かしこい王様
やっちゃったものはしかたない
昔々あるところに、かしこい王様がいました。
その王様は、とても高潔な人で、ずるが嫌いでした。
ところで、王様は、歴代の王様から、自分を賢君に見せる術を受け継いでいました。
それが、“始原の獣”。人間を殺して食べる代わりに、その血を魔力という未知の力に変えてくれる獣です。
この獣は、一度死んで生まれ変わるまでに時間がかかりますが、王様の治世でちょうど、生まれ変わりの時期でした。
この獣の力を使えば、王様は、とても戦争上手に見られることでしょう。隣の国を一夜にして滅ぼすのも、難しくはありません。
けれど王様は、とても高潔な人物でしたので、その獣を使って自分の評判を上げようとは思いませんでした。
だから、“始原の獣”と関わりの深い、アルフリート一族がいる村に、野盗と見せかけて火をつけさせたのです。人々の悲鳴を聞き、肉の焼ける臭いを嗅ぎながら、王様は、ほっとしていました。
「これで、獣が現れることはあるまい」と。
しかし、王様の思いとは裏腹に、“始原の獣”は、王国に現れてしまったのです。各地で人を食べる獣は、人々を恐怖に陥れました。
まもなく王様は、どうして始原の獣が現れてしまったのかの理由を知りました。とある一人の傭兵くずれが、アルフリートの一族の生き残りを拾って育てていたのです。
王様は、とても悩みました。七日七晩、目を閉じては悪夢を見、目を開けていても悪夢を見ました。
目を充血させるほどに追い詰められた王様が考え出したのは、このまま“始原の獣”に、国民を食べさせることでした。
「すでに犠牲者は出ている……だが、今殺せば、魔力はすぐに尽きてしまう」
王様は、獣に食べられた人間の命を、無駄にしたくはありませんでした。すぐに獣を殺してしまえば、歴代の王様たちがやってきたことを、そっくりそのままなぞるだけ。手に入るのは、小石ほどの魔力でしかありません。
けれど、それを知っているのは、王様と、ごく一部の人間だけです。突然現れた不可思議な獣に対して、王様は何か手を打たなければなりませんでした。
そこで、国中におふれを出しました。
“勇気あるもの、この獣を討ち取られたし”。
このおふれは、あっという間に国中に広がり、王様が考えた通り、勇気ある人たちが、たくさん獣の犠牲になっていきました。
それは当たり前のことでした。
なぜなら獣は、アルフリートの魂に惹かれてやってきて、アルフリートの魂で死んでいくからです。アルフリートの血を引くものでしか、獣は殺せないからです。
それなのに。
「それなのに、それなのに、それなのに!!」
王様は、髪が抜けるほどにかきむしりました。鏡の中の王様は、もう、以前の王様ではありませんでした。
王様は、ぶつぶつぶつぶつと、鏡の中に向かって、ひとりごとを呟きます。
「どうしてあの男は、始原の獣を殺せたんだ、殺したんだ! あと少し、あと少しで……国民の犠牲を無駄にしないで済んだのに……! ああ、そうだな、そうしよう」
鏡の中の王様は、鏡の外の王様に、とっておきの解決方法を教えてくれました。
「英雄を殺せば、いいんだ」




