03:第八王女の恋人
あの冬至の日から、毎日のように陛下に手紙を書きました。
きっと不審に思われていることでしょう。
どうして八年間も手紙をやりとりし、欠かさず贈り物をして下さった陛下のことと、たった一晩……どころか半晩会っただけの“旅人”さんと比べられるのかが分かりません。
私がこんな不誠実な人間だったとは、自分自身で認めたくないのです。
それなのに私は、“旅人”さんに触れられた手の甲に、自分でも唇を落としてしまいます。
「浮気だわ――」
これって浮気ではでしょうか。
ジャレスさまに申し訳なくて、毎晩のようにこっそり泣きました。
でもそれも侍女にはお見通しです。だって、毎朝、目が腫れているのでは隠しようがありません。
いつ婚約を破棄すると言う通知が届くか、恐ろしいです。
いっそ婚約を破棄されてしまえばよいのではないか? そうしたら“旅人”さんと一緒になれるのかもしれません。
ですが“旅人”さんがどこの誰か、何をしているのかすら分からないのに、ついていくなんて無謀すぎます。
なんだか血の匂いがする方でした。危ない職業の方かもしれないし、若い娘を騙して連れ去って、売り飛ばすような外道の輩かもしれません。
「そんな風には見えなかったけど……じゃあどんな風に見えたのかしら?」
ぼんやりと部屋の中を見渡せば、ジャレスさまから頂いたものばかりです。
母を失い、孤独だった私を助けて下ったのはジャレスさまです。全てはジャレスさまの愛情のおかげです。たとえ私を利用するつもりでも、私は構いません。
「ただ恋をしてみたかったんだわ。恋愛小説みたいな」
やはり害毒だったかもしれません。
ジャレスさまから贈られた本の背表紙をなぞっていきます。
ふと、一冊の本に目が留まりました。私のお気に入り。
冬至の夜。お祭り。はじめて出会う少し乱暴な男性との出会い――「あれ?」
そうだったにね! 私が憧れた物語をそっくり写したみたいな出会いだったから、その気になってしまったに違いありませんわ。
「なんだ――ただの勘違いね」
そう思うことにしましょう。
私はジャレスさまの婚約者なのだから。他の男性によそ見をするなんて、あってはならないことです。
それからはもうあまり“旅人”さんのことは思い出さなくなりました。
私の身に辛く、恐ろしいことが立て続けにおこったことも大きな理由の一つです。
まず、“新月”が息を引き取りました。随分と衰弱していたので、覚悟はしていましたが、辛い別れでした。悲しみに浸る暇もなく、今度はジャレスさまへの暗殺未遂事件がおこります。ジャレスさまは襲ってきた者を一刀両断にしたらしいのですが、ご自身も傷を負ったとのこと。私はお見舞いの手紙を何通も書きました。心から不安で、『私は平気です。あなたのことこそ心配です』との返事が戻って来た時、自分はジャレスさまのことが大好きなのだと、失いたくないという気持ちを確認しました。
なので一年経って、また冬至の夜がやって来ても、もう外に出ようとは思いません。
私は浮気なんてしない。あと一年でジャレスさまと結婚できるかもしれないのに、その機会を自ら棒を振るような真似は絶対にしたくありません。
それなのになぜか侍女が「たまにはお外に出てみませんか?」と誘うのです。
私は拒んだものの、護衛が「私がお守りしますから」と常になく熱心に訴えるので、つい頷いてしまいました。
その結果、護衛ははぐれ、私はまた“旅人”さんと一緒にいました。
「やぁ、約束を守ってくれたね」
約束? そう考えると、今日来られたのは良かったかもしれません。
「一年間、元気にしていたかい? お嬢さん」
「ええ。あなたは?」
「俺? 俺は散々だったよ」
被っていたフードが外されると、顔に大きな傷がありました。
「どうなさったんですか!?」
知らぬ間にその顔の傷に手が伸びてしまい、案の定、彼に絡めとられてしまいました。そのまま今度は手のひらにキスをされます。「お嬢さんに会いたかった――」
「離して下さい……! 人が心配しているのに!」
私だって怒ることがあります。それなのに、“旅人”さんは嬉しそうに笑うのが不可解です。
「もう帰ります!」
「――一度も踊らずに?」
手を握られたまま、“旅人”さんにそう聞かれて、私は足が竦んでしまいました。
踊りたい。この人と踊るのは楽しかった。おしゃべりも。何もかも。
「踊るんだな?」
私の気の迷いは、“他人”さんの強引な決めつけで断ち切られました。
「――いいえ!」
思いっきり手を振り払い、駆け出しました。「待って!」と声が聞こえますが無視です。けれども運悪く、今度は“旅人”さんより厄介そうな一団に取り囲まれてしまいました。
どうして男の人は私に「一晩付き合う」ことを要求するのでしょうか。
男たちの囲みをあっさり突き崩して“旅人”さんが助けに来てくれましたが、私は怒ったままです。
こんな恋愛小説でよくある話でときめくものですか。一度、学んだのです。同じ失敗はしません。
私はミュレス帝国の皇妃になる人間なんですもの。
「せめて……でめて送っていかせてくれ。一人では危ないんだ」
“旅人”さんがしおらしく懇願してきます。
「困ります。男の方と一緒に帰るなんて――あの、あー兄と来たんです。
兄を探して下さいませんか?」
護衛のことは兄と言うことにします。
「くそっ、分かった――」
こんな人込みで、見つからなかったらどうしよう――との不安は杞憂に終わりました。
護衛はすぐに出てきたのです。
そう“出てきた”――。その直前に、“旅人”さんはぴゅーっと指笛を鳴らした気がします。
“旅人”さんは護衛に私を引き渡すと、「一回くらいは踊りたかったよ」と惜しそうに言いました。
「一晩、お付き合いしました。
もうこれっきりですわ。
――私も、出来れば踊りたいのですが……ああ、でも駄目! そんなの無理だから!!」
“旅人”さんといると、私の心が揺れ動いてしまいます。
護衛の腕を引っ張って、その場を離れました。
「王女さま……王女さま……離して下さい。困ります」
しきりに後ろを気にしながら、ミュレス帝国なまりで護衛が訴えます。
「いいえ、離したらまたどこに行くか分からない護衛なんて、信じられませんわ。
ああ、“新月”が生きていたら! あなたよりよほど頼りになったでしょう」
護衛は大人しくなりました。
私は出来る限りのことをしました。
それでもやはり皇妃になるには、“旅人”さんとのことは醜聞だったのです。
それとも護衛と腕を組んだのが悪かったのかもしれません。ちなみに護衛が翌日、腕を吊っているのを見ました。聞くと、「犬に噛まれた」そうです。「最近、離宮の周りに凶暴な野犬がうろついているんですよ」と侍女が言い添えました。珍しく感情が噴出しています。
「“新月”がいなくなったせいで縄張りが荒らされたのね……」
再び、激しい喪失感に襲われました。それは“新月”だけではなく、“旅人”さんにも向けられていました。もう二度と、どちらとも会うことはないでしょう。
そしてジャレスさまとは、一度も会うことなく、お別れすることになりました。
一か月後、ミュレス帝国から我が国へ婚約破棄の通告があったのです。
『ララ王女とのこれ以上の婚約期間は不要』とのことです。
私は父からそれを告げられ、恥ずかしげもなく泣きました。
もう恥も外聞もありません。ジャレスさまに拒絶されたのですから。
第一夫人と第二夫人はくすくすと笑っています。
話を聞きつけて第三夫人もやって来ました。
そしてミュレス帝国の使者に「うちのララの何が悪いって言うのよ! 狂犬なんてこっちからお断りだよ!! ばーかばーかばーか」と抗議してくれました。後から第六王女と第七王女も駆けつけ、「うちにおいでよ」「あいつから貰ったもの、全部、突き返してやれ」「大丈夫、あんたから何を持って行ったか、ちゃんと記録してあるの」「お姉さまは私の方が多く持って行かないか心配だっただけだけど、役に立ったわね」と今日も賑やかです。
「あ、ララ、笑ったわね」「良かった。元気出しなよ」「あんたのおかげで大金持ちと結婚できたから、贈り物の費用は全部うちが持つわ」「と言うか、一方的な破棄なんだから、慰謝料とか取れないかうちの旦那に聞いてみるわ。うちの人、見かけはぱっとしないけど凄腕の外交官なんだからね」
盛り上がる姉二人、そして相変わらず「ばーかばーか」言っている第三夫人。第三夫人は語彙力があまりないので、私へのお叱りも、最終的には「ばーかばーか」しか出てこなくなって締めくくられたのを思い出し、懐かしくなりました。
困り顔の父が「いや……そういう意味では」と言いかけた時、先ぶれもなく一人の男性が部屋に入ってきました。
「ばーかばーか」言われていた使者がぱっと居住まいを正したので、第三夫人は何事かと思い、そちらの方を見て「ばー」の口のまま固まりました。
男性はとても威厳があって、大きな傷のある恐ろしい顔をしていたからです。
もっとも私にはその顔に見覚えがあります。
「“旅人”さん!」
私の声に「陛下!」とミュレス帝国の使者の声が被ります。
ああ、そうか、この人が私のジャレスさまなんだわ――。
え? それって、つまりどういうこと??
――騙されたんだわ。
私は目の前が真っ赤になりました。
次に気づいた時、私は塔の部屋の寝台の上にいました。傍らには“旅人”さん――もとい、ジャレスさまです。
「ララ王女……気が付かれましたか?」
顔が“旅人”さんなのに、口調が丁寧です。
ふふっと笑いました。
するとジャレスさまは目を見開きます。
「意外ですか? 私が笑ったの?」
「ええ……怒っているかと」
私はそろそろと起き上がります。
「怒ってはいません。悲しいだけです」
本当はすごく怒っています。腹が立っても人間は笑えることが分かりました。
「ああ」とジャレスさまは呻きました。「あなたを謀ってしまいましたね」
「それに婚約を破棄なされたわ」
「それは違います!」
力いっぱい、婚約破棄を否定されたジャレスさまは、私の手を取ります。「あと一年は待てません。今すぐ結婚して下さい」
「どうかお願いします」とジャレスさまは跪き、私の手に頭を垂れました。
「――嫌です」
ぎゅうっと私の手が強く握られます。
そしてジャレスさまは滔々と、いかに私が好きなのかを語り出しました。
はじめは確かに結婚から逃れるために、適当に選んだ婚約者だったそうです。手紙も贈り物も義務的なもので、私の手紙なんて読んでもいなかった。それがたまたま、ちょうど私が返事を求めない旨の手紙を出した時に、それを目にし、興味を持たれたそうです。それからやはり間者だった侍女と護衛からの報告。
「あなたはとても上手にお姉さんたちを懐柔しましたね」
贈り物も姉たちが指摘した通り、他人任せだったのでした。あの『帝国誌』は近くにあったものを放り込んだだけ――「いや、正直に白状しよう。ちょっとした意地悪だった」
「まぁ……!」
ジャレスさまは私に縋り付くように手を離しません。
「しかし君はあの難しい『帝国誌』を読み込んだね。
手紙で間違いがあると指摘された時は戦慄したよ。そこまで様々な書物を読み込むほどの見識を身に着けられたとは」
それになにより、自分のことを一心に慕ってくれる。
「私にそんな人間はいなかった。
時が経つにつれ、君への想いが募って、どうしても直接、確かめたくなった」
けれども皇帝と言う身の上では自由には動けません。それでも必死に時間と機会を作ったそうです。ちょうど冬至の頃にあたったので、せっかくだから私の好きそうな状況で会ってみたらどうか、と思い立ったそうです。
「そういうの好きだろう?」
「――とても迷惑でした」
「うっ……!」
「私が……どれだけ! 辛く悲しい思いをしたか、ジャレスさまはまったく分かって下さらないのですね」
思い出すだけで涙がこみ上げてきました。
「君が“旅人”さんと私との間で揺れ動いているのは聞いた」
ジャレスさまは私の貞節を試したのです。ご自分は私の好みを把握してます。会話が楽しいはずですわ。おまけに理想のシチュエーションまでおぜん立てして!
それでもし、私がジャレスさまよりも“旅人”さんを選んだら、どうするおつもりだったでしょう。自分と同じ人間だから構わないと、本当にそう思えるのでしょうか? その前に、もし、会ってみて、私が理想と違っていたら? なんだか簡単に捨てられたような気がします。
私は小さい頃、いろいろな人に粗略な扱いを受けてきました。けれども、他の人が私をどう扱おうとも、どう思おうとも、どこか達観した気持ちでいられました。だって、別に好きでも大事な人でもなかったんですもの。
ただ、ジャレスさまにだけはそうされたくなかった。ジャレスさまは私の――。
「許して欲しい」
私が自分でも制御出来ない怒りを持て余していると、ジャレスさまは「馬鹿な真似をしたと思っている」と認め、「だから君の大事な第三夫人が使者を通して、私を馬鹿と連呼したことを許してもいい」と言い出しました。
「陛下! まさか第三夫人を処罰するおつもりですか!?」
「それは――君の態度次第かな?」
目を細めて言うジャレスさま下の顔は、まさしく狂犬皇帝の名に相応しいものでした。ゾッとします。
ジャレスさまの本性はこちらで、あの手紙の主ではないと言うのでしょうか?
「分かりました」
「ララ……ゆるして……」
「私も第三夫人と一緒に処刑して下さって、結構ですわ」
本当に殺されるかもしれません。
でも、それでもいいです。こんな狂犬皇帝ならお断わり。いっそ第三夫人といた方がマシです。
私を騙して弄んだジャレスさまと結婚しても幸せになれるとは思えません。
「せいせいしますわ」
ツンっと顔をそらすと、ジャレスさまはしばし絶句した後、しぶしぶ宣言を撤回しました。それからさらに譲歩なさって下さいました。
「じゃあ、どうしたら私を許してくれる? 君が望むことなら全て叶える」
私もつい感情的になってしまいました。
手紙だけでは誤解もあったのかもしれません。ようやくこうして会えたのですから、分かり合うことが出来るはずです。
「婚約破棄を撤回して下さい」
「え……それってつまり……」
「あと一年、婚約者でいましょう」
「なぜ!? どうしてだ!?」と憤慨するジャレスさまに、私は説明いたしました。
「私、恋がしたかったんです。
“旅人”さんとしたみたいに、一緒に踊ったり、美味しい物を食べたり、手を繋いで歩いたり、ただ笑い合ったり……そういう恋人同士みたいなことがジャレスさまとなら公に出来るのでしょう? その機会を失いたくありません」
「そんなこと、結婚してからも――」
「夫婦と恋人同士は違います!」
私はきっぱりと言い切りました。「恋愛小説で勉強しました」
「あー、あんな有害な本、あげなければ良かった。嘘だと思っていたけど、本当に婚期が遅れるじゃないか!」
それは違うと思います。
「婚期に変更はありません。ジャレスさまが早めようとしているだけです」
ジャレスさまは「――同意しよう」と、ようやく分かってくれたようなのに、なぜか私の腰に手を回してきました。“旅人”さんといい、やたらと触りたがる方です。
「恋人同士ということは、キスくらいは許してくれるだろう?」
「え? 今ここで?」
折角なら星がきらめく夜空の下とか、お花が咲き乱れる丘とか――「まったく有害な本だ! 発禁処分にしてやる!」
そのままジャレスさまは私に口づけをされました。そして寝台の上に押し倒されます。
「っん……!」
私はジャレスさまを押し返します。こんなの結婚前の男女がしてはいけないことです。何よりも、私との約束をなし崩し的に反故にしようとしています!
「恋人同士ならここまで……です!」
「つまり? ここから先は……」
大柄で黒い髪の毛で黒い瞳の男の人が、私に覆いかぶさったまま、苦し気に眉を顰め、「ハッハッ」と息を吐いています。
なんだか犬みたい。そうね、狂犬皇帝ですものね。
と言うか、これでは――「なんて躾のなっていない駄犬なの」と言う第一夫人の声が脳裏に浮かんでしまいました。
そうだわ。本当に私を愛しているのならば、分かってくれるはずです。そして、私も本当にジャレスさまを愛しているのならば、きちんといけないことを教えないと――優しく、けれども毅然と。
「ここから先ですって? 一年、お預けですよ。躾のなっていない駄――ワンちゃん」
そう口に出してみると、背中がゾクゾクしました。殺されるかもしれない恐怖と、それから何か言い様のない感情が込み上げてきたのです。
ジャレスさまも唖然としています。
「今――なんて?」
ただし、怒っている様子はありません。本当にもう一度、聞きたいようです。
それに勇気づけられて、私はジャレスさま鼻を人差し指で軽く触れました。
「躾のなっていないワンちゃん。
お預けですよ。お・あ・ず・け。
一年、我慢出来たら、許して差し上げます」
「も、もう一回――」
「何度も言わないと理解出来ないんですか? 困ったワンちゃんね」
これも第一夫人たちに言われていたことです。私はその度に、夫人たちに何度も説明の手間をかけることを申し訳ないと思い、出来るだけ一度で理解できるように心がけるようにし、実践してきました。
ジャレスさまも分かって下さったようす。いそいそと身を離し、私のことも起き上がらせて下さいました。そしてまじまじと私の顔を見つめると、嬉しいことをおっしゃって下さいました。
「君は――私の皇妃になるのに相応しい。君こそ、私の理想の女性だ」
「ジャレスさま……! うれしい……え?」
ジャレスさまが私の足元にひれ伏して丁寧に、「もう一度キスをさせて欲しい」と懇願されたのです。その時、私の素足……私が気絶している間に脱がされたようです……に触れられたので、びっくりして足を動かしたら、ジャレスさまのお顔を蹴ってしまいました。でもジャレスさまはやはりお優しい方だったのです。皇帝の顔を蹴った私を許して下さいました。
けれども結局、“待て”は半年しか持ちませんでした。ジャレスさまは狂犬ではなく駄犬ですから仕方がありませんわ。
ある日、ジャレスさまが私の寝室に忍び込んで来られたのですが、その首にはなんと、私が大事にしまっていた”新月”の首輪がはめられていたのです。そして私の前に這いつくばって「どうか俺の飼い主になってくれ! ……いや、なって下さい! “新月”の代わりに、君の側にいるから。どうか俺をララの手で躾なおして欲しいんだ」と懇願されてしまったのです。
私はその光景に、これまでになく胸が高鳴りました。これが恋なのかしら?
憧れた恋愛小説とはちょっと違います。でも、第一夫人が第四王女に言ったように「物語の男なんて、現実にはいないのよ。現実を見なさい! 現実を!」と言うことなのでしょう。
その現実の男がジャレスさまで、私はその現実にときめいているのです。何も問題はありません。「分かりました。ジャレスさまのお気持ち、お受けします」
ジャレスさまはすぐに人に噛みついたり、無駄吠えするので、私は飼い主……皇妃として、しっかり「いけませんよ」と教えて差し上げなけなりません。
勿論、簡単なことではありませんが、険しい顔つきだったジャレスさまには笑顔が増えてきて、私はそれを見ると、とても幸せになります。最初は私に厳しい視線だった帝国の重臣の方々や貴族の方々、宮殿で働く方々にも徐々に受け入れられるようになり、私に対し「頼りにしております」「皇妃陛下だけが我が帝国の希望です」「ララさまのおかげで命拾いしました」と声を掛けて下さる人も多くなりました。やりがいを感じます!
このところジャレスさまが帝国の民に対して良い行いをされたと皆が喜んでいる声を聞くことが多くなりました。今晩はたくさん褒めてご褒美をあげようと思います。