背負う番号
4回裏を三者凡退に抑え、5回の攻撃。
ワンナウト2.3塁のチャンスで3年の岸山さんが香山さんの代打に入った。
サインはスクイズだがヒッティングをし、内野フライに打ち上げてしまっていた。
「サインの見落としはチームの勝敗を左右する。取れた点を相手に要らないですと言っているようなもんだ。」「はい...」
「そのまま守備につけ。下を向いている暇は無いぞ。いけ。」
「っ...はい!!」
5回裏、焦斗の球数的にも最後の打席だろう。
「打順戻って1番からだ。3番の毛利に確実に回る。
だからってあまり気負いすぎるなよ。思いっきりこい!」
「分かってる。今できることをやるだけだよな。」
「おう!しまって行くぞ!」
[山梨付属ボーイズベンチ]
「くそぉ〜あの投手持ち直してきたな」
「5回なのに球威が落ちる所か上がってきてる気がする。」
フッと、1人の男が鼻で笑う。山梨付属ボーイズの毛利だ。
「あんなん大したことないッスよ。変化は入ってきてるようだけど見切れるし、何より俺にストレートは通じねぇ。もう完璧に捉えてるしな。だからなるべく俺の前にランナー溜めてくださいよセンパイ方。」
そう言いながらハハと笑う毛利。他のチームメイトは気に食わなそうだったが、毛利の実力がそれを許していた。
「プレイ!!」
審判の掛け声と同時に一輝がサインを出した。
ググッ..ボッ!! パァン!! 「ストライク!」
相手打者は手が出ず見逃す。
2球目、3球目遊び球無く三振で打ち取る。
2番打者が打席に入り初球を空振りすると、ネクストにいる毛利の方をチラリと見る。
ものすごい形相で打者を見ていた。
(くそっ!2年のくせに偉そうに...だがここは俺が出て毛利に返してもらうしかねぇ!)
続く2球目、インハイに行った真っ直ぐが、相手打者の左肩に当たった。
「デッドボール!!」
(?!当たりに行ったろ今!!焦斗じゃねぇーけど判定ガバすきじゃねぇか??焦斗キレてないといいけど)
「一輝!ワンアウトだ。盗塁あるぞ。」
「お、おう。」
(おぉ、冷静だ。これなら平気だな...)
「よぉ。星。」
「...」
(毛利が話しかけてきた。審判に怒られんぞ。)
「今まで名を聞かなくて辞めたかと思ってたよ。はは。ま、辞めるわけねぇか。そんだけ才能持ってる奴がよ。」
「よく喋んな。ふんぞり返ってチームに友達居なくなったか?」
「はん!お前こそ天野と仲良しこよしして俺に打たれて情けねぇなぁ!小学生ん時は手も足も出なかったが今の俺は違う!お前らを圧倒してるからなぁ!」
よく喋る奴だ。ほんとにチームに話すやつが居ないのかも。
「君達、お喋りが過ぎるぞ。早く構えて。」
「へーへー」
パンッ!ミットを叩いて構える。
スッ...パン!
「ストライク!」
(初球はカーブね。真っ直ぐ打たれて気が引けたか?)
2球目のスライダーは外れてボール。
(ふふっ。完全に逃げだな。いや、見せ球か。次だ!次は入れてくるだろうな〜。読めてるぜ。)
ズズっ..
(土が外に擦れた音がした。外のスライダー!これに決めたぜ。来いよ!おら来いよスライダー!!)
スッ...ボッ!!
「なっ?!」
パァン!!!...ズシャァ!!
インハイの真っ直ぐに毛利のバットが空を切り
その場に尻もちを着いた。
一輝がバットを拾い、クリップを毛利に向ける。
「立てよ毛利。ツーストライクワンボールだ。立てよ。」
「つっ...」 パシッ!
(落ち着け、落ち着けぇ!明らかにさっきより球威が上がっていたが、捉えられねぇ球じゃねぇ!真っ直ぐでも変化でも必ず対応してみせる...!来いよ!)
スッ...ボッ!
「んなっ...落ちっ...」 ブォン!
毛利が空振りした瞬間、一輝は中腰になっていた。
ボールは卵、優しく包んで身体を捻る!!
パシッ! ビュン!!!
飛び出していた一塁に一輝が送球する。パンッ!
「...アウトッ!!」
三振ゲッツーで攻守交代だ。
「待てっ!」
「ん?」
「隠してやがったな?!フォークなんてよぉ!
俺の事三振にとって一塁ランナーを殺す計画だったんだろ?!」
「そうだよ。絶対振ると思ってたし、ランナーが何故か知らんけどとてもホームに帰りたそうだったからな。」
「...フォークを投げてなかったのはなぜだ!」
「こういう時の為に投げないでおいたんだよ。
確実にアウトが欲しい場面の為にな。」
「くっ...」
(まぁ本当はフォークなんて負担のかかる球投げさせたくないだけだけどな。黙っとこ。)
「一輝。ナイスキャッチナイスボール。」
「おう!焦斗もナイスボール!要求通り!」
グラブでタッチをしベンチに帰る。
「天野、交代だ。新沼(2年)が代打で行く。ダウンをしておけ。」
「はい!」
この試合、代打の沼田がタイムリーツーベースを打ち代打後、白田が投げて勝利で終えた。
PM19:30
3年生達が少し緊張したような感じで夜飯を食べ、
大広間に集合した。背番号を渡す時間だ。
監督の松井が全員が集まった瞬間に話し始めた。
「これまでの練習、試合での結果を踏まえ、夏の選手権大会の背番号を発表する。」
「「はい!!!」」
(まだ...エースの可能性は0じゃないはずだ。)
(2番!2番こい!!1桁こい!!)
焦斗と一輝が心の中でそう思ってる時、キャプテンから呼ばれた。
「背番号10番...鎌田賢」
「はい!」
「人数の多いチームだが、お前が要だ。頼んだぞ。」
「はい!ありがとうございます!」
「次...背番号1番...日野陸」
「はい。」
「うちは良い投手が多い。鎌田だけで全て見れる訳ではない。お前も副キャプテンとして支えてやれ。」
「はい。ありがとうございます。」
(...ダメだったか)
「次...背番号2番...」
全員の背番号が渡され。その場は一旦解散した。
俺は焦斗と結と外で自主練をしていた。
「かぁー!!流石に多田さんから2番は取れなかったなぁー!!」
「何言ってんのよ。貰えただけでも有難く思いなよ!」
「そりゃそうだけどやっぱ目指すなら1桁だろ!2年で1桁貰ったの御手洗と島崎だけか〜。」
「まぁあの二人は春も入ってたからね。でも取り敢えず二人共写真撮ろ!11番と12番だけでも凄いから!」
「いや。俺は走ってくるからまた今度で」
「えーー!そう言って絶対撮らないじゃん!」
俺らが話していると、すすり泣く声が聞こえてきた。
岸山さんだ。傍らには鎌田さんと日野さんがいた。
「分かってたんだ..最後のチャンスだって...なのに俺は...ぐっ...サインミスなんてして...親になんて言えばいいんだ...」
「今更何言っても変わんねーぞ。」
「日野、そんなことは岸山も分かっている。」
「良いんだ...鎌田。日野の言う通りだ...俺はお前らのサポートに徹するからさ。」
「...岸山...」
「あぁ。そうしてくれ。それしかねーだろ。」
「日野!!!」
「そうすりゃ俺らは負けねぇからよ。岸山や他のベンチ入れなかった奴らがサポートしてくれなきゃよ、
俺らも戦えねーんだわ。その見返りに全国の1番いい景色見せてやるからよ。」
「っ!日野...!」
「その通りだ。行こう!頂点。」
「あぁ!あぁ!!」
隠れながらその光景を見ていた俺らは必ず勝つと近い。合宿最終日の練習を終え、東京に帰った。
ご視聴ありがとうございました!
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