第4章:GPS秩序から締め出される日──GNSS-MADの静かな発動
今回の件で、ある静かなラインが引かれ始めました。
それは、武器や艦隊が目立つ前線ではなく──
空高く、宇宙をまたぐ測位と情報の秩序線です。
そしてこのラインこそ、
私たちが未来絵図で語ってきた「GNSS-MAD構図」そのものが、
いま現実に発動し始めた証なのです。
GNSS──全地球測位システム。
GPS、北斗(中国)、GLONASS、ガリレオ(EU)、NavICなどが並び立つこの分野は、
しばしば“中立的なインフラ”として語られてきました。
けれど構図の視点で見ると、それは**“戦争不能化”という、新たな抑止構造の中核**を担う領域でもあります。
たとえば、台湾危機。
このとき、中国は軍事的圧力を強めましたが、
最終的に越えてはならない一線を踏み込むことができなかった。
なぜか。
アメリカと台湾がGNSSで完全に測位網を固め、
あらゆる移動と展開を“可視化”できる構図が成立していたからです。
この段階で、「GNSSが抑止力になる」ことが示され、
GNSS-MAD──測位によって戦争が不可能になる構図が、
現実の選択肢として成立しました。
そして今、紅海におけるフーシ派の攻撃と、
そこに中国製の衛星画像が使用されたという報道を受けて──
その構図が“秩序の選別”という次の段階へと入ろうとしています。
アメリカが今見ているのは、
「どの国が衛星を使って攻撃可能な座標を渡したか」という構図です。
そしてその衛星が、“民間”であるかどうかは関係がない。
座標が渡され、攻撃が成功したという事実だけが、秩序の再編を引き起こします。
ここで、中国の「北斗」システムが抱える構図上のリスクが浮き彫りになります。
もともと北斗は、軍事利用も視野に入れて設計されており、
中国国内では信頼されるインフラとして位置付けられています。
けれど──
今回のように、“北斗系列の情報が敵対行為に利用された”という印象が国際的に広まれば、
そのシステムは、商業・民間用途から敬遠されるリスクを抱えるようになります。
衛星測位というのは、不信が広がったとき、じわじわと機能停止に向かう分野です。
「使わないほうがいい」
「他国のGNSSに切り替えよう」
そうした判断が、自治体、企業、国際機関のレベルで、静かに始まっていく。
つまり、これは**“構図としての排除”が始まる可能性のある分野**だということ。
私たちの未来絵図では、北斗は2030年代に入ってから、
経済的維持の困難と信頼失墜により、
インドのNavICのような地域限定GNSSとして縮退していくと想定していました。
それが──たった1枚の画像をきっかけに、
2025年のこの時点で、前倒しで現実化しようとしているのです。
外交の神は、未来構図の検討など必要としません。
なぜなら彼は、その場で秩序のペンを走らせてしまう存在だからです。
そしてそのペンは、今、
GNSS秩序という“誰にも触れられないと思われていた領域”にまで達しました。
次の章では、なぜこのような筆が振るえるのか。
そして、構図の上にさらに構図を重ねていく“設計国家アメリカ”という存在が、
どんな姿をしているのか──その全体像を見ていきましょう。