前世で習っていないこと
「だから、ね、ローガン、クロエ。この子に、魔力を返してあげませんか?」
ルースは、つとめて穏やかに、かつての部下二人にこう言った。二人からは、不満や不安がダダ漏れだった。
「残念ながら、ランゼス様」
「僕達は、魔力を返したくはありません」
「……そうですか」
まったく、前世と違ってワガママを言ってくれるのはこちらとしてはありがたいことだが。溜め息を吐くふりをして、ルースは二人を横目で観察して。
次の瞬間。
クロエが振るおうとした杖を手のひらで押すことで、王族に向いていた照準をずらし、ルースを防ごうと動いたローガンの背中を、クロエごと蹴り飛ばす。
「だから、貴方たちを拾って育てたのは誰だと思ってるんですか?」
咄嗟の連携としては百点満点だが、動きは手に取るようにわかる。床に倒れ伏し、咳き込む二人を覗き込んで、ルースは「あちゃあ」と呟いた。
「せっかく会えたのに……」
「きっと私のことが嫌いなんだぁっ、ぐすっ」
二人とも、戦意を喪失したのは良いが、その瞳はぐずぐずに潤んでいた。
「おおおお、落ち着いて。ごめんなさい、痛かったですよね? 特にローガン。ニアさんの体だということを忘れてました」
よしよしと背中をさすってやると、ニアの姿をしたローガンが天井を向いて大声で泣き始めた。
「こっ、こんなのランゼス様じゃないぃ……ランゼス様だったらっ、ごめんごめんて、笑って誤魔化すのに!」
「俺を何だと思ってるんですか。ね、クロエ。クロエも泣き止んで?」
「嫌です……こうしたら、ランゼス様が構ってくれるし……」
「こ、こんなのクロエじゃない……!」
ルースはおろおろとして、周囲に助けを求めたが、ふいっと目を逸らされた。
「こんなの、前世でも習ってない……! バカ兄貴は最後までカッコつけだったから、ちょっと肋折っても泣かなかったのに……!」
鈴成も複雑骨折しても泣かなかったので、泣く側の気持ちがわからない。だが、前世での知識は告げていた。これでは、自分は最低最悪の野郎である、と。
「この場の関係者全員殺してっ、その後にあの女を殺して、ランゼス様を独り占めできると思ったのに」
「ランゼス様が強すぎて殺せなかったし、学園長という立場ではどう考えても不利」
「……」
泣きながらおぞましいことを呟く二人を見て、ルースは前世の知識をビンタしていた。
「……ほら、立って。まずはローガンからですね、魔力を返す前に、どうしてそれが嫌なのか、聞いてあげますから。うん、俺は心が広いですね」
「横暴だ、それでこそランゼス様っ、ぐすっ」
そうして、ローガンは話し始めた。あの日、どうして、ランゼスを裏切ったのかを。




