どっかやっちゃった
ブーーー
聞いたことのないエラー音がして、ガチャンと扉が締まった。私の後に並んでいた人たちがあたふたしたり鬱陶しそうに舌打ちをしたりしながら左右の扉から捌けていく。
「すみませんお客様、ここにご購入レシートを翳していただかないと通れない仕組みなんです」
大柄なにきび面のバイトが叫ぶように告げた。
「えっどうしようレシートどっかやっちゃって」
「あぁ
じゃあお客様がここから出る権利もどっかいっちゃいましたねぇ」
いや。
いやいやいやおかしいだろう。
まともな店員に聞けば出してもらえるはずだ。ベテラン風の店員に話しかける。
「あのすみません」
「ですから」
「「お客様が」」
「「「ここから出る権利は」」」
「「「「どっかいっちゃったんですよ」」」」
とうにホタルの光さえ鳴り止んで、私以外の客は全員帰ってしまった。
店員は「接客モード終わり!」とばかりに無表情になって回れ右で締め作業を始めた。
私が何を言っても反応しない。
レジ締めが終わる。「お疲れっしたー」と店員たちが出ていく。
売り場中の電気が消える。
きぃぃぃと鉄のシャッターがこの世の終わりみたいな音を立てて閉まっていく。
ぐにゃぐにゃになった冷凍マグロのアラがレジ袋越しに汗をかいていた。
「どーすんだこれ」
どーしようもない。
ここから出る権利、どっかやっちゃったんだもん。