ローガンの話④
「死ねぇえええ!!」
叫びながら向かってくる敵を、ランゼスは大剣を振るって上下に両断する。崩れ落ちる敵の上半身はきりもみして地面に落下した。
「勢い良すぎたかな」
ランゼスが、ぼりぼりと頭を掻きながら、上半身の方を確認する。手に持っていた依頼書と、死体の上半身にくっついている顔を比較して、「よし!」と一言。
「これ、五百はカタいな! ちょろいもんだぜ!」
「そんなこと言えるの、ランゼス様だけですよ」
ローガンは、呆れながらそう言った。第二の人生は、家族の死に顔で始まった。今更、死体なんか見たところで、どうということもないが、ローガンの懸念は別にあった。
ーー使い捨て、飼い殺しだ。
傭兵という、敵か味方か不確定な人間を、金で釣り、首輪をつける。死んでもいい人間の使い方。
「ローガンローガン」
やけにワクワクした様子のランゼスが、目を輝かせながら言う。
「これで、洗濯桶買えるかな!?」
「……十分すぎるくらいですよ」
洗濯桶などという話ではない。もう少し、金が貯まれば……ローガンは、そう考えて、やめた。
もう少しだけ、この時間を甘受していたかった。
ランゼスが死亡率の高い依頼を受け、達成するたびに、周囲の目も変わってきた。
「ランゼスぅ、お前、傭兵上がりのどーしようもねえ奴だと思ってたけど、意外とデキる奴だったんだな! どうだ? 俺たちの仲間に入らねえか?」
もう、何度目だろうか。ローガンたちの所属しているギルドのみならず、他のギルドからも、ランゼスへの勧誘が増えていた。
皆、ランゼスの強さに惹かれていることが、ローガンにはわかった。
ーー当然だ。ランゼス様は、酒癖が悪いし整理整頓が下手だけど、強さだけは一級品なんだから。
そんなランゼスのそばにいられることを、ローガンは鼻高々に思っていた。
「ありがとな! でも、俺のパーティーはもう埋まってるからさ!」
そそくさとこちらに逃げてきて、ランゼスはローガンに目配せ。
『ここいらで逃げるか』
ローガンも頷いた。盛大なため息をつく。
「ランゼス様、飲み過ぎですよ。一杯までって言いましたよね? 大体、お金を稼いだって、すぐにお酒に消えてくんだから……」
くどくどくど。
ローガンが説教を始めると、ランゼスを勧誘していた連中が、「そらきた」と手を叩いて笑う。
「じゃーなランゼス! ギルド入りの件、考えといてくれよな! あっ、お代は気にすんなよ! 気苦労してる弟子に免じて、払っといてやるよ!」
「今日もタダ酒が飲めた」
「僕は、ランゼス様の内臓が心配です」
月明かりが照らす道。満足そうな赤ら顔のランゼスに、それこそ胃が痛くなるローガンである。
「でも、本当に良いんですか?」
本当は、こんなこと話したくない。だが、ここ最近、手柄を上げ、名を上げるランゼスを見ていると、ふと、思うことがある。
「あの人たちのパーティーに入らなくて」
ランゼスは、最初、目を丸くして無言だった。が、ローガンの髪をわしわしと雑に撫で。
「俺は、お前以外をパーティーに入れるつもりはない。そりゃ、可愛い子がいたら入れるかもしれないけど……お前もそうだろ?」
「……はい」
ローガンは、下を向いた。嬉しかった。自分も、そうだと思われていたことが。
「家に帰ったら、洗濯桶を買いに行きましょうか」




