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それからシイナたちはほぼ取り調べと表現するに相違ないそれを受け、ようやく今解放された。どうやらここの責任者たるグリルは彼女たちのことを危険ではないと判断したようだ。


初めこそ警戒をしていた彼だが、今ではこんな冗談を言い合えるほどなのがその証拠だろう。


「お〜い、もう来るんじゃねぇぞ〜!!」


「そりゃあないでしょ、グリルさん!!」


犯罪者でもないのに、とシイナが返すと、ガハハッ!!という、そんな笑い声が聴こえてきた。


とまあ、こんな具合。おそらく彼なりの激励というやつなのだろう。


いやはや、それはともかくとして…。


「……。」


「……。」


「…しかし、なんというか…う〜ん…。…これ…泊まるところ見つかるのかな…?」


「……。」


時刻はもうすっかりお日様が沈んだ8時。


店から漏れる明かりでこの大通りは照らされているためか明るいが、宿のチェックインできる空きはもうないかもしれない。


ただでさえ、そんな状況。


そう…そんな状況にありながら、彼女たちはこの街の人たちから厄介者扱いを受けているのだ。


「マジで何やってるのよ…あいつら…。」


彼女の言う、あいつら。


それはまさしく勇者たちのことである。


彼らはここ冒険都市サイルライルに修行のために来た。


異世界から召喚された勇者たちはこれよりラザフォード魔導学院へと通う予定となっており、その通り道にちょうどここがあるため選ばれた。


学院での授業には戦闘もあり、その経験の不足を補うため、ここへと派遣されたというわけだ。


異世界から召喚された勇者。


この言葉の響きはなんと心地よいことか…。


……まあ、要するに急に力を手に入れ…調子に乗っちゃった♪てへぺろ♪…ということらしい。


勇者の立場を利用した暴行に恐喝、詐欺をメインとして、一部強姦の疑いまであるらしい。


「……。」と、それを聞いた時、シイナは言葉がなかった。


そして、現在もまたその時同様、言葉がない。


「……。」


……要するに問題…問題!!問題に次ぐMONDAI!!


つい先日、彼らは30層到達というノルマを達したらしく、この街から出て行ってくれたというのに……()()!?


…というのが、門番だけでなく市民たちの総意とのこと。


今も飲み屋のおっちゃんたちも、居心地悪そうにイスごと通りに背を向けて、空っぽのジョッキ傾けてるし、給仕さんなんて折角稼げる機会だというのに、「おかわり!!」の声をガン無視してる。


「…はあ…どうしよ…。」


高まりゆく街中野宿という、暗澹たるワード。


それは言わない約束よ、とシイナは何度も浮かんだその言葉を飲み込んでいた。


「……。」とこのように。


しかし、いい加減このまま立ち尽くすわけにはいかないと彼は思っていたに違いない。彼はかなりの合理主義者だから。


ふよふよ。ふよふよ。


「まあ、野宿かもな。」


そう空に浮かんだ男がずっと思い至っていた結論を単的に口にしたことで、瞬間、旅疲れプラス強いストレスに晒されたシイナの中でなにかが弾けた。


「…いや…嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌イッヤーーーーーっ!!!それだけはイヤーーーーッ!!!」



「イヤなの!イヤなの!野宿なんてイヤイヤイヤイヤ…。」


イヤだイヤだ!!と、そう今にも転がり駄々っ子になり掛けているシイナ。


「うわっ、ヤベェ奴だ!!」


「勇者だってよ。」


「ほら、店の中に入んな!!」


なんて声が聴こえてきて、おそらくこれまでの勇者とは違った意味でのヤバイ奴だと認識されたのだろう、外で賑やかに呑んでいた連中まで店の中へと引っ込んでしまい、ぽつねんとトーガたちはここに取り残された。


「……。」


あっ…これ…完全に野宿だな…と、トーガもまた完全に諦めようとしたところ…。


「あ…あの…。」


…ふと声が聴こえ、そのほうに視線を向けると、そこには、喚き散らすシイナと一人の少女がいた。


「イヤーーー!!イヤーーーーー!!ノージューーキューーーーッ!!」


「あの…で、ですから…。」


「イヤーーー!!!イヤなのーーーーッ!!!」


…どうやら気狂い…もとい今のシイナはこの気弱そうな女の子のことに気が付かないらしい。


致し方なし…か…。できることなら全ての会話なんかはアレに丸投げしたかったんだが…。


「…おい、そこの娘。」


「ひゃ、ひゃいっ!!にゃんでしょうっ!!」


彼女はビクリと飛び上がるように身体を震わせ、恐る恐るといった様子でこちらを見てくる。


「今のそいつに話を聴いても無駄だ。」


「あっ…えっと…その…。」


「なにアイツは少し狂って…いや、少し気分が優れないらしい。話なら、俺が聴こう。」


「あっ…勇者様の従者の方ですか?」


勇者の従者?


ああ…確かドルグリッド(王)がそんなこと言ってたか?何でも一人一人にメイドか執事のどちらかを付けたとか…。


「いや、違うが…まあ、旅仲間と言う奴だな。」


「あっ…そうなんですね。ごめんなさい…。」


「なに、気にすることはない。誰にでも間違いはある。して、何用だ?」


「えっ…えっと…その…宿を探してるんですよね?」


「ああ…もしや…。」


「は、はい。その…よろしければうちの宿なんてどうかな…なんて…。」もじもじ。


「……ふむ。」


トーガはありがたいと思うと同時に思考する。


彼女の好意を受け入れた場合、それを仇で返しはしないかと…。


この街での勇者の評判はすこぶる悪い。


シイナがグリルとやらから聴いたような態度を取るとは思えないが、それらによって齎された外聞が悪質なものへと変わって一人歩きしないとは言い切れない。


いや、そもそもあれだけのことをしてきたのだ。


よくよく考えてみれば、現在、街全体で勇者排斥の動きもあるのかもしれない。


…さて…グリルが全てを伝えてくれたのか、それとも少しは痛い目に遭えくらいのことは思っていたのか…。


「……。」


「イヤーーーーッ!!イヤーーーーーッ!!」


そんなふうにトーガが目を離した隙に、シイナはすでに地面にその身を預け、ゴロゴロとそこら中を周っており、そのあまりにもラリった行いを誰か止めろよと、チラホラ現れてきた衛兵たちすら押し付け合っているのが視界に入り、なにやっているんだアイツは…と額に手を当てた。


これではもう完全に予断を許さない。是非もなし。


悪評の元がさらに広がるのを止めねば、街に入ったばかりなのにすぐさま出立すら想像に難くない。


…これならばむしろこの宿屋の娘に同情が向くか…。


ようやくトーガは決断を下した。


「…すまないが、よろしく頼めるだろうか?」


「は、はい!」


「…では、少し待っていろ。」


そう告げるなり、トーガは転がる女のもとへと向かい…ボコッ!


「イヤーーーーーグヘッ!!!」


とりあえず殴って気絶させ、魔術で浮かせた。


…これくらいしなければ、衛兵に捕まるかもしれないからな。



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