ローガンの話①
どうせ売り飛ばされるんだろうなと思っていたのに、ランゼスと名乗った男は、いっこうにローガンを売り飛ばさなかった。
「お前、家事できる? 俺はさっぱりでさあ、服が汚れたり破れたりしたら、捨てちゃうんだよなぁ。けどそれ、勿体無いだろ?」
渡されたのは、カゴいっぱいに積まれた、ほつれたり、汚れている服だった。ローガンは、一枚を手に取って広げた。
「まだ着れる……」
たしかに勿体無い。ほつれているところを縫って、洗濯をすれば、まだ着ることができそうだ。
問題は。
「あの、裁縫道具はどこにあるんですか?」
「あー、確かタンスにしまっていたような」
「洗濯桶は?」
「庭にあったような気がする」
「そもそも干すところは?」
「窓辺に干しときゃいんじゃね?」
「……」
これである。宝探しでもできそうな、物が雑多すぎる部屋で、目当てのものを探すのは骨がいる。というかそもそも、どうしてこの人は机で寝ていられるんだ? ベッドは存在するのだろうか?
「……掃除しましょうか」
ランゼスが傭兵業に出ている間、ローガンはせっせと家を掃除した。初めは掃除道具すら見つからなかった。
「庭に物を置いていいですか?」
「いいぞー」
発掘した食卓で夕食を一緒に食べながらそうやって聞くと、なんともランゼスらしい返事が返ってきた。
「汚したくないものとかありますか? 家族との思い出の品とか。あったら置かないので」
ローガンはそっと、服の上から、獣の角を握った。二百年前、討伐された獣の角を、首飾りに加工しているのだ。
だが、ランゼスは、これにも普段「らしさ」で、首を横に振る。
「特にないよ。家族とか、俺にはいなかったからさ」
「……すみません」
「だからお前を拾えて良かったと思ってるよ……便利な家事係もできたことだしな!」
「食べてる時に頭を撫でないでください!」
「箒が見つかったんですよ!」
ローガンが目を輝かせてそう言うと、ランゼスは、「なんだと!?」と、まるで大ニュースを聞いたかのような反応をしてくれた。
「それはすごいな! 国王陛下に尽忠報国の士として褒め称えてもらわないと! そんな……じゃあ、ちりとりと洗濯桶が見つかったらどうなるんだ? 俺たちは、貴族になってしまうというのか!」
大袈裟すぎる反応に、ローガンは口元を緩ませた。そして、口元に手をあてた。さっ、とランゼスを見れば、ランゼスは「はっ」とした顔をして、目を逸らしていた。が、すぐにローガンの方を向いて、笑った。その笑みは、豪快であり、少しだけ柔らかかった。
「俺も笑ってんだからさ、お前が笑って悪い道理なんて、無いと思うんだけどな」
というか、お前を笑わせようと思ってあの国王持ち上げてんだけど? とランゼスは口を尖らせる。
ーーあの国王。
ローガンの故郷は、不幸な火事として片付けられた。思うところがあるローガンは、悪口と知りながらも。
「ふふ、あはは」
今度は、口元を隠さずに笑ったのだった。




