合宿⑥
「ゲームセット!整列!」
試合が終わった。
9-2で勝利だ。エラーもミスもしてホームランの後すぐにおれは交代してしまったけど、「何か」を得られた試合だったと思う。
2試合目は裏方に徹した。審判はやった事がないからちょっとだけ楽しかった。
2試合目は3年の先輩が投げていたけどあまり調子が良くなかったのか打ち込まれている。
「ん?」
キャッチャーやってるの1年生か?なんか見た事あるな。2個上の先輩を一生懸命励ましながらリードをしている1年生がいた。どこかで見たことある気がする。
試合は結局4-1で負けてしまったようだ。
試合後、グラウンド整備をしていると、さっきのキャッチャーが声をかけてきた。
「先輩!変わります!」
元気のいい1年生だ。
「いいよいいよ。って。お前摩耶か?!」
俺がそう聞くと彼はニコッとして大きく頷いた。
「やっと気づいてくれた!一輝くん俺の事忘れてるかと思ってたよ!」
摩耶は俺が小学生の時1学年下のチームメイトだったやつだ。よく俺にバッティングを教わりに来てた。すごい小さい奴だったのに俺くらいにでかくなっていた。
「いやーごめんな?!大きくなったから全然分からなかったわ!てかショートじゃなかったかお前?!」
「身体大きくなってずっとやりたかったキャッチャー始めたんです!来年の正捕手候補ですよ!」
「ほほぉ〜敬語なんて使えるようになったんだなぁ〜。正捕手は無理にしても、ブルペンキャッチャーにならなれるかもな!」
俺が少しイジると嬉しそうな顔をしていた。
笑う顔は小学生の時のままだ。
懐かしく話し込んでいると山下さんに怒られてしまった。
練習が終わり宿舎に戻ると、昨日と同じように大量の炊飯器とおかずが並べられていた。主将が号令をすると皆苦しそうに食べ始めた。
「きつい。うまい。きつい。うまい。」
「うるせーよ天野!黙って食えねーのか!」
「おめーもうるせぇんだよ御手洗ぃ!」
「はい!すいません!!」
目の前で焦斗と御手洗が漫才をし、日野さんと山下さんにキレられる。昨日もやっていた。
おれは無関係のフリをして黙々と食べていた。
すると隣の島崎が声をかけてきた。
「摩耶と話してたな。」
「ん?!うん。話してた。久しぶりに会ったんだ。」
急に話しかけられて入れたものが出そうだったが、何とか腹の中に詰め込めた。
「摩耶お前に忘れられたかもって言ってたぞ。」
「まぁ少しだけな...てか摩耶と仲いいの?」
「小中同じ。よくお前の自慢してた。」
「え?あー?そう?照れるわ...」
「そういう奴なんだよ。お前は。だから今日みたいなプレーはやめろよ。誰の代わりだろうと、出てるやつが1番なんだ。次俺に変な気を使ったらぶっ殺すからな。」
トゲがあるが優しい奴なんだな。
「その通りだいっき。」
炊飯器を片手に鎌田さんが話しかけてきた。
「あ、お疲れ様です。」
「誰がなんと言おうと、出ているやつが出ていないやつのことをいちいち考えていてはチームが勝てん。
仲間思いなのは悪い事では無いが、その思い込みひとつでチームが離散する事もある。肝に銘じて明日の山梨付属ボーイズに挑むぞ!...ほれ。」
そういうと炊飯器から白飯を俺のお茶碗によそってくれた。山盛りの白飯がお茶碗から出そうだった。
風呂に入ったあと、また素振りをしながら今日の事を焦斗と話していた。
「へー。摩耶がキャッチャーね。俺にはそんなに関係ないな。」
「関係なく無いだろ。もしかしたらバッテリー組むかもだろ。野球には、コミニュケーションが必要なんだぜ!」
「知ったような口きくな。お前が譲らないっていう気持ちを俺に示せ。」
「偉そうに...俺が怪我したらどーすんだよ。」
「怪我しても取るくらいの気持ちでいろってことだよ。」
「ほーん。俺の事壁とか言ってたのにな。明日先発だからやる気満々って感じなわけね。」
俺の言葉を聞いて焦斗のシャドーが止まる。
「ん?何?」
「おれは正直、このチームのエースになれると思っている。」
「お、おう。そりゃ俺も一緒にバッテリー組むよ。」
「今か?」
「え?」
「今なのかって話だよ。おれはおれが日野さんより劣ってる投手だとは思わない。明日、それを全員の前で証明する。」
俺は何も言わず、焦斗の目だけを見ていた。
5/3AM9:57
「フゥーーー...」
焦斗が息を思い切り吐く。
グッと足を上げミットに向かい思い切り投げる。
ボッ!! キィーーーーン!!
「しゃー!今日2本目のヒット!!4点差だぁー!」
「毛利ー!ナイスバッティングー!」
山梨付属ボーイズ2年毛利
山梨付属ボーイズ始まって以来の天才打者。
焦斗がマウンドで固まる。
ご視聴ありがとうございました!ご感想お待ちしております!!
作者、金曜日にレバーを食べて食中毒になってしまいました...
みなさんはよく焼いて食べてください!!