使い捨て①
それは、ギルドからの依頼の帰り道。
ことことと揺れる馬車の中。
「なんだか……異様な雰囲気になってきました」
渋い顔をするクロエは、「言っていいものか」と言いながら、ランゼスを見、ちらちらとこちらを見てくる。この女は、たいがい面倒くさい。
ローガンは、お望みの言葉を口にしてやる。
「早く言ってくれよ。気になるじゃないか」
「なら言うが」
嬉々として口にした言葉は、ローガンの表情を曇らせるには十分だった。もっともその時、クロエは、それを別の意味にとらえたようだが。
「ん、顔色が悪いぞローガン。大丈夫だ、化け物なんか、そうそう居るはずがない。噂には、尾鰭がつきものだ。実際にはこのくらいのイヌだったりするんだろう」
ローガンを落ち着かせるように、クロエは架空のイヌをわしゃわしゃと撫でて可愛がる。本当に、イヌであったら良かったものを。
「だが、親衛隊の一部が消息を絶ったのは異常です。私が言いたいのは、ランゼス様」
この化け物に関する依頼が来たら、受けるべきではありません。
「ーーあのとき、僕は思ったんだ。どうして君がそれを知っているのかってね」
時は現代。すっかり女の子座りが板についたローガンは、巡回する化け物……始原の獣の首元を撫でながらそう言った。
「君の情報は、王様が言った情報と一致していた。出現した土地、親衛隊の派遣……すべて、あのとき、僕が聞かされていたことだ。だけど当然ながら、これは王様が隠したいこと。形だけとはいえ、民間ギルドの一員に知れていいことじゃない。だけど君は知っていた。それは、なぜか」
ローガンは、あの時のローガンも、そしてニアも、絶対にしない笑みを浮かべた。人を貶めてやろうという意志を、ガーネットの瞳に浮かべていたのだ。
「答えは簡単だ。君が、アランシールの生まれだから。だから、王様がひた隠しにして、やっと漏れ始めた獣の情報を知ることができた。権力っていうのは、知る力にも通ずるからね。上に行けばいくほどに、真実に近くなっていく」
「……ああ、だからお前は」
クロエが納得したような声を出し、こちらも、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「ちょっと二人とも。俺を置いて言い合うのやめてもらえますか」
なのでルースは、ジト目で二人を睨んだ。
「ランゼスも鈴成も馬鹿だったんです。ルースがちょっとマシなくらいで」
獣がそばに寄ってきて、憐れむように体を擦り付けてくる。ルースの味方は、この子ぐらいである。前世で殺したけど。
「とりあえず、ローガンは話を続けて。俺はお前の話を、全部聞きたいからさ」
ローガンは、こくりと頷いた。
ギリギリまで、戦力は残しておきたかった。
国政に携わる貴族の一部は、獣の存在を知っていた。特に古くからの名家であるアランシールなどが厄介だ。
名目上でも対策をしなければ、不審がられるだろう。
そこで、王様は考えついた。親衛隊を使おう、と。
親衛隊は、王を守る直属の軍隊のようなもの。だが、平和に明け暮れたこの国では、親衛隊は、貴族子弟の“楽な就職先”として有名になり始めていた。
対策は講じなければならない。だが、優秀な人材は出来るだけ残しておきたい。それならば、“要らない”人間から使っていこう。
「だから、死んだ人間は、特に惜しくないよ」
頬杖をつきながら、いつもの店で、王様はそう呟いた。手元では、唯一遺族から送られてきたらしい、小さな白い花を弄っていた。




