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「んん…眠い…。」
「…だから言っただろう。早めに眠れって。」
全く口うるさい。アンタは私のか〜ちゃんかっ!!
なんて思ったのかもしれない。…まあ、実際それくらいのことはしてもらったけど。
でも今はそんな気力もない。
「はい、お待たせ。」という声が聴こえた気がした。
ねむねむ。
「ほらご飯が来たぞ。」
「ふぁ〜い。」
「…全く仕方のない奴だ。…ほら、あ〜ん。」
「…あ〜ん。もぐもぐ。」
こうして、私たちは朝ご飯をしっかり食べてから、冒険者ギルドへと向かった。
…正直寝ぼけていてよく覚えていないけど、なにか大変なことをしていたような気がする。…まあ、ホント覚えてないからわかんないけど。
それはともかくとして、冒険者ギルドである。
行ったことのある王都のギルドは特に賑わいをみせており、比較というわけではないが、興味があったので、少し楽しみだ。
「わぁ…人いっぱい…。」
やはりというかなんというか、ドアを開けるなり、独特の熱気を感じ、ギルド館内は王都同様に賑わいを見せている。
そんな中、特に一際大きな人だかりができているところがある。おそらくあそこに依頼があるのだろう。
基本依頼は早いもの勝ちなので、1日の稼ぎはこの瞬間に決定すると言っても過言ではないため、そこからはバーゲンセールにも似た空気感を少し感じる。
なんとなく近寄りがたいながらも、一度くらいは参加してみたいという気持ちを抑え、シイナは買取窓口とは真反対にある、一際人が少ない紹介窓口へとトーガを連れ立って向かった。
「あの、すいません。」
「はい、なに…かっ………………。」
隣の忙しそうにしている同僚たちを見ていた受付嬢はシイナのことを見るなり固まった。
瞬間、シイナは苦虫を噛み潰したような表情をする。
…どうやらまたらしい。
やはりグリルから聞いたように、シイナのクラスメイトたちはやらかしていたたらしい。
やれやれ…と、シイナがさも他人事のように思っていると、思わずという表現が適当だろう、受付嬢が口走った。
「昨日、奇声を上げてゴロゴロしてた…。」
……はい?
何を言っているのだろう、この受付嬢は?
と、シイナがあまりに予想外なことに戸惑いを見せていると、ふと横から吹き出すような音が聴こえてきた。
「……プッ!」
「……なにかな、トーガさん?」
珍しくなにやら反応を見せたと思いきや、それは自身を馬鹿にしたもので、シイナがジト目を向けるが、どうやらトーガは全く堪えないのか、むしろ邪魔だとばかりにシイナを退けると、受付嬢へと話し掛けた。
「受付嬢、申し訳ないが、20層あたりを探索している魔術師、シーフ…あとできれば治癒術師をコレに充てがってもらえないだろうか?ああ、コレのことを鑑みるに、ある程度若い女性がいいだろう。」
「えっ…あっ…は、はい!ただ今!」
へぇ…コレ呼ばわりね…と、シイナは思わないでもなかったが、彼女の今後の鍛錬のことを考えるに、自分より恐らく適当なことを言っているに違いないと即座に理解したため、それをやめると、程なくして、受付嬢はやって来て一言。
「…あの…申し訳ありませんが、ギルドのほうで勇者様に紹介というのは…。」
「……は?」
そんなふうにシイナは呆けた顔を晒し、トーガへと視線を送る。
すると、どうやらトーガはこの事態を予想していたのか、顎に手を置き、小さく呟いた。
「…予想していなかったわけではないが…面倒なことになったな…。」
「ど、どういう?」
「ん?ああ…恐らく勇者たちも似たように…もちろんシイナの場合は30層到達までの予定だが、彼らの場合、始めの数日くらいの間、ガイド代わりにでも冒険者の手配をギルドに要求でもしたのだろう。」
「ふむ、それで?」
「また恐らくだが、それに多くの冒険者は乗った。勇者とお近づきになる機会なんて中々ないからな。憧れや興味、はたまた利用してやろうと言う奴もいたに違いない。」
「ああ、うん…確か王都でも遠巻きに見ていたような?」
「王都では一緒に訓練をしていた騎士が引率していたんだろう?だから問題が起きなかったというわけだ。」
「…つまり?」
「…まあ、要するに街で噂になるような始まりはこの冒険者ギルドからだった…と言ったところか、受付嬢?」
「えっ…あっ…まあ、そうですね…。」
受付嬢はどうにもぎこちなく、なんとも言いにくげにトーガのそれに答えた。
「そして、苦情は冒険者ギルドに。勇者たちは引率含め知らんぷり…か…。」
「……。」と、トーガの言葉に無言の受付嬢。
周りの受付嬢の視線もこちらへと向き、なんとも歓迎し難い雰囲気が目に見えて漂い始める。
…他人事みたいに言うな!!と言ったところかな?
「ああ、一応言っておくが、俺はラザフォード魔術学園の人間で、単に道すがらコレを送っているだけだ。」
なっ!?ず、ずるいっ!!旅は道連れでしょ!!たとえ行き先が地獄でも!!
「ああ、そうなんですね。学園の。」
トーガが自分が勇者に関係ないとわかると受付嬢の反応がどこか好意的なものへと変わり、彼女はちょいちょいとトーガに顔を寄せるように手招きした。
「ここだけの話ですが、ほんっとうに!大変で!!」
聴こえてますよ〜、完っ全に!!パーフェクトリー!!
「そうか。」
ふとトーガのフードに隠れてよく見えない顔がこちらへと向き、首が併設された飲み屋の方へと向いた。
どうやらあそこで待っていろということらしい。
あっ、お邪魔ですか?
ああ…お邪魔なんですね…私…勇者ですもんね…。
がくり。




