだ。
しかし改めて言われると来るものがある。
「多田はこれからもチームの一員だが、大会登録メンバーは最大20人だ。
だが俺は多田には裏方に回ってもらう事にした」
「俺は」。それはまるで自分を悪役にしているような言い方であった。
監督の一言の後、コーチの高島が続ける。
「それではマネージャー。
今大会と他チームの解説を。」
高島コーチに言われ、結が説明をし出す
「はい。抽選は明日の日曜日に行われます。
その結果次第ですが、連続して試合する日があると思われます。
第1試合の後に第2試合って事ですね。
これは準々決勝や準決、勝決勝も
例外じゃありません。」
「投手力のあるうちには有利だな!」
口を挟む御手洗に対してこくりと頷き結は続ける
「次にトーナメントですが、春の関東大会で
優秀な成績を収めたらシード権を得ることがあります。桑山うちは関東大会は予選敗退ですので最大4試合行います!
抽選は明日、鎌田主将が行かれます。」
抽選をするのが鎌田と聞き、日野が口を開く
「鎌田じゃ、不安だな」
「いっつも序盤でいいとこ当たるからなぁ」
山下も続いてそう話す。
「やかましい!マネージャーの話を聞け!」
2人の発言に鎌田がツッコム
結がその光景に微笑みながら続ける
「ふふふ...シード枠は桑山ボーイズ、天王ボーイズ、札幌ボーイズ、桜木ボーイズの4チームです。
開会式は東京、神宮で行われます。
次に...」
ミーティングが終わり、帰り道に結、焦斗、
御手洗と帰りにご飯を食べていた。
「しっかし朝日はなんでも知ってんなぁ」
「そう?」
ラーメンをすすりながら御手洗が口を開く
「そーだよ。他のチームの事なんて調べてもそう出てこねぇぞ!まるで「球ファン」みてーだ!」
「ゴホッゴホッ!!!」
食べていたラーメンを結が少し吹き出す。
「ど、どした?!」
結の驚いたリアクションに御手洗が驚く
「ううん、なんでもない。続けていいよ」
「球ファンってあのSNSの?」
焦斗も知っているのか、御手洗に聞く
「おぉ、天野知ってんのか!中学、高校、大学、アマ、プロ、メジャーの情報を毎日投稿してる
アカウント!星知ってる??」
急に振られた話題に一輝はビクッとする。
「え、あぁー...うん。知らない」
「絶対見た方が良いぜ!朝日も!この人自分の
好きな球団ディスられるとめっちゃレスバするんだぜ?!」
「ははは」と愛想笑いしかできない俺を
結かじーっと見てくる
そう俺は知っている。
その「球ファン」のアカウント主が結だと
言うことを。
こいつはネットでも、基本温厚だけど贔屓球団の悪口を言われたらそれは凄い罵詈雑言を浴びせる
それを見られたくなくて家族にもこのアカウントの事を言わないのを...ほら、俺の事睨んでる。
言うなって顔だ。
「はぁー!食ったなぁ!明日の抽選!どうなるかな!」
「天王ボーイズってのが前回優勝してんだろ?
大阪の。そこと当たりたい。」
「天野くんは前向きだねぇ〜」
店を出てなんてことの無い会話をして各自に家に帰っていく。
2週間後...神宮球場
「おーい焦斗!早くしろよ!開会式始まるぞ!」
「あぁ。今行く。」
トイレが長い焦斗を俺は待っていた。
「あ、あのっ!!」
「ん?...って、うわぁ!?」
「どうしたかず...?!」
そこには鬼がいた。でかい。
長房より身長は小さいけど体がゴツイ。
思わず帽子取っちゃった。
胸には「天王ボーイズ」と書かれていた。
(天王ボーイズ...の藤...藤大吾?!)
藤大吾。結がミーティングの時話していた
2年生にして最強天王ボーイズの4番打者。
予選大会では3打席連続ホームラン含む6本の
ホームランでチームを勝利に導いた。
世代NO.1打者と言われている。
傍らにいたのは同じく2年生エース泉勇心。
最速135kmの真っ直ぐと
ほぼ同じ速度のスライダーを操る。
こちらも世代No.1と言われる投手だ。
藤...デケェ!長房より、身体が...衝撃だわ!
でもなんだ?少し目が泳いでる。
それに何か申し訳なさそうな態度だ。
「あ、あの...星...一輝...くん?だよな?」
「え、う、うん。」
場面は変わり高島、山城が
談笑しながら神宮の周りを歩いていた。
すると前から1人の若く美しい女性が歩いてきた。
山城が気軽に挨拶する。
「お!皇ちゃん!お久!」
「久しぶり山ちゃん。真ちゃんも元気?」
彼女は天王ボーイズ監督代行、皇花だ
「突然だけど。桑山そっちに星一輝くんは居る?」
「?星?居るけどなんで?」
「...星くんのお父さん...
星慎一さんとうちの藤が...」
場面は再び変わり、一輝、藤サイド。
バッ!
藤が正座をし、頭を地面に擦り付ける。
「ちょえ?!何してんの?!」
「星一輝くん!
お父さんの事、申し訳ありませんでした!!」
(え?父ちゃん??なんで父ちゃん??...藤?藤って...)
「君のお父さんの車に...居眠り運転で突っ込んだのは...俺の親父なんだ!!」
20XX 7月。
あの時の事故の光景が
神宮球場でフラッシュバックした。
ご視聴ありがとうございました!
少し長くなってしまった様ですが、最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!




