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斜陽④

思えば王都はマシだったのだと、ローガンは思った。


ローガンの乗っている馬車が止まる。なにごとかと慌てて様子を見に行くというより、それはもはや、「確認作業」だった。


「ここもだよ。ったく、化け物が来る前になにやってるんだか」


御者を務めているランゼスが、うんざりしたように言う。クロエが、目を閉じて何かを祈っていた。

 

王都を出発して、始原の獣のいる方へ向かっていたローガン達を待っていたのは、道端に転がっている死体の数々だった。


獣にやられたのではない、時には殴打された後、時には刺されたり、斬られたり。明らかに、獣ではない殺人がおこなわれていたのである。


「なんで、こいつらは逃げないんだ?」


死体からものを剥ぎ取っているランゼスが、首を傾げる。


「王都の連中みたいに、逃げれば良いのに」

「彼らには、逃げる場所がないのです」


クロエが静かに、疑問に応じた。


「土地に根付いている、と言えば聞こえは良いですが、彼らには、此処しかありません」

「故郷に拘ってるってことか?」


ランゼスが、太い腕を組んで、自分なりに解釈しようとする。そんな様子を、クロエが愛おしそうにーーそう、それは、まさしくそのような感情だーー見つめる。


「ええ。王都の人間は、拘りが無いのです。彼らには、選択肢があるのですから」


地方出身者と、王都出身者、または在住者の違いはそこだ。単純な貧富の差から生まれる、複雑な選択肢の差。


このような寒村では、生きるための選択肢も限られてくる。だから、ここに留まる。交流のあった村の人間は食われていくから、自分たちの生活が苦しくなっていく。けれど、ここに、留まるしかないのだ。


ーー呪い。


まさしくその言葉が相応しい。ランゼスの言う「故郷への拘り」という呪いで、行き詰まった人々は、老若男女を問わずに、身近な人間を傷つけ、殺していったのだ。


これは、王様にとって誤算だろうと、ローガンはぼんやりと思った。


始原の獣は、死んだ人間の魂は食わず、生きている人間の魂を食うのに、当の人間達は、食われる前に殺し合っている。


いや、それで良いのかもしれない。




再び動き出した馬車で。


ローガンは、自分の手のひらを見た。


王様の目論見は、徒労に終わるべきだ。


決して、数多の国民を犠牲にしたという成功例を作ってはいけない。

 



……それが、ローガンが得た理由。




ブシャア、と血が噴き出て、始原の獣が倒れていく。ローガンに、恨みがましい目を向けながら。


「はあっ、はあっ……!」


極限の集中状態にあったランゼスは、ローガン達と同様、獣の返り血を浴びながら、息を整えて。


「やったな! ローガン、クロエッッ!!」


剣を放り出し、血まみれの手で、ローガンとクロエを抱き寄せた。ねちょりとした血液を感じながら、ローガンは、自嘲の笑みを浮かべていた。


ーーああ、やってしまった。

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