歪む指針③
そんなことをずるずると考えていたら、またもや悩み事が増えた。
行き倒れていた少女は、深々と頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございます。私はクロエ・アランシールです」
嫌だな、とローガンは思った。頭を上げた彼女の目は、探るような目つきだったからだ。
ーーアランシール。
どこかで聞いたことがある苗字だ。それを、どこで聞いたのか思い出せないが、アルフリートの血筋の自分が聞いたことあるだけあって、ロクな家名ではないのだろう。
そんなクロエに、ランゼスは「がっはっは」といつものように、無神経に笑う。
「いいってことよ嬢ちゃん! 礼はそうさな、こんくらい……」
「それは貰いすぎでは?」
ランゼスが指を立てるのを、ローガンは呆れた目で見てしまう。だが、クロエは、
「わかりました」
と頷いて、懐から金貨の入っているだろう袋をとりだした。
「おい、嬢ちゃん!?」
「な、なんて不用心な……!」
二人してわたわたと焦るが、クロエは冷静に、袋から金貨を取り出した。
「手を」
ランゼスが素直に両手を差し出すと、クロエは一枚一枚、金貨を乗せていく。
「ストップ、ストップ! 流石にこれ以上はもらえねえよ!」
「そうですか?」
意外と小心者のランゼスがそう言うと、クロエは素直に金貨を懐にしまった。
「助けた礼にしちゃあ多すぎないか!?」
「はい、勿論。このことだけの礼ではありません」
クロエがにっこりと笑う。ローガンは、猛烈に嫌な予感がした。
「これは前払いです。無事に私を王都に送り届けてくだされば、倍額払います」
もちろん、金に目がないローガンの尊敬する人は、目を輝かせて食いついた。
「まじで!? これの倍額!? やるやる! やったなローガン、これで毎日高級料理食い放題だ!!」
……結論から言えば、クロエの依頼は、やはりロクなことではなかった。
し。
「ランゼス様、私を貴方の剣にしてください」
ランゼスの前に跪くクロエは、出会った当初とはめっきり違う、まっすぐな瞳をしていた。ローガンは、瞳を眇めた。
ーーあまりにも、僕と違う。
生まれに苦しむローガンと真逆。高潔な生まれでありながら、ランゼスと共に歩むことを選択した人間。
あまりにも眩しくて、羨ましい。
その上、彼女には天賦の才があった。ランゼスに師事すると、その才能を開花させ、気付けばローガンは。
「あの二人、お似合いじゃないか」
「うるさいです」
いつもの店で、ローガンは、王様の言葉に、不機嫌そうに答えた。
「お前がいなくなったって、あの二人ならやっていけそうだな?」
「……」
わかっている。自分は足手まといだ。剣の腕は、あの二人の足元にも及ばない。
走っていても離される。追いつくことはない。いつのまにか、二人の姿は見えなくなる。
「まあ、今日は、そういう話をしにきたんじゃあない」
王様は、真顔になって、こう言った。
「始原の獣の目撃情報が、封殺できなくなった」




