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斜陽⑤

「英雄様、ばんざ〜い!!」


諸手を挙げて、ランゼス達を迎え入れる市民たち。王都から逃げなかった、逃げられなかった彼らは、始原の獣を討伐したランゼス達を、「英雄」として迎え入れた。


「がっはっは!! 俺を崇めろ市民達ぃ!」


何時間にもわたる凱旋パレード。馬車の席から立ち上がったままのランゼスは、一度も腰を落ち着けることなく、市民に笑顔で手を振っている。


「あの人こそが、救世主だ!」

「あの人こそが貴族に相応しい」

「いや、腰抜けの王よりも、あの人こそが」


ちらほらと聞こえる声に、席に座るローガンは、顔を歪めそうになる。


「ローガン」


クロエの冷静な声が聞こえた。


「気持ちはよくわかるが、あんなのは、一過性だ。私たちのするべき仕事は、ランゼス様を利用する輩から、ランゼス様を守ることだ」

「ああ、そうだね。クロエ」


ローガンは、弱々しく笑った。


ーークロエは立派だ。僕が義憤に燃えていると勘違いしている。


ローガンは、クロエから見えないよう、拳を握りしめた。


ーー僕が(いきどお)ろしいのは、あの人たちじゃなくて。


顔を上げる。視線の先には、“英雄”の姿がある。






「やっぱり、俺を憎んでるんだ!!」


ルースは頭を抱えた。少し半泣きな目で、ニア(ローガン)をびしっと指差す。


「せっかく生かしたのに、英雄とか言われて、調子に乗った俺を憎んでたんだぁ!」


バカが増長している、と思われていたに違いない。ルースは、丁度自分の近くに来た獣に、おーいおーいと泣き真似をしながら頬を擦り付ける。もっとも、獣は幽霊なので、実際には、ルースが空中に頬を擦り付けているだけである。


「はぁ」


吐き出されたため息に、ルースはビクッと肩を揺らした。反射的に正座になる。ルースから解放された獣が、何かを引きずるような音を出して、とっとこと逃げ出していく。


「僕の話を、ちゃんと聞いていましたか? ランゼス様」

「ごめん、俺、国語よりも数学派で、嘘です嘘つきました。数学もダメでした。どちらかというと倫理が得意でした」

「倫理が、得意……?」


愕然とした様子のローガンに、ルースは「本当なんだって」と弁明。


「こっちの世界の人たちって、現代ってより、近世に近い価値観持ってるじゃないですか。だから得意だったんです」

「はぁ、そうですか」


納得してないのに納得した様子のローガン。


「僭越ながら」


恐る恐る、手を挙げたのは、ローダス(クロエ)だった。


「ローガンは、英雄と祭り上げられて、ランゼス様が我々の元から離れていくことに、憤ろしさを感じていたのではないでしょうか」

「あはは、ないない。寧ろ、厄介払いできると思ってたに違いありませーー」

「貴方はッ」


ルースが笑って手を振っていると、見知らぬ声がというか、聞き知らぬ声が耳に飛び込んできた。


「喋るな」


クロエがそちらの方向を向いて、冷え冷えとした声を出す。


重そうな冠を被った男が、小さな女の子の袖をひいて、必死に止めていた。それでも、その小さな女の子は、ルースに強い瞳をぶつけることをやめなかった。


「貴方は、こんなにも、ろ、クロエ様に……ローガン様に思われているのに、なぜ、知らないふりをするのですか」

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