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程なくして、トーガは帰って来た。
だいたいジョッキ一杯分の果実水が飲み干されるくらいの時間で…。
まあ、要するにコップ二、三杯程度。チビチビやってたので、だいたい三十分くらい、受付嬢仕事はいいのか?という視線を向けていた。
シイナがいなくなるなり、何度か大きく首を縦に振るような同調や大きな喜びの声がアチラで上がり、ひどく楽しそうにしているのを、傍観者たる彼女は観測した。
そんなあまりにも打って変わった良好な雰囲気に、受付嬢のことを快く思いはしなかったシイナだったが、まあそれはそれとして…。
「シイナ、なんとか今夜で食事に行くことを対価に…って、どうかしたか?」
「へぇへぇ、兄さんはいいでガンスな…勇者じゃなくて!!」
自分とは…というか、他の人相手であろうと全くといっていいほどに会話をしないトーガが口を動かしていたことに、正直苛立ちを覚えていた。
恐らくこれが卑屈ながら、彼に向けての彼女なり、精一杯の当てつけなのだ。
そんな八つ当たり気味の怒りの感情に、トーガは呆れたような声をシイナに向けてきた。
「あのな…。勇者じゃないから、上手くいったんだろうが…。」
「?」
「…要するにとりあえず個人的に知ってるパーティーのいくつかに声を掛けてくれるらしい。」
え?って、ことはつまり…。
「……おおっ!」
この歓声からもわかるように、シイナの機嫌は一発で良くなった。
理由は簡単。彼の行動には意味があったから。
いや、それでは回りくどいか…正確に言うならば、滅多に人と関わりを持とうとしない彼がシイナのために働きかけてくれたことがなんとも嬉しかったのである。
「っ…。」
「できるだけ早く試練をクリアして、他の勇者たちに会っておきたいんだろ?頑張れよ。」
ツン。
優しく額を人差し指で小突かれた。
「と…トーガ…。ぐすん。」
その優しげな態度にシイナは涙ぐむ。
そうだ。トーガは自分の味方をしてくれているんだ。
自分が嫌われているこの街にも少なくとも一人は心強い味方がいる。そう思うと、弱気になりかけていた気がどこかへ霧散していくのがわかった。
「よし!頑張るぞ!!」
っと、そういえば…。
「ということは、今夜はいないの?」
「?夕食食べるだけだから…いや、酒も呑むか…となると…。」
いやね…そういうことじゃなかったんだけど…。
もっと下世話な…こほん。
でも、この人にはそんな心配無用だったかな?基本研究馬鹿だし。
「うん、わかった。それじゃあ、今日はこれからどうしようか?武器…はいいにしても、防具の手入れとか?」
「…そうだな。そんなところだろう。」
「じゃあ、行こうか、トーガ♪」
シイナは立ち上がるなり、勘定をテーブルに置いてから、トーガへと手を差し出す。
「ああ。」
彼が手を取ったのを確認すると、機嫌よく鼻歌混じりで歩き出す。
ふ〜んふふ〜ん♪
そして、夕方トーガと別れる時にシイナはすっかり忘れていたことを思い出す。
…またトリシアちゃん、泣いちゃわないよね…。




