大大貴族
つまり、この世界は発展途上。
人々の生活を魔力で補うには心許なさすぎるし、かといって、魔力のない生活に戻るには、魔法資源は人々に夢を与えすぎた。
今のところ、魔力は冒険者にしか還元されていない。魔法資源を使うのは許可が必要で、その許可を得るために必要なのが、この学園というわけだ。
ちなみに、ルースの父が当てた事業には、魔法資源である魔鉱石が関わっている。要は、危険の少ない土地で魔鉱石の鉱脈を掘り当てたのである。
実家の近くに、どのくらい魔鉱石が埋まっているかはわからないが、魔鉱石さまさまである。
ーーさまさまではあるんですけど。
「ねえねえ、ルース君。貴方、すっごい睨まれてるよ。ねえねえ、ねえねえ」
「話しかけないでください。誰のせいだと思ってるんですか」
成金ゆえに、このお嬢様の気を惹いてしまうとは。
ずっと名前を教えてくれなかったこの少女は、クラス全体での自己紹介の時に、その名前を明かした。
ニア・ロイエンターレ。由緒正しき大貴族のお嬢様である。
中小貴族が彼女を囲っていなかったのは、あまりにも大貴族が過ぎるから。媚を売るにも、ちょうどいいクラスというものが存在するのだ。
ーーそんな大大貴族様がなぜか俺を気に入っているおかげで、クラスの男子を敵に回しているわけですか。
「まさに、前途多難だね」
この状況を完璧に理解しているお嬢様は、ころころと笑った。
「ああもう。俺は、こんなことしてる場合じゃないというのに」
自分の前世についての誤解を解かなければいけないのに、どうしてルースは、上級生に囲まれているのだろうか。
「おい、聞いてるのか? 金があるだけで、僕たちに及びもしないお前が、どうしてニア様と一緒にいるんだ」
それは俺にもわかりません。
「ニア様の目の前から消えろよ」
そのニア様が俺につきまとってくるんだが!?
理不尽な言葉の数々に反論したい気持ちを抱くが、ルースは息を深く吸って、吐くことでどうにかしようとした。怒りのピークは六秒、怒りのピークは六秒……
「じゃなきゃ、父に言って、お前の両親をーー」
「おい」
自分でもびっくりする声が出て、ルースはやばいな、と思った。けれど、止めることはできなかった。誰だ、怒りのピークは六秒と言ったのは。
「ひっ……」
ルースの拳は、脅してくる上級生の頬スレスレを掠めていた。
「父上と母上は関係ないだろ。やるなら俺をやれよ腰抜け……あっ、そうじゃなくて、子供の喧嘩にですね、あれ、いない」
せっかく取り繕おうとしたのに、ルースの目の前から、上級生たちはいなくなっていた。
「ま、いっか」
ルースは髪をかいた。これで、ちょっかいをかけてくる人間は少なくなるだろう。