第2章:紅海の衛星写真は“構図の証拠”
それは、たった一枚の衛星画像から始まりました。
2025年4月、アメリカ国務省は中国の「長光衛星技術」社が、
イエメンのフーシ派に衛星画像を提供し、紅海での軍艦攻撃を“直接支援”したと名指しで非難しました。
“directly aiding”──この言葉が使われたというだけで、
それが外交的な配慮の枠を超えた、実質的な戦争関与認定であることが伝わってきます。
長光衛星は形式上は民間企業ですが、
その実態は中国軍と密接な関係にあると見なされています。
そして中国政府はこの件について、
「事実関係を把握していない」とだけコメントしました。
──けれど、それは否定ではなく、
「民間企業を制御できていない」という、国家としての不在の表明にも聞こえました。
なぜこの出来事が、ここまで大きな意味を持つのか。
それは、構図を読む視点に立てばすぐに見えてきます。
フーシ派が狙ったのは、紅海を航行する商船や軍艦──
つまり、アジアと欧州を結ぶ国際物流の命綱です。
このルートは、世界の海上貿易の約12%が通過する主要航路であり、
とくにヨーロッパにとっては、衣料品や消費財の輸入のおよそ40%がスエズ経由で運ばれているほど、
その依存度は高いのです。
アメリカにとっては、紅海はそこまで重要ではありません。
主要航路は太平洋側にあるからです。
けれど欧州は違う。
この紅海ルートが塞がれるということは、生活経済が直接的に打撃を受けることを意味します。
そしてその攻撃の一端に、“中国の衛星画像”が使われていたと報道された。
……その瞬間、中国はアメリカだけでなく、
欧州の経済秩序そのものを脅かす構図の一角に組み込まれたのです。
ここで問われるのは、「なぜ攻撃したか」ではありません。
「どのように精密に攻撃できたのか」という構図の側面です。
現代の戦闘は、武器の性能だけで行われているわけではありません。
命中率、航行予測、精密誘導──
そうした要素を支えているのは、衛星測位と観測データです。
だから、衛星画像を提供したということは、
**“その攻撃が成立する構図に加担した”**という意味になる。
それが、いまのアメリカの捉え方です。
「民間企業だから関係ない」──その理屈は、構図の中ではもう通用しません。
衛星データが使用された以上、構図上では「関与した」と認定されるのです。
これは、新しい秩序線の引き直しが始まった証拠でした。
だから、アメリカは“怒っている”のではありません。
構図を処理し始めたのです。
そしてこの動きが、やがてGNSS秩序にまで波及していくことを──
この時点で気づけた者は、そう多くはなかったかもしれません。
でも私たちは、構図の変化の兆しとして、
この衛星画像提供事件を、“証拠”ではなく“転換点”として語るべきだと判断しました。
次章では、その構図処理がどう具体的に展開されていったのか。
怒りに見えるアメリカの行動の、その実際の構造を見ていきましょう。